2023年01月10日

英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その5)-報告改革に関する協議文書の公表-

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1―はじめに

英国は、2020年2月1日にEUから離脱したが、2020年12月31日までは移行期間としてEU法が適用されてきた。これまでEU加盟国として、EUのソルベンシーII制度下にあった英国であるが、2021年からは、独自の新たな規制を構築していくことが可能になっている。

英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向については、これまで、まずは2021年9月の2回のレポートで、英国がどのような問題意識を有して、どのようなプロセスで、ソルベンシーIIのレビューを進めようとしているのかについて、それまでの過去1年間の動きを追うことで報告した。

その後、2022年2月21日に、財務省(HMT)の経済長官によるスピーチ及び英国政府のHPでの公表により、ソルベンシーII改革のヘッドラインが発表されたことを受けて、これらの動きについて、基礎研レポート「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その3)-英国政府が改革のヘッドラインを発表-」(2022.3.8)で報告した。

さらに、この後、財務省は2022年4月28日に、ソルベンシーIIのレビューに関する協議文書(CP)を公表1した。これを受けて、保険監督官庁であるPRA(健全性規制機構)は同日に、ソルベンシーIIの改革に関する声明を公表2するとともに、論点書(DP)3を公表した。これらに対するコメントの期限は7月21日となっていたが、ABI(英国保険会社協会)は7月21日に回答内容4及び提案された改革の独立した分析5を公表している。また、PRAのSam Woods長官は、ソルベンシーII改革に関して、7月8日にイングランド銀行のウェビナーでスピーチを行った6

基礎研レポート「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その4)-英国政府による協議文書と業界等の反応-」(2022.8.19)では、2022年3月のレポート以降の動きとして、これらの英国政府によるソルベンシーIIレビューに関する文書の内容とそれらに対するABIの反応等について、その概要を報告した。

その後、PRAは、2022年11月10日に、ソルベンシーIIの報告改革に関する協議文書(CP)「CP14/22-ソルベンシーIIレビュー:報告フェーズ2」を公表7している。

また、財務省は、2022年11月17日に、「ソルベンシーIIのレビュー:協議-対応(Review of Solvency II:Consultation – Response)」ということで、これまでの協議を踏まえてのソルベンシーIIレビューの対応結果を公表している8。これを受けて、PRAは、2022年11月18日に、PRAは、フィードバックステートメント(FS)「FS1/22-ソルベンシーII内のリスクマージンとマッチング調整に対する潜在的な改革」を公表9している。

今後2回のレポートで、これらの内容について報告する。まずは今回のレポートでは、ソルベンシーIIの報告改革に関する協議文書「CP14/22-ソルベンシーIIレビュー:報告フェーズ2」について、その概要を報告する。
 
1 https://www.gov.uk/government/consultations/solvency-ii-review-consultation
2 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2022/april/pras-statement-on-the-review-of-solvency-ii-consultation-published-by-hm-treasury
3 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2022/april/potential-reforms-to-risk-margin-and-matching-adjustment-within-solvency-ii
4 https://www.abi.org.uk/news/news-articles/2022/07/solvency-ii-reform-proposals-need-further-work-to-meet-objectives/
5 https://www.abi.org.uk/news/news-articles/2022/07/solvency-ii-independent-analysis-of-proposed-reforms
6 https://www.bankofengland.co.uk/speech/2022/july/sam-woods-speech-given-at-the-bank-of-england-solvency-ii-striking-the-balance
7 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2022/november/review-solvency-ii-reporting-phase-2
8 https://www.gov.uk/government/consultations/solvency-ii-review-consultation
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1118359/Consultation_Response_-_Review_of_Solvency_II_.pdf<
9 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2022/november/fs1-22-potential-reforms-to-risk-margin-and-matching-adjustment-within-solvency-ii

