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- 中国経済の見通し-2023年は前年比5.0%増、24年は同4.5%増。下振れリスクには要注意
2023年08月25日
1. 中国経済の概況
中国の2023年第2四半期(4-6月期)の実質GDP成長率は、前年同期比6.3%増と、前期(1-3月期)の4.5%増から加速したものの、前期比では0.8%増と前期から低下している(図表-1)。昨年末のゼロコロナ政策の解除後のリバウンドの勢いは一時的なものにとどまったようだ。
7月の指標からは、その後も経済活動の停滞が続いていることがうかがえる。不動産市場の低迷や財消費が振るわない状況は続いている。都市部調査失業率は5%台前半で推移しており(図表-2)、雇用が目立って悪化しているわけではないものの、先行き不透明感からマインドが改善していないようだ。なお、年齢層別の調査失業率は、7月から暫定的に公表されなくなった。国家統計局は、統計のベースとなる労働力調査の見直しを理由としているが、これまで高止まりしていた若年労働者(16~24歳)の失業率が一段と悪化したために取りやめと判断された可能性も否定できない。外需についても、輸出が減速幅を拡大させており、経済好転の兆しはまだ十分にみられない。
7月の指標からは、その後も経済活動の停滞が続いていることがうかがえる。不動産市場の低迷や財消費が振るわない状況は続いている。都市部調査失業率は5%台前半で推移しており(図表-2)、雇用が目立って悪化しているわけではないものの、先行き不透明感からマインドが改善していないようだ。なお、年齢層別の調査失業率は、7月から暫定的に公表されなくなった。国家統計局は、統計のベースとなる労働力調査の見直しを理由としているが、これまで高止まりしていた若年労働者(16~24歳)の失業率が一段と悪化したために取りやめと判断された可能性も否定できない。外需についても、輸出が減速幅を拡大させており、経済好転の兆しはまだ十分にみられない。
2. 需要の動向
最終消費(個人消費+政府消費)は、第2四半期のGDP成長率に5.3%ポイントのプラス寄与となった(図表-5)が、個人消費は弱含んでいるのが実情だ。個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表-6)、前年比では、上海ロックダウンの反動で年初から4月にかけて伸びが高まった後、昨年のベース効果のはく落もあり、7月にかけて伸びの鈍化が続いている。前期比も低調に推移しており、7月には前期比マイナスに落ち込んだ。なお、国家統計局は、7月からサービス消費額の統計を新たに公表するようになり、年初来累計で20.3%増と高い伸びであることが示されたが、単月のデータのみであるため趨勢はまだ判断できない。
総資本形成(=総固定資本形成+在庫変動、≒投資)は2.0%ポイントのプラス寄与だった(図表-5)。投資の代表指標である固定資産投資について、前年比伸び率の推移を見ると(図表-7)、概ね堅調に推移しているが、足元7月には伸びが低下しており、不安定な状況にある。業種別では、ハイテク分野をけん引役とする製造業投資やインフラ投資が不動産開発投資の減速を補い、所有形態別では、国有・国有支配企業の投資が民間企業の投資減速を補っている構図となっている。
純輸出はマイナス1.1%ポイントと、前期からマイナス寄与が拡大した(図表-5)。輸出入の推移を見ると(図表-8)、足元では輸入価格下落や内需減速で輸入の減速が続いているが、輸出の減少がその程度を上回った。日米欧向けのほか、ASEAN向けなど主要輸出先で下落が続いている。
総資本形成(=総固定資本形成+在庫変動、≒投資)は2.0%ポイントのプラス寄与だった(図表-5)。投資の代表指標である固定資産投資について、前年比伸び率の推移を見ると(図表-7)、概ね堅調に推移しているが、足元7月には伸びが低下しており、不安定な状況にある。業種別では、ハイテク分野をけん引役とする製造業投資やインフラ投資が不動産開発投資の減速を補い、所有形態別では、国有・国有支配企業の投資が民間企業の投資減速を補っている構図となっている。
純輸出はマイナス1.1%ポイントと、前期からマイナス寄与が拡大した(図表-5)。輸出入の推移を見ると(図表-8)、足元では輸入価格下落や内需減速で輸入の減速が続いているが、輸出の減少がその程度を上回った。日米欧向けのほか、ASEAN向けなど主要輸出先で下落が続いている。
