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2023年03月07日

日本の10歳代女性における月経に伴う諸症状に関する実態調査(2)-月経随伴症状「下腹部痛」「眠気」「イライラ」と、PMS症状「イライラ」「食欲亢進」は、全体の6割近くが日常生活に影響あり-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1――はじめに

前稿では、日本の10歳代女性における月経に伴う諸症状を調査した結果、月経不順や無月経は全体の3割近く、月経前はイライラが2割強、月経中は下腹部痛が7割も出現、対処行動は「我慢」が4割近くにのぼる実態が明らかになった1

一方、近年では、生理痛で休みたくても休めない実状や、月経前に引き起こされる諸症状であるPMSにより、学校生活に苦しむ18歳の女性事例が取り上げられるなど、月経随伴症状やPMSによる日常生活への影響に注目が集まるようになった2,3,4

また、日本産婦人科医会は、月経随伴症状による若年女性の学校欠席率は7.7~57.8%と報告しており5、学術研究では、高校生を対象としたPMSの学校生活への影響を調査したものが存在する6,7

しかし、これら既存の調査では、月経随伴症状とPMSが学校欠席に影響を与えることは示されてはいるものの、どの症状が特に日常生活へ影響を与えているのかが明確になっていない。

そこで、本稿では、月経随伴症状及びPMSの上位3位を占める主要症状と、主観的な日常生活困難感との関連性を統計学的に分析した結果、全体の6割が日常生活に困難感を感じており、月経随伴症状「下腹部痛」「眠気」「イライラ」と、PMS症状「イライラ」「食欲亢進」は、日常生活へ有意な影響を与えていることが明らかとなった。

尚、本稿は、「日本の10歳代女性における月経随伴症状に関する実態調査(基礎研究報告)」の第2稿にあたり、インターネット調査で明らかとなった日本の10歳代女性の月経随伴症状及びPMS症状と日常生活困難感との関連性を検討した結果を示すものである。
 
1 基礎研レポート「日本の10歳代女性における月経随伴症状に関する実態調査(1)」
 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74017_ext_18_0.pdf?site=nli
2 東洋経済オンライン(2020)「生理前の不調」で学校生活に苦しんだ女性(2020年4月25日)
3 教育新聞(2021)「生理つらいが学校休めない」高校生や大学生約7割が経験(2021年11月18日)https://www.kyobun.co.jp/news/20211118_02/
4 NHKおはよう日本ニュースアップ(2021)「生理痛で学校に行きたくない、休みたくても休めない学生たち
の実状」2021年11月18日放送
5 日本産婦人科医会,No106 思春期のケア,(1)月経困難症 www.jaog.or.jp/note/(1)月経困難症/
6 只川真理ら(2014)「女子高校生におけるPMS・PMDD症状による学校欠席の実態とリスク因子解析」
思春期学32(1)134..
7 山口悠ら(2022)「高校生におけるPMS・PMDDの実態および学校生活へ与える影響―保健室来室回数,
保健調査有症項目数,欠席日数,遅刻・早退日数との関連―」千葉大学教育学部研究紀要第70巻p99-109.

2――分析方法

2――分析方法

本調査概要及び回答者の属性傾向については、基礎研レポート「日本の10歳代女性における月経随伴症状に関する実態調査(1)」を確認いただきたい8

本稿における分析方法については、まず、10歳代女性の月経随伴症状に伴う日常生活困難感についての調査結果を示す。

次に、この日常生活困難感と、月経の有無及び月経周期、月経随伴症状上位3項目、PMS症状上位3項目との関連性の検討を、χ検定及び残差分析に基づく単変量解析を実施した結果を示す。

尚、月経随伴症状に関する日常への影響度については、主観的な困難感を5件法で調査しているため、子宮内膜症の重症度などの極めて客観的な医学情報とは連動しないこと、また、この日常生活への影響度が、不登校や性格的な攻撃性(精神症状)などへの実態影響とは、必ずしも一致しないことにご留意いただきたい。
 
