2024年01月12日

2024年の原油相場を展望する~注目ポイントの整理と見通し

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

2.日銀金融政策(12月)

日銀の長期国債・ETF買入れ額 (日銀)維持
日銀は12月18日~19日に開催した金融政策決定会合において、金融政策の現状維持を決定した。長短金利操作(イールドカーブコントロール、以下YCC)、資産買入れ方針ともに変更なしであった(全員一致での決定)。

景気判断も前回と大差なく、フォワードガイダンスにも変更はなかった。
 
会合後の総裁会見において、植田総裁は「基調的な物価上昇率が、(中略)物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくという見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まってきているとは思う」と述べ、サービス価格の上昇を強調しながら物価情勢について前向きな見方を示した。ただし、基本的なスタンスとしては、「先行き、賃金と物価の好循環が強まっていくか、なお見極めていく必要がある」、「物価安定目標を十分な確度を持って見通せる状態にはまだ至っていない」と従来の見方を踏襲し、未だ見極め段階にあるとの認識を示した。

そして、「十分な確度」に高まったかを判断する材料やイベント、とりわけ春闘での回答を待つ必要性については、「どの時点のどのデータ、あるいはどういうイベントをもって十分だ十分でないということを、それだけで決定してしまうということではなくて、(中略)総合判断にならざるを得ない」と明言を避けた。

今後の焦点に一つとなっているマイナス金利政策を巡り、その副作用については、「金融機関収益とか金融仲介にいくばくかのマイナスの影響を持っているということは否めない。ただ、(中略)決定的にまずい事態を起こしているということでもない」との認識を示し、その副作用を甚大・喫緊の課題とは見なしていないことを示唆した。

また、緩和の縮小・正常化段階における市場への影響については、「様々なボラティリティの上昇等がマーケットで起こるということが必ずしも排除できない。そういうことに対する対応余地を残しておくべきかどうか、おくべきと考えたらどのように残しておくかということは中長期的な考慮すべきポイントの一つ」との見解を示した。

これまでの買入れで積み上がっているETFの処分法については「まだ決めかねている」としつつも、「適正な対価で処分するということ、それから日銀の損失、それから市場のかく乱、これを極力避けるという方法を選びたい」との方針を示した。
 
なお、12月上旬の国会答弁に植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言し、市場で早期の金融政策正常化観測が高まったことを巡り、発言の趣旨を問われた場面では、総裁は「今後の仕事の取り組み姿勢一般について問われたので、二年目にかかるところなので、一段と気を引き締めてというつもりで発言した」と回答し、マイナス金利解除に向けた意気込みを表明したとの見方を否定した。
 
その後、12月27日には、12月MPMにおける「主な意見」が公表された。

金融政策に関する政策委員の意見としては、「2%の物価目標の持続的・安定的な実現の確度は更に高まってきており、金融正常化のタイミングは近づいている。拙速はよくないが、「巧遅は拙速に如かず」という言葉もある。物価高が消費の基調を壊し、物価安定目標の実現を損なうリスクを避けるためにも、タイミングを逃さず金融正常化を図るべきである」、「物価が過度に上振れて、急激な金融引き締めが必要となるリスクは小さいが、そのリスクが顕在化した場合のコストは甚大である」、「将来の出口を見据え、イールドカーブ・コントロールやマイナス金利政策について、効果と副作用を見極めたうえでその在り方を議論する必要がある」などと、早期の正常化に前向きとみられる意見が目立った。

しかし、一方で、「2%目標を実現するためには、名目賃金の上昇モメンタムが一段と強まっていくことが必要である。このため、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支えることが重要である」、「現在、慌てて利上げしないと、ビハインド・ザ・カーブになってしまう状況にはなく、少なくとも来春の賃金交渉の動向を見てから判断しても遅くはない」、「YCC柔軟化により、イールドカーブが歪む状況が生じにくくなっている。インフレの基調が過度に強まる状況にならない限り、賃金と物価の好循環を通じた2%目標の実現の見極めは十分な余裕を持って行うことができる」など、慎重に見極めていく必要性を主張する意見も複数見受けられ、政策委員の間でまだかなり温度差が残っている印象を受けた。
(今後の予想)
今後の金融政策について、植田日銀は、全体として、物価目標の持続的・安定的達成への自信を強めつつあり、近い将来における大規模緩和の正常化を指向していることも明白だ。

