2023年11月21日

インドの保険監督規制を巡る動向2023-IRDAIによる規制改革等の状況(その3)-

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1―はじめに

インドの保険監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of Indiaインド保険規制開発局)による各種の規制改革を巡る状況については、2022年から2023年初頭における動きについて、保険年金フォーカス「インドの保険監督規制を巡る動向―IRDAIによる一連の改革の状況(その1)―」(2022.11.9)、「インドの保険監督規制を巡る動向―IRDAIによる一連の改革の状況(その2)―」(2022.11.15)及び「インドの保険監督規制を巡る動向-IRDAIによる一連の改革の状況(その3)-」(2023.2.3)で報告した。

また、2023年に入ってからのその後のIRDAIの規制改革等の動きについては、保険年金フォーカス「インドの保険監督規制を巡る動向2023―IRDAIによる規制改革等の状況(その1)―」(2023.7.20)及び「インドの保険監督規制を巡る動向―IRDAIによる規制改革等の状況(その2)―」(2023.7.25)において、そのいくつかを抜粋して報告した。

今回の保険年金フォーカスでは、前回の報告以降のIRDAIを巡る動きについて、そのいくつかを抜粋して報告する。なお、ソルベンシーと会計を巡る動きについては、基礎研レポート「インドの生命保険会社の状況-2022年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-」(2023.10.26)において報告したので、今回のレポートには含めていない。

なお、以下の内容は、それぞれIRDAIが公表したプレスリリース資料等に基づいている1
 
1 プレスリリース資料の翻訳とそれに基づく内容の説明は、筆者の解釈と判断に基づいている。

2―保険諮問委員会の再構築

2―保険諮問委員会の再構築

IRDAIは、2023年8月23日に、保険諮問委員会の再構成を行うと公表2した。

再構成後の保険諮問委員会の委員は、以下の通りとなっている。

1. インド国立銀行総裁、2. 生命保険審議会執行委員長、3. 損害保険審議会執行委員長
4. 保険大学校長、5. インドアクチュアリー会会長、6. インド保険仲立人協会会長
7. インド保険調査員・損害査定協会理事長
8. Shri Arijit Basu、9. Shri L. Viswanathan、10. Dr. K. Srinath Reddy
11. Shri N.S. Kannan、12. Dr. Ajit Ranade、13. Shri Dhananjay N. Date
14. Shri Shrimohan Yadav、15. Ms. Padmaja Chunduru、16. Dr. Hari Shankar Gaur
17. Shri P.S. Jayakumar、18. Shri Rajendra Beri.

3―再保険規制の改正

3―再保険規制の改正

IRDAIは、2023年8月23日に、IRDAI再保険規則の改正3を行い、8月24日にプレスリリース4を行った。

これらの改正の包括的な目的は、インドの保険会社、インドの再保険会社、外国再保険支店 (FRB)、国際金融サービスセンター保険オフィス(IIO)に適用される既存の規制を調和させ、合理化することである。この包括的な規制の見直しは、インドを世界的な再保険ハブとして位置付けるための戦略的なものである。

これらの改正の主要な焦点分野は、以下のようないくつかの重要な側面を中心に展開されている。(1)拡大する需要に対応し、より大きなリスクを管理するのに役立つ再保険セクターの全体的な能力を高めるために協調的に努力する。(2)業界内の技術的専門性を向上させ、卓越性と革新の環境を促進することを目指す。(3)業界で活動する様々な事業体のコンプライアンス負担を軽減し、規制の状況をより効率的にナビゲートできるようにする。

この点に関して、以下のようないくつかの注目すべき変更が行われた。(1)FRBの最低資本規制を、過剰な割当資本を本国に送還するための規定とともに、100 crore Rsから50 crore Rsに引き下げる5。(2)以前は6段階にわたっていた優先順位を4段階に合理化する。(3)再保険プログラムのフォーマットを簡素化、規制当局の報告要件を合理化し、明確性と有効性を向上させた。

これらの改正の重要な側面は、インドを世界的な再保険ハブとして位置付けるという、より広範な目標と整合的になっている。IRDAIは、国際金融サービスセンター機構(IFSCA)と協力して、従来のインド市場の内外で再保険活動の成長に資する環境を整備することを目指している。

IIOの規制枠組みは、二重のコンプライアンスを排除し、より大きな金融エコシステムへのシームレスな統合を促進することを目的として、IFSCA規制と整合させている。改正されたIIOの優先順位6は、規制の簡素化とFRBの配置の改善と相まって、より競争的な環境を促進する。

結論として、IRDAIによって導入された改正は、インドの再保険の状況における重要な飛躍を示している。規制を簡素化し、競争力を強化し、世界の金融サービスの動向に合わせることで、これらの改正は、インドを主要な世界的な再保険ハブとして確立するという規制の意図を示している。改正が施行され、インドの再保険市場が発展するにつれて、保険セクターは成長の加速、国際的な認知度の向上、全体としてより強固なエコシステムを目の当たりにすることになる。
 
3 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=3791151
4 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=3790275
5 1 crore Rs(クロール・ルピー)は、1000万ルピー(2023年11月時点での為替レートによると約1800万円)であることから、約18億円から約9億円に引き下げられたことになる。
6 保険会社が出再する場合の再保険会社の優先順位において、従前はFRBsより後順位に置かれていたIIOsについて、一定  の条件を満たす場合にはFRBsと同順位に置かれる形に改正されている。

