2023年12月22日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について 2023-欧州大手保険グループの開示の状況とFRCのレビュー-

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3|Generali

貨幣の時間価値
IFRS第17号は、貨幣の時間的価値及びキャッシュ・フローに関連する金融リスクがキャッシュ・フローの見積りにまだ含まれていない限りにおいて、それを反映させるために予想キャッシュ・フローの見積りを調整することを要求している。

この原則が規定する市場整合的なアプローチを遵守すべく、当グループは、保険契約及び再保険契約に適用する割引率を定義するために、適切な場合にはソルベンシーIIの枠組みと整合的なボトムアップ・アプローチを適用する。詳しくは、IFRS第17号については、市場整合性の要件を満たすために、有配当契約と無配当契約の両方について、リスク中立的なアプローチを適用するというのが当グループのポジションである。この観点から、IFRS第17号割引曲線は、ポートフォリオの各通貨について、以下の合計として決定される。

・リスクフリー基本曲線
・非流動性プレミアムの調整(いわゆるIFRS第17号調整)

リスクフリー基本曲線に関しては、このアプローチはパラメタリゼーションと現行のソルベンシーIIの手法に沿ったものである。特に、同じ補外アルゴリズム(即ち、スミス・ウィルソン法)が適用され、全ての通貨について同じ収束率(即ち、UFR)が使用されている。

IFRS第17号の調整を決定するために、参照資産ポートフォリオの平均スプレッドを考慮し、信用リスクの構成要素(即ち、リスク補正)及び負債のポートフォリオに対する裏付け資産のキャッシュ・フローの潜在的な不整合の影響を除外するように調整する。特に

・GMMとPAAの契約については、同じソルベンシーII調整(即ち、ボラティリティ調整)が用いら   
れる。

・VFA契約の非流動性プレミアムの調整は、生命保険契約をより適切に経済的に表示し、市場スプレッドの変動により貸借対照表及び損益計算書に人為的な変動を生じさせないようにするため、各社ごとに調整される。VFA契約の非流動性プレミアムは、以下の事業体固有の特性に基づいている。

1. 資産構成(ソルベンシーIIで考慮されているEIOPA基準ポートフォリオの代替)
2. 資産と負債のマッチングをよりよく反映させることを目的としたデュレーション・レシオ(ソルベンシーIIで要求される65%の代替)。

「割引率」の項には、当グループが事業を展開している主要市場のゼロ・クーポンの割引率に関する詳細が、VFAとVFA以外のポートフォリオに分けて記載されている。

リスク調整
リスク調整(RA)は、非金融リスクから生じるキャッシュ・フローの額と時期について企業が負担する不確実性を捕捉する保険負債の構成要素に相当する。リスク調整を評価するにあたり、当グループは以下のリスクの範囲を考慮する。

・生命保険及び医療保険の引受リスク(死亡率及び死亡率カタストロフィ、長寿、解約、罹患等)

・損害保険引受リスク(即ち、保険料リスク及び準備金リスク、解約リスク及びCATリスク)

・経費リスク

グループRAは、事業体レベルのリスク分散のみを反映しており、異なる事業体間及び生命保険・損害保険セグメント間の分散によるベネフィットは反映されていない。

リスクマージンを定量化するために資本コスト法が適用されるソルベンシーIIの枠組みとは異なり、IFRS第17号はリスク調整を計算するための特定の方法を規定していない。この観点から、当グループはRAをPVFCF(将来キャッシュ・フローの現在価値)の確率分布の75パーセンタイルにおけるVaRと定義し、ソルベンシーII内部モデル用に開発された方法論と計算モデルを活用している。したがって、基礎となるショックの較正については、いわゆる「1年ビュー」を用いており、いずれにせよ、キャッシュ・フロー予測全体に適用している。

比較のため、「1年」アプローチを採用している当グループが適用している75パーセンタイルは、グループレベルでは「終局」ビューに基づいて決定された以下のパーセンタイル、即ち、負債のデュレーションと整合的な、複数年のホライズンにおけるキャッシュ・フローのボラティリティを反映したリスク分布を考慮して決定されたパーセンタイル、と同等であると推定されることに留意されたい。

・生命保険セグメントに対しては60パーセンタイル-将来キャッシュ・フローが正規分布していると仮定した場合

・損害保険セグメントに対しては70パーセンタイル-損害保険引受リスクの「終局」分布から導かれる。

4|Aviva

(e)将来キャッシュ・フローの見積り
iii.金融上の前提
割引率
将来キャッシュ・フローの見積りには割引が適用される。当グループは、年金を除く全ての生命保険・損害保険契約について、ボトムアップ割引率を採用している。年金については、年金債務の特性をより適切に反映させるため、トップダウン割引率を採用している。その他、損失リスクのある契約や、キャッシュ・フローが原資産のパフォーマンスに依存する契約(ユニットリンク型、利益連動型等)については、ボトムアップ方式を採用することにより、判断の手間を少なくすることができる。

トップダウン割引率
割引率は、負債の特性を反映した適切な基準ポートフォリオの公正価値に暗黙的に含まれる利回りから決定される。基準ポートフォリオと負債のキャッシュ・フローの差異について調整が行われており、これには、市場参加者が信用リスクに対して必要とする報酬を反映したデフォルト引当金が含まれる。

