2023年09月15日

欧州大手保険グループの2023年上期末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(比率の推移分析と感応度の推移)-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2023年上半期決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

前回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告したが、今回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。

2―各社のSCR比率や感応度の推移

2―各社のSCR比率や感応度の推移

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2016年以降も、着実に営業利益を積み上げることに加えて、劣後債の発行等で資本の充実を図ってきている。

なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である1。加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期や感応度の対象時期も必ずしも統一されておらず、各社の考え方に基づいている。
 
1 現在行われているソルベンシーIIのレビューの中で、「感応度に関する情報の標準化」が提案されている。これについては、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(4)-助言内容(報告と開示)-」(2021.2.3)を参照のこと。
1|AXA
(1) SCR比率の推移
2023年上期末のSCR比率は、2022年末の215%から20%ポイント上昇して、235%になった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益による+16%ポイントのプラス効果
・配当支払や自社株買いによる影響が▲7%ポイント
・市場の影響が+4%ポイント
AXAのSCR比率推移の要因
(2) 感応度の推移
2023年上期末の感応度は、2022年末に比べて、金利の感応度が若干低下した一方で、株式の感応度が若干増加した。

なお、2020年末から、ユーロソブリンスプレッド(ユーロソブリン債とユーロスワップレートの差)とクレジット削減(社債の20%が3ノッチ格下げされる前提)に対する感応度が新たに開示されており、2023年上期末においては、それぞれが+50bps変化した時の感応度は、前者が▲9%ポイント、後者が▲5%ポイントとなっている。さらに、2022年末からはインフレーションスワップカーブ+50bpsに対する感応度が開示され、▲3bpsとなっている。
AXAの感応度の推移
2|Allianz
(1) SCR比率の推移
2023年上期末のSCR比率は、2022年末の201%から7%ポイント上昇して、208%となった(なお、技術的準備金に関する移行措置を適用した場合、235%になる)。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益による資本形成とビジネス進展による影響が+15%ポイント(税及び配当控除後で+5%ポイント)
・市場による影響は+4%ポイント
・経営行動及び資本管理の影響は▲9%ポイント、このうち、配当によるものが▲7%ポイント、自社株買いにより▲4%ポイント、債券取引で+2%ポイント。

将来の見通しについて、第3四半期で規制変更により、約▲3%ポイントが見込まれるものの、2023年を通じて、税及び配当差引後で10%ポイントの資本形成が想定されている。
AllianzのSCR比率推移の要因
また、自己資本とSCRへの影響は、以下の図表の通りとなっている。

自己資本は、営業利益により74億ユーロ、市場の影響により57億ユーロ増加し、12.5億ユーロの劣後債の発行等もあり、配当や自社株買いのマイナスの影響を相殺して、28億ユーロ増加した。一方で、SCRはほぼ横ばいだった。
Allianzの自己資本及びSCR推移の要因
(2) 感応度の推移
国債に対する信用スプレッドによる感応度は、2020年末が高かったが、2021年末に続いて、2022年末もさらに低下している。また、2019年末には株式の感応度が大きく上昇していたが、2022年末は若干低下している。2022年末から2023年上期末にかけては大きな変化はない。

なお、統合ストレスシナリオによる場合の感応度は、個々の感応度の合計に比べて、クロス効果により追加の▲3%ポイント(2022年末では▲1%ポイント)の影響があるとしている。
Allianzの感応度の推移
3|Generali
(1) SCR比率の推移
2023年上期末のSCR比率は、、2022年末の221%から7%ポイント上昇して、228%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益の計上による資本形成で+13%ポイント
・好調な経済変動(国債のスプレッドの縮小と好調な株式市場等)が非経済変動(主として、イタリアとフランスの特定の生命保険ポートフォリオにおける解約トレンドに関係)で相殺されて、合計で▲3%ポイント
・配当等の資本移動で▲4%ポイント
・規制変更等により+1%ポイント
GeneraliのSCR比率推移の要因/Generaliの自己資本とSCRの推移の要因
(2) 感応度の推移
Generaliは、感応度について、半期ベースの数値は開示していない。

なお、2022年末の数値によれば、イタリア国債のBTP(イタリア国債)スプレッド+100bpsによる影響は、2021年までの3年間は二桁のマイナスと大きなものになっていたが、2022年は▲5%ポイントとなっている。
Generaliの感応度の推移
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中村 亮一

研究・専門分野

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