8 基礎研レポート「日本の10歳代女性における月経随伴症状に関する実態調査(1)」
 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74017_ext_18_0.pdf?site=nli 

3――日本の10歳代女性における日常生活困難感

3――日本の10歳代女性における日常生活困難感

最初に、日本の10歳代女性における日常生活困難感を調査した結果を図表1へ示す。この日常生活困難感に関する調査は、現在の月経の有無及び月経周期に関する調査に回答した440名のうち、過去に一度も月経が発来したことがない者3名と月経有無及び周期について分からないと回答した5名の、計8名を分析対象から除外し、現在月経のある者及び現在は月経がないが、今までに一度でも月経があった者の計432名、そこからさらに欠損値4名を除外した、合計428名を分析対象者として結果を示したものである。

また、月経に伴う症状における日常生活への影響度を図るために、設問は「全く困難を感じない」、「あまり困難を感じない」、「どちらとも言えない」、「やや困難を感じる」、「とても困難を感じる」の5件法にて主観的な困難感を選択してもらう形で回答を得た。

その結果、全く困難を感じないは26名(6.1%)、あまり困難を感じない78名(18.2%)、どちらとも言えない75名(17.5%)、やや困難を感じる179名(41.8%)、とても困難を感じる70名(16.4%)であった。

これらの結果より、日本の10歳代女性における月経に伴う諸症状による日常生活への影響度について、「やや困難を感じる」と回答した割合が4割超を占め、全体の2割強は日常生活へ影響が少ないと回答する一方で、全体の6割近くが日常生活へ影響があると回答したことが明らかとなった。
図表1.日本の10歳代女性における日常生活困難感

4――日常生活困難感と月経有無及び月経周期との関連性

4――日常生活困難感と月経有無及び月経周期との関連性

続いて、月経の有無及び月経周期において日常生活への困難感の違いがあるのかを明らかにするため、χ検定による関連性の検討を実施した。

その結果、本分析において、全ての項目において有意な差は認められなかった。この結果は、月経随伴症状の有無や周期異常に関わらず、月経随伴症状が出現している場合には、日常生活への影響が存在すること、また個体差による影響度の感じ方の違いにより、有意差が明らかに認められない結果が示唆されている可能性がある。
図2.月経の有無及び月経周期と日常生活困難感との関連性
この結果を通して伝えたいことは、月経があり28日型であるいわゆる正常な状態である場合にも、個人の感じ方によっては、月経に伴う症状や感じ方には個人差があるということである。

特に、月経に伴う症状には、ムラがあり、今回の調査で日常生活には影響がないと回答した場合にも、次回の月経期には酷く辛く感じる場合もある。月経に伴う症状が原因で学校の授業をやむなく欠席する時や、成人女性であれば仕事の調整を図る時、生理休暇を取得する場面では、「生理くらいで休むなんて」「生理のせいにするな」「たかが生理で」9,10,11など、心無い言葉を浴びせられている女性もいる。月経の痛みの感じ方は個人差も大きく、時期によってもムラがあることに留意をする必要があるであろう。
 
9 日本若者協議会(2021)「9割以上の学生が「生理によって学校を休みたいと思ったことがある」にもかかわ
らず、そのうち68%が休むのを我慢している、学校での「生理休暇」についてのアンケート結果まとめ」
10 マイナビウーマン(2016)「生理でつらいとき、男性の心ない言葉にイラついた瞬間6」2016年11月11日
11 Woman type(2021)「8割以上の女性が「生理による仕事への影響」を実感。それでも「生理休暇」取得が
進まないワケは?」,「女性の上司が『生理が辛いけど仕事に来た!』と言う人だから」

5――日常生活困難感と月経随伴症状(上位3項目)との関連性

5――日常生活困難感と月経随伴症状(上位3項目)との関連性

続いて、月経随伴症状において日常生活への影響の有無があるのかを明らかにするため、月経随伴症状の上位3項目である「下腹部痛」、「眠気」、「イライラする」についてと、日常生活困難感との関連性をχ検定にて解析した。

