2023年05月10日

ビッグマックから「安いニッポン」を考える

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.314]

山下 大輔

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※ 本稿は、「ビッグマックから「安いニッポン」を考える」(23年3月、研究員の眼)を再構成したものであり、参考文献を含め、詳細は上記レポートを参照されたい。

近年、日本の物価が海外よりも安い、いわゆる「安いニッポン」現象がよく取り上げられる。英・エコノミスト誌が調査するマクドナルド社のビッグマックの価格を例にとると、2000年4月の日本の販売価格は294円(米ドル換算価格:2.77ドル)であり、米国(2.24ドル)やユーロ圏(2.56ユーロ(2.38ドル))よりも高かった。しかし、2023年1月調査時点では、日本の販売価格は410円(3.15ドル)であり、米国(5.36ドル)やユーロ圏(4.86ユーロ(5.28ドル))よりも約4割も安く買える国となった。
[図表1]ビッグマック価格(米ドル換算)の国際比較
「安いニッポン」が生じた直接的な要因は、長期にわたる物価の低迷と為替レートの変化によるものだ。

日本は1990年代後半以降、長らく低い物価上昇に直面してきた。1990年代後半以降、日本の消費者物価指数は概ね横ばいで推移してきた。これは、平均2%程度で上昇してきた米国やユーロ圏などと大きく異なる。2021年以降、世界は物価上昇に見舞われ、日本でも2023年1月には消費者物価上昇率は前年同月比で4%を超えた。しかし、他国に比べれば日本の物価上昇率は大きくない。低物価上昇率が継続したことで、物価は変わらないという強い予想が生まれ、物価の粘着性が高まった。また、日本のビッグマック価格も海外に比べて上がっていない。
[図表2]消費者物価指数の国際比較
[図表3]ビッグマック価格(自国通貨建て)の国際比較
また、他国との物価上昇率の差を埋め合わせるほどに円の購買力の上昇(円高)がみられなかった。1996年1月の実際のドル円為替レートを基準として、日米の物価上昇率の差による購買力の変化を反映した為替レート(購買力平価)を計算すると、2008年には1ドル80円を下回り、2022年には1ドル60円台となる。基準時点を変えれば購買力平価の水準も変わるため水準自体にあまり意味はないが、購買力平価は円高方向に推移している。しかし、実際の為替レートは、購買力平価に近づく円高を記録したこともあったが、全般として、購買力平価よりも円安で推移している。ビッグマックで計算した購買力平価も1ドル80円前後となる。
[図表4]ドル円為替レートの推移
「安いニッポン」自体はそれほど問題ではないかもしれない。同じ製品を日本で安く作れるなら、海外への輸出を増やせるはずだ。物価が安いことには、外国からの旅行者の増加や海外企業の国内誘致を有利にするメリットもある。

しかし、「安いニッポン」が、生産性が低く、競争力を失っているために、生産者が価格を引き上げられず、賃金も上がらない中で生じたものであれば、物価の安さは望ましいとはいえない。ビッグマックの生産コストを考えると、牛肉やレタス、小麦などの海外と貿易される財(貿易財)に加え、店舗の家賃や人件費といった海外と貿易されない財(非貿易財)が含まれる。過去の研究によれば、ビッグマックの内外価格差の約6割は、海外と貿易されない財(非貿易財)の価格で説明されるとする分析もあり、日本でビッグマックが安く買えるのは、賃金が低いからかもしれない。
[図表5]ッグマック価格の日米比較
「安いニッポン」現象は、生産性を引き上げられず、所得を増やすことができなかった日本への警鐘ともいえる。

(2023年05月10日「基礎研マンスリー」)

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