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2023年09月15日
欧州大手保険グループの2023年上期末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(比率の推移分析と感応度の推移)-
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4|Aviva
Avivaは会社ベースと監督ベースの2つのソルベンシー比率を開示している。
Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド2023年6月末で13.31億ポンド(2022年末で13.69億ポンド)、職員年金制度2023年6月末で4.37億ポンド(2022年末で3.94億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。それゆえ、会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、と述べている。
(1) SCR比率の推移
2023年上期末のSCR比率は、、2022年末の212%から10%ポイント低下して、202%となった。
この要因については、以下の通りとなっている。
・資本形成や市場・為替の影響により+6%ポイント
・配当により▲7%ポイント
・債務返済により▲4%ポイント
・その他の影響で▲5%ポイント(うち、自己株買いの影響が▲4%ポイント)
Avivaは会社ベースと監督ベースの2つのソルベンシー比率を開示している。
Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド2023年6月末で13.31億ポンド(2022年末で13.69億ポンド)、職員年金制度2023年6月末で4.37億ポンド(2022年末で3.94億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。それゆえ、会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、と述べている。
(1) SCR比率の推移
2023年上期末のSCR比率は、、2022年末の212%から10%ポイント低下して、202%となった。
この要因については、以下の通りとなっている。
・資本形成や市場・為替の影響により+6%ポイント
・配当により▲7%ポイント
・債務返済により▲4%ポイント
・その他の影響で▲5%ポイント(うち、自己株買いの影響が▲4%ポイント)
(参考)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。なお、Aegonは、2022年10月に、オランダの年金、生命保険、損害保険、銀行業務、住宅ローン組成業務をASRに移管して統合することで、オランダ第2位の保険会社を創設することを公表している2。
・英国のソルベンシーII比率は、2022年末に比べて、3%ポイント低下して166%となった。これは、市場の動きによる悪影響、グループ持株会社への送金、Aegon UKが発表したNBSアドバイザリー事業の買収の資金を供給するための英国中間持株会社への送金を反映している。
・米国のRBC比率は、2022年末の425%に比べて、2%ポイント増加して427%となった。市場の動向は RBC 比率にわずかなプラスの影響を与えたが、有利な株式市場からの恩恵はファンドのベーシスリスクによってほぼ相殺された。 一時的項目は、以前のガイダンスに沿って、戦略的資産への投資と年次前提更新によりマイナスの影響を及ぼした。なお、米国保険会社のRBC比率のソルベンシーII比率への換算については、毎年見直し、DNB(オランダ中央銀行)の了解を得ているが、2023年上期末のRBC比率427%はソルベンシーⅡ比率190%に相当していると報告されている。
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。なお、Aegonは、2022年10月に、オランダの年金、生命保険、損害保険、銀行業務、住宅ローン組成業務をASRに移管して統合することで、オランダ第2位の保険会社を創設することを公表している2。
・英国のソルベンシーII比率は、2022年末に比べて、3%ポイント低下して166%となった。これは、市場の動きによる悪影響、グループ持株会社への送金、Aegon UKが発表したNBSアドバイザリー事業の買収の資金を供給するための英国中間持株会社への送金を反映している。
・米国のRBC比率は、2022年末の425%に比べて、2%ポイント増加して427%となった。市場の動向は RBC 比率にわずかなプラスの影響を与えたが、有利な株式市場からの恩恵はファンドのベーシスリスクによってほぼ相殺された。 一時的項目は、以前のガイダンスに沿って、戦略的資産への投資と年次前提更新によりマイナスの影響を及ぼした。なお、米国保険会社のRBC比率のソルベンシーII比率への換算については、毎年見直し、DNB(オランダ中央銀行)の了解を得ているが、2023年上期末のRBC比率427%はソルベンシーⅡ比率190%に相当していると報告されている。
2 オランダ国内保険市場において、生命・損害保険の合計保険料ベースで第1位の保険会社はNN(Nationale-Nederlanden)であり、さらにAchmea、ASR、Aegonといった会社がこれに次ぐ保険料シェアを有している。なお、グローバル事業展開の差異を反映して、IAIS(保険監督者国際機構)によるIAIGs(国際的に活動する保険グループ)には、オランダからNNとAegonの2社が指定されている。一方で、例えばAchmeaはオランダの健康保険市場でも高いシェアを有している。
(2) 感応度の推移
Aegonは、2023年上半期の感応度について、英国と米国の数値は開示しているが、グループ全体の数値は開示していない。
グループ全体の数値について、2022年末は、基本的には2021年末と大きくは変わっていない。ただし、2019年末から2021年末にかけて大きく低下していた株式市場に対する感応度は、米国変額年金ポートフォリオに対する任意準備金の設定等により、株式市場+25%の影響が、2021年末の+2ptsからさらに低下して+0ptsとなり、株式市場▲25%の影響が、2021年末の▲8ptsからさらに低下して▲4ptsとなっていた。
