2023年02月07日

年金額改定ルールが抱える次期改革に向けた論点~年金改革ウォッチ2023年2月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金数理部会は、厚生年金財政のうち国家公務員共済・地方公務員共済・私学共済について、2021年度の状況を確認した。資金運用部会は、デジタル庁の基本方針に則ったシステム整備を中期計画に追加することを了承し、必要な予算について説明を受けた。また、第4期中期目標期間の振り返りについて説明を受け、国民への情報発信などについて議論した。また、2022年(暦年)平均の消費者物価指数の公表を受けて、2023年度の年金額改定が公表された。
 
○社会保障審議会 年金数理部会
1月11日(第95回) 令和3年度財政状況(国共済・地共済・私学共済)等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00026.html (資料)
 
○社会保障審議会 資金運用部会
1月16日(第19回) 中期計画の変更、第4期中期目標期間の振り返りと今後の展望
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30270.html (資料)
 
(参考) 厚生労働省 年金局 年金課
1月20日 令和5年度の年金額改定について
 URL https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001040881.pdf (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:年金額改定ルールが抱える次期改革に向けた論点

2023年度の年金額は3年ぶりの増額となったが、2年連続で繰り越されていた調整率が一気に適用される形となった。本稿では、年金額の改定における調整の仕組みを確認し、今後の論点を展望する。
1|現状:低インフレやデフレ時に調整を繰り越し、高インフレ時に繰越分も合わせて適用
年金額は年度ごとに見直されている。以前は年金額の実質的な価値を維持するために物価や賃金の伸びに合わせて見直されていたが、2015年度から年金財政の健全化が見込まれるまでは、保険料の引上げ停止に対応して少子化や長寿化に合わせた調整(いわゆるマクロ経済スライドによる実質的な目減り)も加味して見直される。
図表1 年金額の改定ルール 原則としては、本来の改定率である物価や賃金の伸び率から調整率を差し引いた値が年金額の改定率(伸び率)となる*1。ただし、この仕組みには特例が設けられており、物価や賃金の伸びが小さい場合は、調整後の年金額が前年度と同額になる水準までしか調整率が適用されない(図表1の特例A)。また、物価や賃金の伸びがマイナスの場合は、調整率がまったく適用されない(図表1の特例B)。

適用されなかった調整率は、2018年度以降は翌年度に繰り越され、物価や賃金の伸び率が当年度分の調整率よりも大きい場合(すなわち原則が適用される場合)に消化されている。物価や賃金の伸び率が小さく消化しきれない場合は、消化しきれなかった分が再び繰り越される。
 
*1 原則がこのような仕組みになっている背景は、拙稿「2023年度の年金額は、なぜ目減り?」などを参照。
図表2 近年における年金額改定のイメージ 2|課題:健全化の遅れと、高インフレ時の大幅な目減り
この仕組みの課題は、年金財政の健全化の遅れと高インフレ時の大幅な目減りが生じる可能性である。

以前の繰越しがない制度に比べれば健全化が進むが、常に完全に調整する仕組み(いわゆるフル適用)に比べると特例時に調整が不十分となる。その分だけ年金財政の健全化が遅れ、将来の給付水準が低下する可能性がでてくる。

また、低インフレやデフレが続くと繰越分が雪だるま式に増え、それが高インフレ時に一気に消化されて年金額が大幅に目減りする可能性がある。
図表3 未調整分の繰越や常時完全調整のイメージ 3|論点:常時完全調整以外の折衷案
これらの課題を解決するのが常に完全に調整する仕組みだが、2016年改正の際に与党の判断で導入が見送られ、現在の繰越方式になった経緯がある。そのため、次期改革に向けては折衷案の検討が必要と思われる*2

その1つとして、単純な完全適用では受給中の高齢者への影響が大きいことを考慮して、68歳以上の本来的な改定率を67歳以下と同じ賃金上昇率に戻した上で調整率を常に完全適用する、という案が考えられる。

他には、繰越分が過大にならないよう、調整率の一部を常に適用する案も考えられる。具体的には、適用すべき調整率の一定割合(例えば半分)や定率(例えば調整率のうち長寿化相当とされている0.3%)の常時適用が考えられる。

社会保障審議会年金部会は昨年10月以降休会となっているが、早期の再開としっかりとした議論を期待したい。
 
*2 折衷案の検討においては、年金財政や給付水準に与える影響を複数の前提で試算した上で、当面の受給者と将来の受給者に与える影響のバランスなどを議論する必要がある。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年02月07日「保険・年金フォーカス」)

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