2023年05月15日

100年後には総人口が5000万人を割り込み、高齢化率は前回より上昇-新しい将来推計人口を読む(3) 総人口や年齢構成への影響

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 本稿の問題意識:複雑な将来推計人口を読み解く

4月26日に公表された新しい将来推計人口1は複雑な結果となった。出生率の見通しが前回推計より低下したものの、外国人の入国超過の見通しが倍増したために、現役世代の減少が前回の推計よりも抑えられた。ただし、長寿化は引き続き進む見通しとなっており、高齢化率は長期的には前回推計より高まっている。

本稿では、別稿2を踏まえて、総人口と、その内訳となる年齢構成を確認する3
 
1 https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
2 少子化と長寿化については「新しい将来推計人口を読む(1) 少子化と長寿化の見通し」で確認し、
海外からの人口流入については「新しい将来推計人口を読む(2) 海外からの人口流入の影響」で確認した。併せて参照されたい。
3 年金の将来見通しが約100年後までの人口を考慮して作成されるため、以下では2070年までの基本推計の結果に、2071年以降の出生率や死亡率などを一定と仮定した長期参考推計の結果を結合して見ている。

2 ―― 総人口

2 ―― 総人口:100年後には5000万人を割り込み、100年前を600万人下回る

別稿では、年齢区分ごとに、今回と前回の推計結果、および海外からの人口流入(外国人の入国超過数)の見通しを前回と同程度に据え置いた場合の結果を比較し、次のような特徴や傾向を確認した。
 
  • 15歳未満人口
    • 海外からの流入増が一定程度の増加要因にはなるが、出生率低下の影響が大きく、前回の標準ケース(中位推計)と比べて減少。ただし、前回の少子化ケース(出生低位)ほどの減少は回避。
       
  • 15~64歳人口
    • 海外からの流入増加に伴い前回の標準ケースより増加するが、出生率低下の影響が次第に出てくるため前回からの増加幅は2060年をピークに縮小し、2120年には前回の標準ケースと近い水準になる。
       
  • 65歳以上人口
    • 男性の長寿化ペースの加速によって2040年頃から前回の標準ケースを上回り、2060年頃からは推計期間の更新(長寿化の伸展を考慮する期間の延伸)や海外から流入した人々の高齢化により前回の死亡低位(長寿化が大きいケース)を上回る。
 
これらの年齢区分を合計した総人口は、2010年をピークに減少傾向が続いている(図表1)。今回の標準的なケースである中位推計では、推計の起点である2020年の1億2615万人から、50年後の2070年には8700万人に減少し、その後も2071年時点の出生率等が続くと仮定すれば100年後の2120年には4973万人になると見込まれている。この4973万人という規模は、1920年(大正12年)の第1回国勢調査で判明した5596万人を約600万人下回る水準である。

前回推計の中位推計と比べると、今回の推計期間の当初から前回を上回っているが、前回と比較した増加幅は2078年の398万人をピークに縮小し、前回の推計期間の最終年である2115年には211万人の増加にとどまる。これは、推計期間の前半では海外からの流入の蓄積と男性の長寿化ペースの加速によって総人口が増えるのに対して、推計期間の後半では海外からの流入の影響に加えて出生率の低下に伴う減少と男女の長寿化の進展に伴う増加とが影響し、結果として2078年が前回と比較した増加幅のピークになったと考えられる。

また、海外からの流入を前回推計と同じ水準(6.9万人)と仮定した推計4(図表1の今回・流入据置)では、2070年に8137万人、2120年には4163万人になると見込まれている。今回の中位推計と比較すると、2070年で約560万人、2120年で約810万人下回っており、この値が海外からの流入の見通しが増加した影響と言える。
図表1 総人口の実績と見通し (今回と前回と流入据置の比較)
 
4 外国人の入国超過数の仮定を変えた推計は、条件付推計として公開されている。条件付推計は前回も公開されていたが、前回推計の仮定に相当するパターンが含まれているのが今回の特徴である。

3 ―― 年齢構成

3 ―― 年齢構成:海外からの人口流入が倍増しても、高齢化率は前回より上昇

1|標準ケースでの概況:15歳未満比率の低下と65歳以上比率の上昇が、今後も継続
15歳未満と15~64歳と65歳以上の3区分で見た年齢構成は、1920~2020年の100年間において、15歳未満の比率が36%から12%へ下がり、65歳以上の比率が5%から29%へ上がる、という傾向で進んできた。この100年間で、総人口が5600万人から1億2600万人へと2倍以上に増えた一方で、15歳未満人口は2040万人から1480万人へと3割近く減少したため、15歳未満の比率は100年前の3分の1になっている。他方で、65歳以上人口は290万人から3620万人へと12倍の増加になったため、65歳未満の比率は100年前の6倍になっている。

