2023年08月03日

世界における中国生保市場(2022年)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

文字サイズ

1――2022年、中国保険市場の世界シェアは引き続き第2位。景気回復の鈍化、雇用・所得の不安定化から保険料収入は微増。

Swiss ReのSigma「World insurance:stirred, and not shaken」によると、2022年、世界の保険市場において、保険料収入総額(生保・損保合計)は6兆7822億ドルで、前年比0.3%増と微増にとどまった。

国・地域別のシェアでみた場合、首位は米国となっており、中国がそれに続いた(図表1)。2022年は英国が3位に浮上、日本は4位に後退したものの、いずれも保険料収入は前年を割り込んだ。上位5か国のみで世界の保険市場の68.2%とおよそ7割を占めている。米国の保険料収入が大幅に増加する一方、英国・フランスは2021年に前年の新型コロナウイルス禍の反動から保険料収入が大幅に回復したが、2022年は一転して前年より減少した。

2022年の中国はゼロコロナ政策による行動制限や店舗などの営業が規制され、更に不動産不況が加わったことで雇用や所得が不安定化、消費も落ち込んだ。生活防衛や貯蓄の傾向が強まり、保険商品についても販売が伸び悩んだ。
図表1 各国・地域別の保険料収入総額(生損保合計)上位5か国(2022年)
図表2 生命保険料収入シェア上位10か国・地域(2022年/ドルベース) 次に、生命保険市場について確認してみる。2022年の生命保険料収入は前年比4.3%減の2兆8130億ドルであった。中国のシェアは13.0%(前年より0.8ポイント増)で、国・地域別では前年同様2位となった(図表2)。首位である米国とのシェアの差は10.9ポイントとなり、前年(8.1ポイント)より2.8ポイント拡大した。また、上位5か国の合計シェアは全体の60.0%と半数を超えた。中国を中心としたアジアの新興国は保険の普及が進んでいない地域が多く、引き続き成長の牽引役としても注目されている。

2――中国の生保市場

2――中国の生保市場は2021年に引き続き、経済情勢・ゼロコロナ体制から消費全体が後退、ソルベンシー規制の強化、代理人チャネルの高度化など需要・供給両面の課題から浮上できず。

以下では、2022年の中国の生保市場について概観してみる。2022年の中国の生命保険市場における保険料収入(現地通貨ベース)は前年比2.8%増の3兆2091億元(約64兆円)であった1。経済情勢・新型コロナウイルスの影響による雇用・収入の見通しへの不安から消費が控えられ、保険商品もその煽りを受けた。保険料収入のうち、有配当・無配当などの生命保険が全体の76.4%、医療保険が22.0%、傷害保険が1.6%を占めている。生活防衛のための貯蓄の傾向が強まる中で、医療保険の販売についてもコロナ前のような伸展は見られなかった。

生保系の保険会社は92社2で、上位5社で保険料収入総額の50.3%を占めている状況にある(図表3)。上位社の多くは代理人をメインチャネルにしている。ゼロコロナ対策による訪問制限・業績低下による離職の増加に加えて、代理人の能力評価・採用の厳格化による販売体制の再構築もあり、各社も苦しい立場に置かれた。加えて、当局は2022年から保険市場の更なる健全化に向けて新たなソルベンシー規制を導入しており、各社は増資などを通じて態勢の整備も求められている。
図表3 中国生保上位5社(保険料収入別)
中国生保市場の直近10年を振りかえると、保険料収入は毎年順調に増加してきた。しかし、新型コロナの影響や経済情勢の回復の遅れから、2021年は保険料収入が前年割れ、2022年も微増にとどまり、保険市場の回復にも時間がかかりそうである。同時に今後の中長期的な成長に向けて市場の更なる健全化、各社の販売チャネルの再構築や資本増強、デジタル化の推進などの取り組みも進められている。
 
1 出典は中国の国家金融監督管理総局ウェブサイト。保険料収入には損保会社による短期の医療・傷害保険の保険料収入を含む。
2 92社には医療保険などを専門とする健康保険会社7社、年金専門の養老保険会社10社が含まれる。

3――保険の普及度合

3――保険の普及度合は引き続き世界平均以下の状態。新たな当局の誕生の下、保険市場の行方はどうなるのか。

世界の生命保険市場において中国市場の規模は大きいものの、その普及度合については低い状態が続いている。2022年のGDPに占める生命保険料収入の割合は2.0%にとどまり、世界平均の2.8%にも達していない(図表4)。また、1人当たりの生命保険料収入(ドルベース)も255ドルと世界平均の354ドルに達していない状況にある。中国は地域によって所得格差が大きく、生命保険の加入状況も地域によって大きく異なる。ただし、ネット保険の定着、経済情勢や雇用環境の変化などから加入ハードルの低い医療保険・老後保障商品の開発・販売が進み、加入の裾野は広がりつつある。
図表4 世界における上位5か国のGDPに占める生命保険料収入の割合と1人あたりの生命保険料収入(2022年)
今後については、中国では少子高齢化が進展しており、特に、年金や介護といった老後の生活を保障する商品の販売拡大に期待が寄せられている。老後保障については既存の個人年金、介護保険商品に加えて、2022年は新たに個人養老金制度が36都市で先行導入されている。個人養老金制度の仕組みは日本の個人型確定拠出年金(iDeCo)に類似しており、より豊かな老後が送れるよう自身で備える制度である。保険会社も商品を提供するなどその運営に参加している。一方、新型コロナ以降の労働市場の不安定化、更には大学卒業生の就職難から非正規労働者(デリバリー配達員などのギグワーカーなど)が増加している。監督当局は保険会社に対して、こういった非正規労働者に特化した商品の開発を命じており、大手保険会社を中心に開発・販売が進んでいる。当局は保険会社に対して、社会が抱えるリスクを包摂する商品の開発・販売、仕組みの運営をより求めるようになっている。なお、中国の保険市場の監督については、2023年5月、新たな主務官庁の国家金融監督管理総局に移っている。当局は市場の健全化に関する監督・管理を強化しており、今後は更に質の高い成長が求められることになる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2023年08月03日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【世界における中国生保市場(2022年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

世界における中国生保市場(2022年)のレポート Topへ