2023年07月11日

育児中の国民年金保険料の免除に伴う保険料の引上げは?~年金改革ウォッチ 2023年7月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

企業年金・個人年金部会は、5月に引き続いて関係団体(全国銀行協会、日本損害保険協会、日本証券業協会と投資信託協会と全国証券取引所協議会(3団体合同)、日本年金数理人会、信託協会、生命保険協会)からのヒアリングを実施した。年金事業管理部会は、国民年金保険料の納付率などを反映した2022年度の業務実績報告書を確認した。年金部会は、次世代育成支援の取組と障害年金の今後の在り方について議論した。年金財政における経済前提に関する専門委員会は、スウェーデンの賃金・雇用システムに関する有識者の報告と、運用利回りに関する事務局の報告を受けた。
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
6月12日(第23回) 関係団体からのヒアリング
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33545.html (資料)
6月28日(第24回) 関係団体からのヒアリング
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33862.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
6月26日(第68回) 日本年金機構の2022年度業務実績
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo68_00001.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
6月26日(第5回) 公的年金制度における次世代育成支援の取組、障害年金制度
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_230626.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金財政における経済前提に関する専門委員会
6月30日(第4回) 有識者からのヒアリング、運用利回りの長期的な動向、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33599.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:公的年金制度における子育て支援充実の経緯・現状・展望

図表1 公的年金制度における子育て支援の経緯 1|経緯:厚生年金は1994年、国民年金(第1号被保険者)は2016年の改正から、保険料を免除
厚生年金では、育児休業法が1995年度から全事業所を対象に施行されることを踏まえて、1994年改正で育児休業中の加入者分の保険料免除が決定され、1995年度から開始された。その後も、免除対象の拡充などが進められた。

国民年金(第1号被保険者*1)での免除は、2004年改正時に話題になったが、自営業には産休等がないことなどを背景に検討が進まなかった。しかし、2012年改正法に検討規定が盛り込まれ、2016年改正で産前産後の免除が導入された。年金額は全額納付と同様に扱うことになり、通常の保険料免除を超えて給付に結びつく部分は、保険料の引上げでまかなうことになった。
 
*1 国民年金は日本に住む20~59歳の全員を対象としている。このうち、厚生年金加入者(国民年金の第2号被保険者)や厚生年金加入者に扶養される配偶者(国民年金の第3号被保険者)以外が国民年金の第1号被保険者であり、国民年金保険料を納める必要がある。
図表2 公的年金制度における子育て支援の現状 2|現状:厚生年金は育休中も免除だが、国民年金(第1号被保険者)は産休相当のみ免除
現在の厚生年金では、産休中のほか、子が3歳未満で育児休業に準じる制度の利用中も保険料免除の対象となっている。他方で、国民年金(第1号被保険者*1)では産前産後の4か月に保険料免除が限られている。これを超える育児期間の保険料免除については、2020年改正法の附則で検討が規定され、今年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」で導入が明示された。
図表3 想定される育児中の国民年金保険料の免除例 3|展望:免除に伴う保険料の引上げが論点
「こども未来戦略方針」では、「免除期間や給付水準等の具体的な制度設計の検討を早急に進め、2026年度までの実施を目指す」とされた。

免除期間は、厚生年金加入者では全員が育休の対象となれる「1歳到達まで」のほか、育休の延長と同様に「保育園の入所まで(最長で2歳到達まで)」とする案、父親に「産後パパ育休*2」相当の1か月分の免除を認める案などが考えられる。

給付水準は、保険料増に反対する意見が強ければ通常の全額免除と同じ「満額の1/2」も考えられるが、現行の産前産後と同様に「満額」とするのが濃厚だろう。「満額」とする場合、その財源を保険料の引上げでまかなうには、「1歳到達まで」で月200円程度、「保育園等の入所まで(最長で2歳到達まで)」では月500円程度の追加引上げが必要になると見込まれる。今後の議論を注視したい。
 
*2 出産後8週間以内に28日を限度として2回に分けて取得できる休業で、1歳までの育児休業とは別に取得できる。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年07月11日「保険・年金フォーカス」)

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