年金契約のCSMは、契約の初期認識時に新契約のために発生すると予想される資産に基づくロックイン割引率を使用して測定される。その後の履行キャッシュ・フローの測定では、参照ポートフォリオは、負債のポートフォリオに一致するように保有される資産に基づいている。最近引き受けられた契約については、適切な資産がまだ調達されていない負債に対して調整が行われる。

ボトムアップ割引率
割引率は、リスクフリー利回りの算出に用いた金融資産と負債キャッシュ・フローとの流動性特性の差異(非流動性プレミアム)を調整したリスクフリー利回りとして決定される。

非流動性プレミアムは、カバードボンドのインデックスにおけるリスクフリー利回りに対する現在のスプレッドの割合として決定される。適用される割合は、契約者が契約を失効又は解約する傾向と能力を含む負債の流動性特性を反映している。例えば、解約が不可能なストラクチュアド・セツルメント(定期償還年金等)の場合は100%、契約者が通常はユニット価格の契約を即時に解約できるユニットリンク契約の場合は0%である。その他の契約については、中間の割合が適用される。

インフレ想定
将来のインフレ想定は、契約上インフレ指数に連動する契約者給付又は外部委託維持費用に適用される場合、金融上の想定として扱われる。

金融前提の変動の表示
当グループは、金融上の想定変更の影響について、CSMを調整するVFA契約の変動手数料の変更に係るものを除き、損益計算書上で認識している。

(f)リスク調整
リスク調整は、非金融リスクから生じる将来のキャッシュ・フローの額及び時期に関する不確実性を受け入れるために当グループが必要とする補償を反映している。リスク調整の計算は、非金融リスクのソルベンシーIIの観点を活用し、保険期間全体のビューを考慮し、リスク間の分散を含め、当グループの価格設定及び資本配分の枠組みに合わせて調整される。

現在又は過去のサービスに関連するリスク調整の変化は、損益計算書の保険収益に認識される。GMM及びPAA契約のリスク調整の割引の影響は、分割され、保険契約からの純金融費用に認識される。

5|Zurich

割引率
当グループは、発行した保険契約及び保有する再保険契約の殆どのグループについてボトムアップ割引率を適用している。ボトムアップ割引率は、リスクフリーレートに加え、該当する場合には非流動性プレミアムを用いて構築される。

リスクフリーレートは、(再)保険契約グループの基礎となるキャッシュ・フローの通貨における市場金利(スワップレート又は流動性の高いソブリン証券の利回り)を参照して決定される。キャッシュ・フローの予想時期が各通貨のイールドカーブの流動性の高い部分(最終流動性点)を超えるときはいつでも、リスクフリーレートは、広く受け入れられている外挿技術(スミス・ウィルソン・アルゴリズム)を用いて、長期金利(UFR)に収束するように外挿される。非流動性プレミアムは、非流動性金融商品(社債等)の観察可能な市場スプレッドを参照して決定され、信用リスクを除去するために適切に補正される。

非金融リスクに係るリスク調整
非金融リスクに係るリスク調整とは、非金融リスク(保険リスク及び解約リスクなどその他の非金 融リスク)に起因する保険契約グループのキャッシュ・フローの額と時期に関する不確実性を負担するために、当グループが必要とする補償のことである。リスク調整とは、当グループが、非金融リスクから発生する可能性のある結果の範囲を持つ負債を履行することと、保険契約と同じ期待現在価値を持つ固定キャッシュ・フローを生み出す負債を履行すること、との間で無関心でいるために必要となる補償を反映した、将来キャッシュ・フローの見積りに対する明示的な調整である。

当グループは、当グループの目標スイス・ソルベンシー・テスト(SST)比率に基づき、継続事業ベースで事業を継続するために必要な資本の水準に関する当グループの内部見解を考慮し、信頼水準法を用いてリスク調整額を見積もる。リスク調整は、定義された目標信頼水準におけるVaRから、将来キャッシュ・フローの分布のシミュレーションを用いて将来キャッシュ・フローの期待値を差し引いたものとして調整される。この分布は、IFRS第17号のリスク調整の異なる目的を考慮して若干の修正を加えた上で、SSTの枠組みとモデルに基づいている。

長期の(主に生命)(再)保険契約と短期の(主に損害)(再)保険契約のキャッシュ・フロー分布には、それぞれ別の目標信頼水準が適用される。信頼水準は以下の範囲内にある。保険期間の短い(再)保険契約については74~79%、保険期間の長い(再)保険契約については90~95%である。

当グループが使用している内部資本モデルに従い、これらの範囲は外部再保険を控除したベースで定義されている。保有する再保険契約のリスク調整は、発行する保険契約のリスク調整と整合的に決定される。

当グループは、非金融リスクに係るリスク調整額の変動を、保険サービスの結果と保険金融収益又は保険金融費用の間で、また後者については損益とその他の包括利益の間で区分しており、割引率の変動に起因するリスク調整額の変動はその他の包括利益に表示される。

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中村 亮一

研究・専門分野

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