3. 産業の動向
第2四半期の産業動向を概観すると(図表-9、10)、第1次産業は前年同期比3.7%増と前期(同3.7%増)から横ばいであった。第2次産業は前年同期比5.2%増で前期(同3.3%増)から加速した。さらにその内訳をみると、「製造業」、「建築業」は、それぞれ同4.9%増、同8.2%増と前期(同2.8%増、同6.7%増)からいずれも伸びが高まった。
第3次産業は前年同期比7.4%増と、GDP成長率を最も押し上げる主因となった。その内訳を見ると、「宿泊飲食業」は同17.5%増と、コロナ禍で落ち込んだ昨年から伸びが高まっている。「情報通信・ソフトウェア・IT」も同14.6%増と前期(同11.2%増)から伸びを高めた。2020年末から続いたIT産業に対する是正措置で成長ペースが鈍っていたが、足元では再び勢いがつきつつある。一方、第3次産業の中で唯一「不動産業」だけは同マイナス1.2%とマイナス成長となった。昨年第4四半期まで6四半期連続で続いたマイナス成長の幅に比べれば小幅ではあるが、依然安定を欠く状況にあることがうかがえる。
第3次産業は前年同期比7.4%増と、GDP成長率を最も押し上げる主因となった。その内訳を見ると、「宿泊飲食業」は同17.5%増と、コロナ禍で落ち込んだ昨年から伸びが高まっている。「情報通信・ソフトウェア・IT」も同14.6%増と前期(同11.2%増)から伸びを高めた。2020年末から続いたIT産業に対する是正措置で成長ペースが鈍っていたが、足元では再び勢いがつきつつある。一方、第3次産業の中で唯一「不動産業」だけは同マイナス1.2%とマイナス成長となった。昨年第4四半期まで6四半期連続で続いたマイナス成長の幅に比べれば小幅ではあるが、依然安定を欠く状況にあることがうかがえる。
4. 経済政策
金融政策に関しては、3月に預金準備率を、6月に政策金利(リバースレポ金利およびMLF(中期貸出ファシリティ)金利)を引き下げて以降、8月に再び政策金利を引き下げた(図表-15)。MLF金利の引き下げ幅は、0.15%ptと過去数回の利下げにおける0.1%ptから拡大した。M2や社会融資総量などの金融指標(図表-16)が、資金需要不足等を背景に年初来弱含んでおり、上述の実体経済も含めて7月に改善が見られなかったことを受け、一段の緩和に踏み切ったものとみられる。
今後の政策運営について、7月24日開催の中央政治局会議では、現時点で大規模な景気対策をとる方針は示されなかったが、想定外の下押しに対して追加対策を講じる構えはあるようだ。財政政策については、3月の全人代で可決された予算案で想定している規模のもと、専項債券の発行および使用ペース加速を促す方針が示された。必要に応じて政策金融機関によるファイナンス等も活用し、インフラ投資により景気安定を図る動きが続くだろう。消費促進に関しても、全国規模での消費クーポン発行など直接的な策は想定していないとみられる。金融政策については、今後も、預金準備率や政策金利の小幅な引き下げが行われる可能性がある。不動産に関しては、従来に比べ緩和する可能性が示唆されたが、あくまで実需を念頭に下支えを行う程度とみられる。
今後の政策運営について、7月24日開催の中央政治局会議では、現時点で大規模な景気対策をとる方針は示されなかったが、想定外の下押しに対して追加対策を講じる構えはあるようだ。財政政策については、3月の全人代で可決された予算案で想定している規模のもと、専項債券の発行および使用ペース加速を促す方針が示された。必要に応じて政策金融機関によるファイナンス等も活用し、インフラ投資により景気安定を図る動きが続くだろう。消費促進に関しても、全国規模での消費クーポン発行など直接的な策は想定していないとみられる。金融政策については、今後も、預金準備率や政策金利の小幅な引き下げが行われる可能性がある。不動産に関しては、従来に比べ緩和する可能性が示唆されたが、あくまで実需を念頭に下支えを行う程度とみられる。
5. 中国経済の見通し
1|メインシナリオ
個人消費や投資などの内需は、いずれも力強さを欠く推移が予想され、波を伴いながらの回復となるだろう。7月に入ってからも需要の伸びは総じて弱く、想定よりも回復ペースが遅れる可能性が高いことから、2023年の経済成長率は実質で前年比5.0%増、2024年は同4.5%増と予想している(図表-17)。