今回の推計の標準的なケースである中位推計をおおまかに見ると、15歳未満と15~64歳と65歳以上の比率は、2020年の1割:6割:3割から、2070年には1割:5割:4割となり、2120年までおおむねこの比率で推移する見通しとなっている5。2020~2120年の100年間で、総人口が1億2600万人から5000万人へと6割減少するのに対して、15歳未満人口は1480万人から450万人へと7割減少するため、15歳未満の比率は現在(2020年)よりも低下する見通しとなっている。他方で、65歳以上人口は3620万人から2010万人へと4割強の減少にとどまるため、65歳未満の比率は現在よりも上昇する見通しとなっている。
図表2 年齢構成の実績と見通し (今回の標準ケース)
 
5 2071年以降は出生率や死亡率などを一定と仮定した長期参考推計の結果であるため、年齢構成に大きな変化が現れない。
2|各年齢層の比率:海外からの人口流入が倍増しても、長寿化の進行で高齢化率は前回より上昇
図表2で概観した各年齢層の比率について、今回と前回の標準的な推計結果(中位推計)、および今回の推計で海外からの人口流入(外国人の入国超過数)の見通しを前回と同程度に据え置いた場合の結果(以下では流入据置と呼ぶ)を比較したのが、図表3と図表4である。これらの比較のうち、前回の中位推計と流入据置は、海外からの流入の仮定がほぼ同じであるため、両者の差が出生率の低下や長寿化の進行の影響を示すことになる6。また、今回の中位推計と流入据置は、出生率と死亡率の仮定が同じであるため、両者の差が海外からの流入増加の影響を示すことになる。

15歳未満の比率の約100年後の水準は7、前回の中位推計の10.3%から1.4ポイント低下して、8.9%になる見通しである。また、流入据置では、前回の中位推計より1.5ポイント低く、今回の中位推計とほぼ同水準の8.8%になる見通しである。15歳未満人口については、出生率の低下の影響が大きく、海外からの流入増加の影響は限定的と言える。

15~64歳の比率の約100年後の水準は、前回の中位推計の51.3%から0.7ポイント低下して、50.6%になる見通しである。また、流入据置では、前回の中位推計より2.8ポイント低く、今回の中位推計より1.7ポイント低い49.1%になる見通しである。今回の中位推計は、海外からの流入増加で押し上げられているものの、出生率の低下や長寿化の進行8の影響が大きいために前回より低下した、と言える。
図表3 年齢構成の実績と見通し (今回と前回の比較。15歳未満比率と15~64歳比率)
65歳以上の比率(高齢化率)の約100年後の水準は、前回の中位推計の38.4%から2.0ポイント上昇して、40.4%になる見通しである。また、流入据置では、前回の中位推計より3.6ポイント高く、今回の中位推計より1.6ポイント高い42.0%になる見通しである。今回の中位推計は、海外からの流入増加の影響(現役世代の増加で押し下げられる影響と流入者の高齢化で押し上げられる影響を総合した影響)で押し下げられているものの、出生率の低下や長寿化の進行の影響が大きいために前回より上昇した、と言える。

高齢者を何人の現役世代で支えるかの大雑把な指標として用いられることが多い15~64歳人口と65歳以上人口の比(潜在扶養指数)を見ると、前回の中位推計の1.33から0.08低下して、1.25になる見通しである。また、流入据置では、前回の中位推計より0.16低く、今回の中位推計より0.08低い1.17になる見通しである。今回の中位推計は、海外からの流入増加の影響で押し上げられているものの、出生率の低下や長寿化の進行などの影響が大きいために前回より低下した、と言える。この結果は、海外からの人口流入が想定どおりに進まなければ、より少ない現役世代で高齢者を支える形になることを示唆している9
図表4 年齢構成の実績と見通し (今回と前回の比較。65歳以上比率と15~64歳÷65歳以上)
 
6 厳密には、前回と今回の日本人の超過入国の差も影響するが、この影響は大きくない。
7 厳密には、前回の推計は2115年時点、今回の推計は2120年時点である。
8 長寿化の進行には、男性の長寿化ペースの加速という実態的な変化のほか、推計期間の更新(長寿化の伸展を考慮する期間の延伸)という将来推計人口の推計方法に依存した変化も含まれている。
9 これは人口の年齢構成から単純に考えたものであり、実際には65歳以上の就労状況などにより現役世代の負担は変わる。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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