2023年11月24日

中国経済の見通し-2023年は前年比+5.2%。24年は同+4.6%、25年は同+4.4%と段階的に減速

三尾 幸吉郎

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1.中国経済の概況

中国国家統計局が10月18日に公表した第3四半期(7-9月期)の経済成長率は実質で前年同期比+4.9%と、前期(4-6月期)の+6.3%から伸びが減速した。他方、季節調整後の前期比では+1.3%と、前期(同+0.5%)から加速している(図表-1)。

前期は、ゼロコロナ政策解除のリバウンドが早々に一服して景気の停滞感が強まったが、一段の悪化には歯止めがかかっているようであり、一部には明るい材料もみられつつある。例えば、家計部門に関して、1人当たり実質家計消費支出の伸びは、2023年に入ってから3四半期連続で可処分所得の伸びを上回っており(図表-2)、消費性向が上向きつつあるようだ。また、他方、企業部門に関しても、業績不振は最悪期から脱却しつつあるとみられ、工業企業設備稼働率も、水準としてはまだ十分ではないものの、前期から今期にかけて一段と高まっている(図表-3)。

ただし、総じて力強さを欠く状況にあることは変わらない。10月の消費者物価(CPI)は、前年同期比▲0.2%と、7月に続いてマイナス圏となった。食品・エネルギーを除いても+0.6%と低水準にある(図表-4)。また、工業生産者出荷価格(PPI)も同▲2.6%と、昨年10月以来13カ月連続でマイナス圏にある。第3四半期のGDPデフレーター(GDPの名目伸び率-実質伸び率)は、前期に続き2四半期連続でマイナスとなったが、年末にかけてもデフレ入りの懸念は依然くすぶり続けるだろう。
(図表-1)GDP成長率/(図表-2)1人当たり家計可処分所得・消費支出
(図表-3)設備稼働率/(図表-4)CPI・PPI

2.需要の動向

2.需要の動向

第3四半期のGDP成長率における最終消費(個人消費+政府消費)の寄与度は、+4.6%PTであった(図表-5)。個人消費は、ゼロコロナ政策が解除された後、盛り上がりを欠いた状況が継続している。個人消費の代表指標である小売売上高について、前年比伸び率の推移を見ると(図表-6)、夏場以降、緩やかながら持ち直しているものの、10月に関しては、昨年のゼロコロナ規制の強化により落ち込んだ反動によるところが大きい。それも考慮すれば、依然勢いは弱い。

総資本形成(=総固定資本形成+在庫変動、≒投資)の寄与度は、+1.1%PTであった(図表-5)。投資の代表指標である固定資産投資について、前年比伸び率の推移を見ると(図表-7)、7~9月にかけて低水準ながら堅調に推移していたものの、10月に入り減速した。不動産開発投資が依然前年比1割の減少を続けているほか、インフラ投資も7月に落ち込んで以来低調である。また、製造業の設備投資も多くの業種で減速している。

純輸出の寄与度は、▲0.8%PTと、前期(▲1.1%PT)からマイナス寄与が縮小した(図表-7)。輸出入の推移を見ると(図表-8)、輸出入とも、7月を底に持ち直しつつあるが、輸出に関しては、10月には9月から減少幅が小幅に拡大しており、改善が足踏みしている。
(図表-5)需要項目別の実質GDP成長率寄与度/(図表-6)小売売上高
(図表-7)固定資産投資(業種別)/(図表-8)輸出入(ドル建て)

3.産業の動向

3.産業の動向

第3四半期の産業動向を概観すると(図表-9、10)、第1次産業は前年同期比+4.2%と前期(同3.7%増)から加速した。他方、第2次産業は前年同期比+4.6%で前期(同+5.2)から減速した。その内訳をみると、「製造業」、「建築業」は、それぞれ同+4.5%、同+6.6%と前期(同+4.9%、同8.2%)からいずれも伸びが低下した。また、第3次産業は前年同期比+5.2%と、GDP成長率を押し下げる主因となった。その内訳を見ると、「宿泊飲食業」は同+12.7%増と、高水準ながらも前期(同+17.5%)から低下した。「情報通信・ソフトウェア・IT」も同+10.3%増と、2桁は維持したものの前期(同+14.6%)から減速している。一方、第3次産業の中で唯一「不動産業」だけは同▲2.7%とマイナス成長となった。前期の同▲1.2%から一段と減速しており、不動産市場の低迷長期化が依然として景気の不安要因となっていることがうかがえる。
(図表-9)産業別の実質成長率(前年同期比)(図表-10)GDP産業構成(2022年)
なお、関連する月次指標について前年比伸び率の推移を見ると(図表-11、12)、工業生産は年初来緩やかながら回復基調にある。他方、サービス業生産は昨年の反動で年初から5月にかけて高い伸びをみせた後、その影響がはく落した6月には伸びが低下したが、再び持ち直しつつある。もっとも、上述の小売売上高と同様、10月については昨年のゼロコロナ規制の影響を割り引くと、改善の動きは一進一退の状況だ。
(図表-11)工業生産/(図表-12)サービス業生産

4.経済政策

4.経済政策

財政政策に関して、インフラ投資は相対的に高い伸びを維持しているものの、7月に入り減速している(図表-13)。インフラ投資の財源のうち、特定プロジェクトに用いられる専項債券の発行は9月時点で昨年並みの水準まで完了したが、地方政府による土地使用権売却収入が昨年来減少し続けており、資金制約がボトルネックになっている可能性がある(図表-14)。
(図表-13)インフラ投資/(図表-14)土地使用権売却収入
金融政策に関しては、3月に預金準備率を、6月に政策金利(リバースレポ金利およびMLF(中期貸出ファシリティ)金利)を引き下げた後、8月に再び政策金利を引き下げた(図表-15)が、それ以降は、追加の措置はとられていない。資金供給に関する指標(図表-16)については、前年比の伸びが下げ止まっており、社会融資総量は地方債発行が進んだことを受け、10月に伸びが加速した。

注目点としては、10月24日に閉会した全国人民代表大会常務委員会第6回会議における国債増発の承認が挙げられる。成長率については、1~9月の年初来累計で+5.2%となっていることから、今年の成長率目標である+5%前後の達成のハードルは下がったが、不動産市場が依然不安定で、景気回復のけん引役が不在という状況下、財政による需要喚起に踏み出したものとみられる。これを受け、利下げはいったん様子見姿勢に変わると考えられるが、来年にかけて1兆元規模の特別国債が順次発行される予定であることから、これに歩調を合わせて預金準備率の引き下げは行われる可能性がある。
(図表-15)政策金利/(図表-16)M2・社会融資総量
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三尾 幸吉郎

経済研究部

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