2023年09月07日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2022年Annual Reportより(生命保険会社の監督及び業績等の状況)-

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1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2022年のAnnual Report1の「スポットライト(Spotlights)」の章等に記載されている項目の中から、主として生命保険の監督に関するトピック及びそれらのトピックに関連する最近の状況について報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「IV.保険会社及び年金基金の監督」等に基づいて、ドイツの生命保険会社の監督及び業績等の状況について報告する。なお、以下の英語の図表は、Annual Reportからの抜粋、日本語の図表はAnnual Reportからの図表に基づいて、筆者が作成している。

2―保険会社のリスク分類

2―保険会社のリスク分類

1|保険会社のリスク分類
BaFinは、監督する保険会社をリスククラスに割当て、保険会社がどの程度緊密に監督されるべきかを定義するために使用している。

保険会社は、会社/グループの市場への影響と質を反映する2次元マトリックスを使用してクラスに割り当てられる。ペンションカッセンと年金基金の市場への影響は、ペンションカッセンと年金基金の総投資額に基づいて測定されている。生命保険会社の場合には、ユニットリンク生命保険からの運用も含まれる。これとは対照的に、健康保険会社、損害保険会社及び再保険会社に用いられる決定的な要素は、総保険料収入となる。また、資産(=投資)リストに開示された総額が、グループ分類の統一基準として選択される。

市場への影響は、「非常に高い」、「高い」、「中間」、「低い」の4段階のスケールで測定される。保険会社の質は、「財政状態とキャッシュフロー」、「事業成績」、「ガバナンス体制」、「将来の実行可能性」及び「重要な保有先」という要素に基づいて、「A(高品質)」から「D(低品質)」からなる4段階で評価される。グループ評価の場合には、「重要な保有先」の代わりに「グループ固有の要素」を使用する。

BaFinは、最初の2つの要素のスコアを保険に特化した指標を用いて決定し、「ガバナンス体制」は定性的な基準を用いて評価する。「将来の実行可能性」は、会社/グループの将来の発展を評価するのに適した、特定の保険種類に関する定量的又は定性的な基準を含む。さらに、「グループ固有の要素」は、最初の4つの基準を超えて、全てのグループ固有の側面を評価する。評価システムは、個々の基準に対する評価を合計して、「A(高品質)」から「D(低品質)」からなる4段階の総合評価を作成している。
2|リスク分類の結果
2022年12月31日時点のデータに基づく評価は、以下の通りとなっている。

BaFinは2022年のリスク分類で、保険会社の約75%を、質の高い「A」又は「B」に分類した。これは2021年の約74%に比べて、若干上昇した。
Risk classification results for 2022
因みに、2021年の結果は以下の通りである。
Risk classification results
また、保険グループの分類では、個々の会社の分類結果と、グループ固有の定性的及び定量的なインプットの両方が使用される。分類された保険グループは、2022年に 「A」(1.9%) 、「B」(79.6%) 又は 「C」 (18.5%)(2021年は、「A」(2%) 、「B」(83%) 又は 「C」 (15%))の品質評価を受けた。

3―保険会社の検査

3―保険会社の検査

1|保険会社の検査
定期検査はリスクベースの手法で計画されている。会社のオンサイトでもリモートでも、程度の差こそあれ柔軟に実施することができる。BaFinがリスク分類の結果を超えて考慮するファクターの1つは、監督対象の事業体が直近に検査を受けた時期となる。臨時・トピックス関連の検査も行われる。

2022年の保険監督部門の検査件数は75件で、前年(65件)を上回った。

リスククラス別の検査内訳は、以下の通りとなっている。
Breakdown of inspections by risk class in 2022
2|監督下にある保険会社と年金基金の
BaFinによって監督されている保険会社と年金基金の数は以下の通りとなっている。2021年末に比較して、両者の合計ベースでは、事業活動中の会社が14社減少し、事業活動停止中の会社が5社増加している。
BaFin監督下にある保険会社と年金基金の数(各年末)

4―2022年の生命保険会社の事業結果

4―2022年の生命保険会社の事業結果

2022年の生命保険会社の事業結果の概要は、以下の通りである。

なお、以下の2022年の数字は暫定的なもので、2022年12月31日現在の中間報告に基づいている。また、保険監督法第45条に従い、ソルベンシーII指令の適用範囲に含まれる特定の会社については、中間報告の要件の一部が免除されていることにも留意する必要がある。
1|契約動向
2022年の元受生命保険新契約は、前年の約510万件から60万件減少して約450万件だった。新契約保険金額の総額は、前年の3兆120億ユーロに対して、7.2%減少して約2兆7,950億ユーロとなった。

定期保険契約が新契約総数に占める割合は、前年度の32.7%から33.3%に上昇した。

年金及びその他の保険契約の割合は、60.0%から59.5%に低下した。養老保険契約の割合は0.1%ポイント低下して、7.2%となった。

生命保険契約の早期解約(解約、払済契約への転換及び早期終了の他の形態)契約数は、200万件で前年から10万件減少、保険金額は1,116億ユーロで6.2%増加した。

保有ベースでの、2022年末の元受生命保険契約数は、前年の約8,160万件から約8,120万件に減少し、保険金総額は2.6%増加の3兆5,470億ユーロだった。

元受保険契約に係る総収入保険料は、前年の952億ユーロから905億ユーロに減少した。
生命保険契約動向
2|投資動向
総投資額は、1兆498億ユーロから1兆536億ユーロへと0.4%増加した。一方で、2022年末の正味含み益は、金利上昇の結果、前年の1,555億ユーロに対し、1,063億ユーロの含み損に転じた。これは、総投資額の▲10.1%(前年は14.8%の含み益)に相当している。

2022年の平均純投資収益率は前年の3.5%から2.2%に低下した。
生命保険会社の投資
2022年の金利上昇により、追加責任準備金(Zinszusatzreserve:ZZR)を算出する際の基準金利が1.57%で頭打ちとなり、生命保険会社は基本的にZZRの追加積立をする必要がなくなった。一方で、2022年の資本市場の動向により、減損損失の拡大を認識する必要が生じ、これを特別投資利益で相殺することとなった。その結果、平均純投資収益率は(2021年まではZZRの積立財源となる特別投資利益分が上乗せされる形になっていたものがなくなることで)2.2%と前年同期比で明確に低下し、現在の投資収益率に見合う水準となった。
3|将来予測
BaFinは例年通り、2022年に生命保険会社向けの将来予測演習を実施した。この予測は、2022年9月30日の基準日時点で実施されたもので、スプレッドと解約の増加の短期的な影響と金利の上昇の中長期的な影響に焦点が当てられた。これを行うために、BaFinはドイツ商法に従って、2022会計年度とそれに続く14会計年度の業績予想データを収集した。保守的な投資ポートフォリオが使用された。その上で、生命保険各社は個別の経営計画に沿って新規投資や再投資のシミュレーションを行った。また、BaFinは、選択した3会計年度のソルベンシーⅡの数値の予想変化を再調査した。

BaFinの予測演習は、金利上昇が会社の経済的地位とソルベンシーにプラスの影響を与えることを示した。しかし、投資活動、特に債券投資は、金利上昇のためにセクター全体でかなりの隠れた負債を明らかにした。通常、投資は満期まで保有されるため、これらはほとんどの場合、実現する必要はない。しかし、投資を売却しなければならない場合、例えば、契約解約率の上昇が流動性要件の増加につながる場合、これはより困難になる。したがって、BaFinは今後数年間、特に慎重に会社の流動性管理を監視する、と述べている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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