しかし、将来振り返ってみて「拙速であった」と評価されることを避けるため、また、政策委員会内部の意見集約を図るために、しばらくはデータを見極める時間帯になると見ている。年初の能登半島地震発生を受けて、その影響の見極めにも時間を要する。その後、今年4月に、完全ではないにせよ、春闘での高めの賃上げ実現を確認したうえで正常化へと舵を切ると見ている。

日銀は金融政策正常化の手順を明らかにしていないが、このタイミングで、YCCの解除(現在「ゼロ%程度」としている長期金利操作目標を取り下げ)とともに、マイナス金利政策を撤廃、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活すると予想している。
 
ただし、米経済は今後減速に向かい、4月の段階では十分な持ち直しがまだ確認できていない可能性が高い。また、春闘での賃上げがどれだけ物価に波及していくかについても不透明感が残っているだろう。物価上昇率が先行き2%から下振れするリスクも相応に残る。従って、正常化へと舵を切るものの、あくまで非常時の対応としての極端な緩和策を取りやめる措置に留めると見ている。長期金利の上限目途(1.0%)や指値オペの枠組み、国債買入れは継続するとともにゼロ金利政策の継続を強調することで、市場金利の過度の上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担わせると想定している。

3.金融市場(12月)の振り返りと予測表

3.金融市場(12月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
12月の動き(↘) 月初0.7%台近辺でスタートし、月末は0.6%台前半に。
月初、弱めの経済指標などを受けた米利上げ打ち止め観測が波及し、6日に0.6%台半ばまで低下。しかし、その後は入札の不調や植田日銀総裁による「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」との発言を受けた早期の政策正常化観測によって急上昇し、11日には0.7%台後半に達するなど荒い動きに。月の半ばには、FOMCにおけるドットチャート引き下げや、パウエル議長会見で利下げの議論が行われたことが明らかにされたことなどを受けて米国の早期利下げ観測が高まり、金利低下圧力に。さらに日銀MPMで早期の正常化が示唆されなかったことも加わり、20日には0.5%台半ばまで低下した。下旬には持ち高調整的な国債売りが金利上昇圧力となったものの、日銀の早期正常化観測後退による金利低下圧力もあって低迷、月末は0.6%台前半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(12月)
(ドル円レート)
12月の動き(↘) 月初147円台後半でスタートし、月末は141円台半ばに。
月初、米利上げ打ち止め観測が高まるなか、植田日銀総裁の上記「チャレンジング」発言を受けて円高が進み、8日に144円付近に。その後、11日には一旦145円台まで戻したものの、FOMCの結果を受けて早期の米利下げ観測が強まったことで、14日には142円台に下落した。19日には日銀MPMを受けて早期の正常化観測が後退し、一旦143円台を回復したものの、経済指標鈍化を受けて米利下げ観測が強まったことで、22日には142円を割り込んだ。月終盤も米国の早期利下げ観測が燻るなかドルの上値が重い展開が続き、月末は141円台半ばで終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
12月の動き(↗) 月初1.08ドル台後半でスタートし、月末は1.10ドル台半ばに。
月初、1.08ドル台で推移した後、ECB高官のハト派的な発言や独経済指標の悪化を受けて、6日に1.07ドル台後半に下落。しばらく小動きの時間帯を挟んだ後、FOMCを受けた早期の米利下げ観測の高まりや、ECB理事会後の会見でラガルド総裁が利下げの議論実施を否定したことでユーロが急上昇し、14日には1.09ドル台に乗せた。下旬には経済指標の鈍化などを受けて米利下げ観測がさらに強まったことでユーロがさらに上昇し、28日には1.11ドルを突破。月末も1.10ドル台半ばで終了した。
金利・為替予測表(2024年1月12日現在)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2024年01月12日「Weekly エコノミスト・レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2024年の原油相場を展望する~注目ポイントの整理と見通し】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2024年の原油相場を展望する~注目ポイントの整理と見通しのレポート Topへ