2―ソルベンシーIIの報告改革に関する協議文書の全体像

2―ソルベンシーIIの報告改革に関する協議文書の全体像

PRAは、2022年11月10日に、ソルベンシーIIの報告改革に関する協議文書(CP)「CP14/22-ソルベンシーIIレビュー:報告フェーズ2」を公表している。ここではその概要を報告する。
1|今回の報告改革の背景と位置付け 
2020年6月30日に財務省(HMT)が「ソルベンシーIIレビュー」10を公表したが、この際に、英国の保険セクターの独自の構造的特徴を適切に反映していることを確認するため、(財務省による)証拠要請が行われた。これは、保険会社の報告要件に何らかの変更を加える必要があるかどうか、及び保険報告の様々な層をどのようにまとめて、より一貫性のある報告フレームワークを作成できるかについてのフィードバックを求めた。

このような背景の中で、PRA は、保険の報告及び開示要件の段階的な見直しを開始した。PRAは、2021年12月17日に政策声明(PS)「PS29/21-ソルベンシーIIレビュー:報告フェーズ1」11を公表し、広く使用されていないテンプレートを削除し、四半期報告免除プログラムを PRA に指定された「カテゴリー 3」の英国ソルベンシーII会社12にまで拡大して、四半期報告の比例性13を高めた。この「フェーズ1」の改革は、2021年12月31日に発効し、PRA に報告されるテンプレートの量を、英国のソルベンシーII会社全体で平均 15% 削減し、中小規模の会社ではさらに大幅に削減したと推定されている。PRA は、その後の段階でさらなる改革が検討されることを示していた。

今回のCPで提案されている報告及び開示の改革案の第2段階は、以前のフェーズⅠの報告変更に基づいており、英国の保険市場の構成をよりよく反映し、PRAへの報告の関連性を高め、健全性目標を推進する際の効率性を高めるための、より包括的な改善を提案している。

なお、財務省によるソルベンシーIIのレビューの範囲は、報告よりもはるかに広く、この CP から除外されている改革の他の領域、例えば、マッチング調整とリスクマージン、技術的準備金に関する移行措置、内部モデル、新しい保険会社、第三者の支店、及びグループのソルベンシー資本要件(SCR)、をカバーしている。PRA は、これらのその他の分野の改革及び報告テンプレートに対する潜在的な技術的変更、及びこれらのトピックに関する開示要件については、後日協議する予定である、としている。また、現在の段階を超えて、ソルベンシー及び財務状況報告書(SFCR)及び定期監督報告書(RSR)の既存の要件を見直し、これらについて適宜協議することも検討している、としている。
 
10 https://questions-statements.parliament.uk/written-statements/detail/2020-06-23/HCWS309
11 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2021/july/review-of-solvency-ii-reporting-phase-1
12 「ソルベンシーII会社」は、ソルベンシーIIによって監督される保険会社
13 保険会社の規模やその事業の性質等を反映した取扱い(対象から除外、簡素化等)
2|今回の報告改革の目的 
この協議文書(CP)は、PRAの、保険会社に対する現在のソルベンシーIIの報告及び開示要件の多くを大幅に合理化し、現在の報告が英国の保険セクターの特徴やPRAの監督上のニーズに合わせて適切に調整されないで行われている少数の領域でのデータ収集を改善するための提案を示している。PRAは、この提案により、会社の継続的な報告コストを削減し、それによって競争力と比例性を改善しながら、法定の目的を引き続き満たすことができると考えている。これらの目的を達成するために、PRAは、ソルベンシーIIに基づく会社の監督報告及び開示のための保持されているEU技術基準を取り消し、保持されているEU技術基準を修正及び置換する新しい規則を作成することを提案している。
3|政策提案の概要
政策提案としては、以下の項目が挙げられている。

・多くのソルベンシーII定量的報告テンプレート(QRTs)、直接関連する開示テンプレート、及び関連するPRAの国家固有テンプレート(NSTs)の報告要件の削除

・特定のテンプレートの報告頻度を四半期ごとから半年ごと又は年1回に減少

・同じ報告トピックをカバーする複数の報告テンプレートを新しいテンプレートに統合

・特定の報告及び開示テンプレートに対する報告比例基準の導入及び修正(臨界値の引き上げ)

・既存の報告及び開示テンプレートの修正

・新しい報告トピックをカバーする3つのテンプレートの導入(超過資本の形成、サイバー引受けリスク、損害保険債務の分析)