2023年中、第2次産業に関しては、欧米景気の減速による輸出不振に加え、国内財消費の持ち直しも力強さを欠く状況が続くと見込まれることから、製造業が減速するほか、不動産開発の低迷を背景に建築業も減速することが予想される。また、第3次産業に関しては、同じく不動産業の低迷が主要な下押し要因となるほか、家具や家電など住宅関連の消費財を中心に財消費の回復が遅れ、卸小売業の持ち直しの勢いも弱いだろう。一方、飲食や観光などのサービス消費の回復が、宿泊飲食業や交通・運輸・倉庫・郵便業、文化・体育・娯楽業等に追い風となるほか、情報通信・ソフトウェア・IT業についても取り締まりの一服を受けて緩やかに回復することで、産業全体としては持ち直しが予想される。
2024年には、輸出の改善が期待できるほか、不動産市場も底打ちし緩やかながら回復に向かうと予想され、前年比4.5%増を見込むが、不動産や地方財政など構造的な課題を背景とした下振れリスクは引き続き残存するだろう。
個人消費や投資などの内需は、いずれも力強さを欠く推移が予想され、波を伴いながらの回復となるだろう。7月に入ってからも需要の伸びは総じて弱く、想定よりも回復ペースが遅れる可能性が高いことから、2023年の経済成長率は実質で前年比5.0%増、2024年は同4.5%増と予想している(図表-17)。
2023年中、第2次産業に関しては、欧米景気の減速による輸出不振に加え、国内財消費の持ち直しも力強さを欠く状況が続くと見込まれることから、製造業が減速するほか、不動産開発の低迷を背景に建築業も減速することが予想される。また、第3次産業に関しては、同じく不動産業の低迷が主要な下押し要因となるほか、家具や家電など住宅関連の消費財を中心に財消費の回復が遅れ、卸小売業の持ち直しの勢いも弱いだろう。一方、飲食や観光などのサービス消費の回復が、宿泊飲食業や交通・運輸・倉庫・郵便業、文化・体育・娯楽業等に追い風となるほか、情報通信・ソフトウェア・IT業についても取り締まりの一服を受けて緩やかに回復することで、産業全体としては持ち直しが予想される。
2024年には、輸出の改善が期待できるほか、不動産市場も底打ちし緩やかながら回復に向かうと予想され、前年比4.5%増を見込むが、不動産や地方財政など構造的な課題を背景とした下振れリスクは引き続き残存するだろう。
2|リスク要因
主なリスク要因としては、(1)外需の想定外の悪化といった外的要因のほか、(2)不動産市場の低迷長期化や(3)インフラ投資の下振れといった政策の不調が想定される。とくに(3)については、上述の中央政治局会議で「地方政府債務リスクの防止・解消」について言及されたため、地方政府や傘下の融資平台の資金調達が滞り、顕在化する恐れがある。景気回復のけん引役が不在という状況下、これらリスクが顕在化した場合、経済の耐性は弱い。
将来の財政リスクを念頭においた目下の政策判断には一定の合理性はあり、「カウンターシクリカルな対応を強化する」として、下押し圧力に対しては必要な措置をとる構えをみせているものの、リスク防止と景気対策の間で政策判断が遅れ、対策を打つタイミングを逃せば、経済が悪循環に陥り、デフレの発生など先々の成長をより鈍らせる可能性も否定できない。時々の経済情勢を踏まえて適時適切に対策をとることができるか否か、政策対応の動向に注視が必要だ。
主なリスク要因としては、(1)外需の想定外の悪化といった外的要因のほか、(2)不動産市場の低迷長期化や(3)インフラ投資の下振れといった政策の不調が想定される。とくに(3)については、上述の中央政治局会議で「地方政府債務リスクの防止・解消」について言及されたため、地方政府や傘下の融資平台の資金調達が滞り、顕在化する恐れがある。景気回復のけん引役が不在という状況下、これらリスクが顕在化した場合、経済の耐性は弱い。
将来の財政リスクを念頭においた目下の政策判断には一定の合理性はあり、「カウンターシクリカルな対応を強化する」として、下押し圧力に対しては必要な措置をとる構えをみせているものの、リスク防止と景気対策の間で政策判断が遅れ、対策を打つタイミングを逃せば、経済が悪循環に陥り、デフレの発生など先々の成長をより鈍らせる可能性も否定できない。時々の経済情勢を踏まえて適時適切に対策をとることができるか否か、政策対応の動向に注視が必要だ。
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三尾 幸吉郎
(2023年08月25日「Weekly エコノミスト・レター」)
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