その結果、月経随伴症状における上位3項目のうち、「イライラする」(P<.001)、「眠気」(P<.001)、「下腹部痛」(P<.001)の全ての症状において、日常生活困難度との有意な関連性が認められた。

残差分析で詳細を確認すると、「下腹部痛がある」と回答した者において、日常生活困難感「やや困難を感じる」、「とても困難を感じる」と回答する者の割合が有意に高い割合を占める結果となった。

また、「眠気がある」と回答した者においても、日常生活困難感として「やや困難を感じる」、「とても困難を感じる」と回答する者の割合が有意に高い結果が明らかとなった。
さらに、「イライラする」と回答した者においても、同様に、日常生活困難感として「やや困難を感じる」、「とても困難を感じる」と回答する者の割合が有意に高い結果が示された。

本分析において、月経随伴症状の上位3項目を占める「下腹部痛」、「眠気」、「イライラする」の症状を有する者は、日常生活困難感においても、「やや困難を感じる」、「とても困難を感じる」のいずれかを感じている者の割合が有意に高く、月経随伴症状の上位3つを占める症状は、日常生活への影響度が非常に高いものであることが明らかになった。
図表3.月経随伴症状上位3項目と日常生活困難感との関連性

6――日常生活困難感と月経前症候群(PMS)との関連性 

6――日常生活困難感と月経前症候群(PMS)との関連性 

上記と同様に、PMS(月経前症候群)においても、日常生活への影響が認められるのかを明らかにするため、PMS症状の上位3項目である「イライラする」、「下腹部痛」、「食欲亢進」についてと、日常生活困難感との関連性をχ検定にて解析した。

その結果、イライラする(P<.001)と、食欲亢進(P=.002)において、日常生活への有意な影響が認められた。

残差分析で詳細を確認すると、「イライラする」と回答した者において、日常生活困難感として、「とても困難を感じる」と回答した者の割合が有意に高い結果であった。

また、「食欲亢進」と回答した者において、日常生活困難度として、「とても困難を感じる」と回答する者の割合が有意に高い結果が示された。
図4.PMS(月経前症候群)上位3項目と日常生活困難感との関連性
本分析において、PMS症状の上位3項目「イライラする」、「下腹部痛」、「食欲亢進」のうち、「イライラする」及び「食欲亢進」の症状を有する者は、日常生活において「とても困難を感じる」者の割合が有意に高く、PMS症状のイライラと食欲亢進症状は、日常生活への影響度が非常に高いことが明らかになった。

7――まとめ

7――まとめ

本調査は、日本の10歳代女性における月経随伴症候群の実態を明らかにすることを目的に、インターネット調査を実施し、440名より回答を得たデータを統計学的に分析した結果を示すものである。

本稿では、日常生活困難感との関連性を明らかにするため、428名を統計学的に分析した結果、月経の有無及び月経周期別における日常生活への影響は、統計学的な有意差は認められなかったものの、月経随伴症状の「下腹部痛」、「眠気」、「イライラする」の上位3項目と、PMS症状の上位3項目のうち、「イライラする」と「食欲亢進」については、日常生活への影響度が非常に高いとの結果が明らかになった。

本稿では、日本の10歳代における月経随伴症状に関する日常生活への影響を日常生活困難感との関連性を統計学的に検証した結果を示した。次回の第3稿では、月経随伴症状における日常生活困難感と、睡眠やBMI、生活習慣との関連性を解析した結果を示す予定である。
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2023年03月07日「基礎研レポート」)

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【日本の10歳代女性における月経に伴う諸症状に関する実態調査(2)-月経随伴症状「下腹部痛」「眠気」「イライラ」と、PMS症状「イライラ」「食欲亢進」は、全体の6割近くが日常生活に影響あり-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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