・特定のPRAのSS(監督声明)()で設定された期待に対する次の修正
 ・上記の報告変更案を反映
 ・SSに含まれる期待の一部を報告指示に移行
 ・英国のEU離脱後のEU規定への言及を明確化
 (注)具体的には、SS2/19「報告及び開示要件の解釈に対する PRAのアプローチとEU離脱後の規制取引フォーム」。
4|報告改革の必要性
オンショアのソルベンシーII監督報告体制は、保険会社のリスクプロファイル、資本要件、及び自己資本に関する標準化された、比較可能な、関連性のある情報を提供することにより、ソルベンシーII会社を監督するPRAの能力の中核要素を形成している。PRAのNSTsとともに、ソルベンシーII報告要件は、監督者や他のユーザーが使用する、すぐにアクセスできるデータソースを提供している。このデータはまた、イングランド銀行(The Bank)や金融行為監督機構(FCA)や国家統計局(ONS)などの他の政府機関が、業界全体の活動を分析し、保険会社とより広い金融システムとの関係を理解することを可能にする。

しかし、現在の報告制度の要素は、EU全体の複数の管轄区域にまたがる保険会社の監督をサポートすることや、EU会社の広範なグループに関連する潜在的なリスクと保険商品の監督を含む、より広範な目的のために設計されている。英国のEUからの離脱を受けて、PRAは、英国の保険セクターの特徴とPRAの目的を反映するために、報告要件を大幅に簡素化し、より適切に調整できると考えている。このCPで設定された提案は、会社が準備し、ユーザーが分析するソルベンシーⅡ報告をより効率的にすることにより、競争力と比例性を改善しながら、法定の目的を満たすPRAの能力を維持するために作成された。

PRAは、このCPの提案が、会社の安全性と健全性を促進するという主な法定目的を前進させると考えている。これは、活動に関するより関連性が高く洞察に富んだデータの提供、及び英国のソルベンシーII会社のリスクプロファイルの提供を通じて行われる。これは、報告された情報の有用性を高めて、会社のリスクエクスポージャーをよりよく反映し、PRAが会社をより効率的に監視するために利用できる情報を強化することが期待されている。PRAは、改革が行われない場合、既存のソルベンシーⅡ報告には、PRAによって広く使用されていない情報が含まれている可能性があり、一部の領域では、報告された既存の情報が監督上のニーズに適切に対応していないと考えている。

PRAは費用便益分析(CBA)を実施して、CPに設定された変更案の業界レベルでの保険会社の1回限りの導入費用と継続的な報告費用の節減を見積もっている。全体として、PRAは、その目的に対する提案の利点及び会社の年間コスト削減は、関連する1回限りの実装コストを上回ると考えている。
5|協議文書(CP)の構造
今回の協議文書(CP)は、以下のように構成されている。

・第2章は、このCPの対象となる全ての会社について、ソルベンシーII QRTs及びPRAのNSTsの削除、頻度の変更、又は適用臨界値の変更に関する提案を示している。

・第3章は、既存のテンプレートの編集や、複数のテンプレートを既存の領域内の新しい報告に統合するなど、既存のソルベンシーII報告の修正案を示している。

・第4章は、PRAが新しい報告の収集を提案している分野について説明している。

・第5章は、この CPの第2章から第4章で提示された提案の費用と便益の分析について詳しく説明している。

・第6章は、この CPの提案を実施するために、ソルベンシーIIの報告と開示に関する PRAルールブックと英国技術基準の変更案を示している。

・第7章は、欧州保険年金監督局 (EIOPA) タクソノミ2.6の更新に対するPRAのアプローチと、このCPの提案を実施するための銀行の保険タクソノミについて説明している。従って、この章には特定の政策提案は含まれていない。
6|今後の予定等
今回のCPについての意見の提出期限は2023年5月8日になっている。

PRAはさらなる変更も計画しているが、これらは、より広範なソルベンシーII協議の一部である他の改革に依存している。2 回の変更で会社に負担がかかるのを避けるため、全ての報告改革は 2024年12月31日の同じ期限に実施されることが想定されている。

PRA はまた、ソルベンシー及び財務状況報告書(SFCR)と定期監督報告書(RSR)の要件の見直しも検討している。
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中村 亮一

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