4-Bima Manthan

4-Bima Manthan

IRDAIは、2023年9月4日と5日に、保険及び再保険会社のCEOとの定期的な会議である第4回Bima Manthanを開催7した。IRDAIの公表資料によれば、その内容は以下の通りであった。

このフォーラムは、保険業界との継続的な交流と対話の礎となっている。深い議論、審議、洞察は、「2047年までに全ての人に保険を」の達成を目指して、インドにおける保険の成長と発展を推進するための共同の貢献を強調している。

会議では、保険セクターで普及している成長機会とそのような機会を活用するための戦略を目的とした活発な議論とプレゼンテーションが行われた。また、保険セクターにおけるエマージングリスクから革新的な商品開発、プロテクションギャップを埋めるための戦略、チャネルアプローチの刷新、保険へのアクセス拡大における技術の役割の強化に至るまで、幅広いトピックについて熱心な議論が行われた。参加者は深い議論を行い、ラストワンマイルに到達するための実用的な解決策を特定することを目的とした示唆に富んだプレゼンテーションを披露した。

さらに、保険業界の進歩と国家保険計画(SIP)を加速するための戦略も詳細に議論された。SIPは、国のいたるところで保険へのアクセスを拡大する目的で、州/UTが保険会社に割り当てられているラストワンマイルに到達するための主要なイネーブラー(他人の行動に力を貸すもの)となる。

リスクベース資本フレームワーク(RBC)、リスクベース監督フレームワーク(RBSF)及び国際財務報告基準(IFRS)の実施に向けた進展も議論された。RBCの下での最初の定量的影響度調査(QIS-1)が既に展開されており、RBSFの下での最初のパイロット演習も開始されていることが強調された。基準の通知後に実施されるIFRS採用のために概説されたグライドパス(運用方針を一定のルールにもとづき見直していくような戦略)も保険会社に説明された。業界は、将来の準備の整った原則ベースのアーキテクチャに移行するための強い熱意とコミットメントを示した。

また、保険の利用可能性、アクセシビリティ、手頃な価格の確保にも重点が置かれた。これに関連して、保険会社の地理的存在感を高め、アクセシビリティを向上させるためのチャネル戦略を強化するというダイナミックな要件と重要性に対応するために必要な様々なタイプの商品を理解し、全ての人のための保険の使命に向けて詳細な検討が行われた。

また、インド準備銀行(RBI)に登録されている自主規制機関であるマイクロ金融機関ネットワーク (MFIN)とSa-Dhan8のCEOは、金融包摂、マイクロ保険に関する視点を提供する保険業界と交流し、マイクロ金融機関(MFIs)、ノンバンク金融会社(NBFCs)、小規模金融銀行(SFBs)な どの幅広いネットワークと保険業界の間で共有できる相乗効果に焦点を当てた。彼らはまた、彼らが対象とする市場と、保険会社がそれを利用して国内の保険普及率を高める方法に光を当てた。

会議では、保険業界の基準を向上させ、イノベーションを促進し、保険がリスク軽減と金融安全保障のための重要なツールであり続けることを確保するための保険・再保険セクターの共同のコミットメントが再確認された。

 
7 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=3817916
8 インドにおけるマイクロファイナンスの分野において重要な役割を果たしている組織

5―サイバーセキュリティの学際常任委員会の設立

5―サイバーセキュリティの学際常任委員会の設立

IRDAIは、2023年9月14日に、サイバーセキュリティの学際常任委員会を設立することを公表9した。

2023年4月24日付でIRDAI情報・サイバーセキュリティガイドラインが公表された後、所轄官庁の承認を得て、サイバーセキュリティに関する常任委員会を構成することが決定された。この委員会は、既存又は新興の技術に内在する脅威を定期的にレビューし、保険業界のサイバーセキュリティ態勢とレジリエンスをさらに強化するために、IRDAI情報・サイバーセキュリティフレームワークの適切な変更を提案する。

委員会は、最高情報セキュリティ責任者、保険会社及び保険仲介会社の幹部、学者等の10人の委員で構成される。委員会は、必要に応じて、特定の問題の提案を検討するために外部委員を招聘することができる。

6―Bima Vahak ガイドラインの公表

6―Bima Vahak ガイドラインの公表

IRDAIは、2023年10月13日に、Bima Vahak ガイドラインと呼ばれる「IRDAI(Bima Vahak) Guideline 2023」を公表10した。これは、Bima Vahak と呼ばれる専門的な保険販売チャネルについてのガイドラインである。このガイドラインは、BimaVistaarと呼ばれる包括的な保険商品(生命、健康、財産の保障を提供するオールインワンの手頃な保険商品)の発売日から、発効となる。
1|ガイドラインの目的
・保険のインクルージョンを強化し、全ての村/Gram Panchayat(グラム・パンチャヤット)11での意識を高め、それによって、国の全ての隅々における保険の利用可能性とアクセシビリティを向上させることに特化した、女性中心の専門流通チャネルを確立すること

・地方のニーズを理解し、認識し、彼らの村/Gram Panchayatの地元の人々の信用と信頼を享受しているローカルのリソースを特定し、進展させること
 
11 「村議会」と訳され、インドの村の基本的な統治機関で、村の内閣の役割を果たす政治機関である。インドには約25万のGram Panchayatがあると言われている。
2|Bima Vahakとは
Bima Vahakとは、このガイドラインに基くサービスの提供に従事している、個人(個人Bima Vahak)又はインドのそれぞれの法律に従って登録された法人(法人Bima Vahak)である。
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中村 亮一

研究・専門分野

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