なお、AegonはVA(ボラティリティ調整)やUFRに対する感応度も示している。
米国信用デフォールトの200bps引き下げによる影響が▲18%ポイントと大きなものとなっている。また、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響は▲3%ポイントに低下している。これは、長寿リスクに対するエクスポージャーが、米国の長期介護事業における保険料不足準備金のさらなる積立等の様々な商品ラインでの準備金の強化と金利の上昇により、2021年から減少していることによる。
Aegonは、2023年上半期の感応度について、英国と米国の数値は開示しているが、グループ全体の数値は開示していない。
グループ全体の数値について、2022年末は、基本的には2021年末と大きくは変わっていない。ただし、2019年末から2021年末にかけて大きく低下していた株式市場に対する感応度は、米国変額年金ポートフォリオに対する任意準備金の設定等により、株式市場+25%の影響が、2021年末の+2ptsからさらに低下して+0ptsとなり、株式市場▲25%の影響が、2021年末の▲8ptsからさらに低下して▲4ptsとなっていた。
なお、AegonはVA(ボラティリティ調整)やUFRに対する感応度も示している。
米国信用デフォールトの200bps引き下げによる影響が▲18%ポイントと大きなものとなっている。また、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響は▲3%ポイントに低下している。これは、長寿リスクに対するエクスポージャーが、米国の長期介護事業における保険料不足準備金のさらなる積立等の様々な商品ラインでの準備金の強化と金利の上昇により、2021年から減少していることによる。
6|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、2019年末までは、ソルベンシーIIと同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表してきた。ところが、2020年からはSST比率での開示を中心に据えることに変更している。Zurichによれば、SSTはZ-ECMよりも安定性をもたらし、資本は基本的には同じ方法で管理される。
ZurichのSST比率は、監督当局であるFINMAと合意した内部モデルで算出している。
(1) SST比率の推移
2023年上期末のSST比率は、以下の要因により、2022年末の267%から、4%ポイント低下して、263%となった。目標の160%超を大きく上回っている。なお、この比率には、公表されたドイツとチリのバックブックの売却や、ファーマーズ・ライフの契約中の個人生命保険事業の再保険の影響は反映されていない。
・成長によって必要となるSCR]増加分を超えた営業資本形成により、+14%ポイント
・金利や市場変動等の市場の影響で+1%ポイント(うち、金利の影響で▲1%ポイント、市場変動で+3%ポイント、為替で▲3%ポイント等)
・配当支払等の資本行動で▲14%ポイント
・半年ごとの生命保険複製ポートフォリオの更新に関連した前提及びモデル変更により、▲6%ポイント
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、2019年末までは、ソルベンシーIIと同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表してきた。ところが、2020年からはSST比率での開示を中心に据えることに変更している。Zurichによれば、SSTはZ-ECMよりも安定性をもたらし、資本は基本的には同じ方法で管理される。
ZurichのSST比率は、監督当局であるFINMAと合意した内部モデルで算出している。
(1) SST比率の推移
2023年上期末のSST比率は、以下の要因により、2022年末の267%から、4%ポイント低下して、263%となった。目標の160%超を大きく上回っている。なお、この比率には、公表されたドイツとチリのバックブックの売却や、ファーマーズ・ライフの契約中の個人生命保険事業の再保険の影響は反映されていない。
・成長によって必要となるSCR]増加分を超えた営業資本形成により、+14%ポイント
・金利や市場変動等の市場の影響で+1%ポイント(うち、金利の影響で▲1%ポイント、市場変動で+3%ポイント、為替で▲3%ポイント等)
・配当支払等の資本行動で▲14%ポイント
・半年ごとの生命保険複製ポートフォリオの更新に関連した前提及びモデル変更により、▲6%ポイント
3―まとめ
以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2023年上期末におけるSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告してきた。
2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、7年半が経過した。この間、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で各種の対応を行ってきている。
次回のレポートでは、資本管理に関係する取引等のトピックについて報告する。
2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、7年半が経過した。この間、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で各種の対応を行ってきている。
次回のレポートでは、資本管理に関係する取引等のトピックについて報告する。
(2023年09月15日「保険・年金フォーカス」)
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中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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