2023年04月12日

現金流通量を巡る地殻変動~1万円札以外は全て減少中

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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(受けとめと今後の予想)
植田新総裁の就任会見の内容については、2月下旬の衆参での所信聴取での発言内容と大きく異なるものではなかったが、所信聴取時と比べて、YCCをはじめとする現行政策を継続する姿勢を強めたという印象を受けた。YCの歪みが足元で一旦改善されているほか、市場では早ければ4月の初回決定会合でのYCC撤廃を予想する向きもあり、早期修正観測が高まることで再びYCが歪むリスクがあったことから、そうした市場の観測をけん制する狙いもあったと推測される。出口(金融政策の正常化)のみならず、YCCの修正といった副作用への対応についても拙速は避け、慎重に情勢を見極めたうえで決定するということだろう。
 
今後の見通しの大枠については、植田新体制は引き続き緩和スタンスを維持しながら、慎重に正常化を模索する可能性が高いと見ている。一方、副作用については就任会見でも存在を認めたうえで、幾度も配慮していくことを言及しているため、適宜対応を行っていくはずだ。

とりわけ債券市場の機能度低下についてはYCCの修正という形で遠からず対応が採られると予想している。ただし、その時期については従来は6月の決定会合と予想していたが、就任会見での発言を受けてやや後ろ倒しになる可能性が高いと判断。修正の内容は「長期金利操作目標の対象年限短期化(10年国債利回り→5年国債利回り)」と予想。YCの歪みとそれに伴う市場機能低下の是正を図るとともに、景気への影響が大きい短・中期の金利を抑制し続けることで緩和継続姿勢を示すと見ている。就任会見でYCCを前向きに評価したうえ、市場や景気への配慮もあり、いきなり撤廃に踏み切ることは避けるのではないかと見ている。
 
なお、マイナス金利政策の解除や長期金利操作目標の撤廃には時間がかかると見ている。(1)ともに金融引き締め感が強く、短・中期の金利上昇を押し上げかねないこと、(2)今年終盤からは米利下げ開始が現実味を帯びてきて円高リスクが高まることから、日銀が金融引き締め方向での政策変更を行うハードルが高まるためだ。
日本国債のイールドカーブ/日銀の長期国債・ETF買入れ額

3. 金融市場(3月)の振り返りと予測表

3. 金融市場(3月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
3月の動き(↘) 月初0.5%付近でスタートし、月末は0.3%台前半に。
月上旬は、日銀による緩和修正観測が引き続き燻るなか0.5%付近で推移したが、10日の日銀決定会合で現状維持が決まり、修正を見越して売り持ちにしていた投資家が国債の買い戻しに転じた。さらに米銀破綻に端を発して欧米の金融システム不安がにわかに台頭し、安全資産需要の高まりや利上げ観測の後退によって米金利が大きく低下したことを受けて、10日には0.4%を割り込んだ。その後も欧米の金融システム不安は燻り、20日には0.2%台半ばまで低下することとなった。月の下旬には金融システム不安がやや緩和し、22日には0.3%台を一旦回復したが、22日のFOMCでFRBの利上げ姿勢が後退したと受け止められたこともあって金利は低迷が続いた。月末も0.3%台前半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(3月)
(ドル円レート)
3月の動き(↘) 月初136円台半ばでスタートし、月末は133円台半ばに。
月初、堅調な米経済指標を背景にドルが堅調に推移した後、パウエルFRB議長が議会証言で利上げ加速の可能性を示唆したことを受けて、8日に137円台前半へと水準を切り上げた。その後は米雇用指標の鈍化や米銀破綻を受けた金融システム不安の台頭により米金利低下を通じてドル安が進行、14日には133円台前半に。米コアCPIの予想比上振れを受けた15日には一旦134円台半ばに持ち直したが、欧米の金融システム不安が燻り、23日には130円台へ下落した。一方、月終盤には金融システム不安がやや和らいだことでドルが持ち直し、月末は133円台半ばに。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
3月の動き(↗) 月初1.06ドル台後半でスタートし、月末は1.08ドル台後半に。
月初、1.06ドル台で推移した後、パウエルFRB議長が議会証言で利上げ加速の可能性を示唆したことを受けてドルが買われ、8日に1.05ドル台半ばへ。その後は米雇用指標の鈍化や米銀破綻を受けた金融システム不安の台頭により米金利低下を通じてドル安が進行、13日には1.07ドル台を付けたが、金融システム不安が欧州にも波及し、スイス大手銀の経営不安が高まったことを受けて、15日には1.05ドル台半ばへ戻った。その後は同銀の買収が決まったことで欧州の金融不安が後退したほか、22日のFOMCを受けて米利上げ観測が後退し、23日には1.08ドル台後半まで上昇。月終盤は欧州経済の見方を巡り思惑が交錯したが、月末も1.08ドル台後半で終了した。
金利・為替予測表(2023年4月12日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年04月12日「Weekly エコノミスト・レター」)

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