2023年01月06日

2023年の中国経済見通し

三尾 幸吉郎

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2022年の中国経済は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で掲げた経済成長率の目標「5.5%前後」を大幅に下回ることになりそうである。中国国家統計局が10月に公表した2022年(1-9月期)の経済成長率は実質で前年同期比3.0%増だった。残る10-12月期は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が再び流行し、中国政府がゼロコロナ政策を続けているため急回復は期待できない。ただし、景気対策が打ち出されたためインフラ投資が増加する見込みなので失速する恐れは小さい。2022年通期の経済成長率は実質で3%台にとどまるだろう。
 
ここ10年ほどの中国経済を振り返ると(図表1)、COVID-19が襲来する前の中国経済はすでに緩やかな減速傾向にあり、2019年の経済成長率は6%まで低下していた。習近平国家主席が2014年末に、これからは高度成長期を終えて中高速成長期に入るとして「新常態」を宣言し、「量より質」を重視して過度に高い経済成長を目指さなくなったためである。そして2020年以降はCOVID-19に翻弄された3年間となった。2020年には第1波が襲来し中国経済は失速した。中国政府が景気対策で支えたにもかかわらず前年比2.2%増にとどまった。2021年は第1波がおさまり景気がV字回復したため、財政政策では持続可能性を高め、金融政策では引き締め気味にコントロールしたにもかかわらず、同8.1%増と高成長だった。2022年にはCOVID-19の第2波が襲来し再び失速したが、景気対策で何とか3%台を確保できそうである。
 
COVID-19に翻弄されたこの3年間を均して見ると年平均4.5%前後と、5%前後と見られる潜在成長率をやや下回ったが、同時期における米国経済の年平均成長率よりは高い経済成長を維持することとなった。
 
図表1:中国の経済成長率と消費者物価
他方、インフレの状況を見ると(図表1)、2022年(1-9月期)の工業生産者出荷価格(PPI)は前年同期比5.9%上昇した。原油高を背景に生産財の値上がりが顕著で、特に採掘業は同24.9%上昇と高騰することとなった。一方、消費者物価(CPI)は前年同期比2.0%上昇と安定していた。その背景には、豚肉価格が同18.0%も下落したことや、COVID-19の第2波で消費意欲が盛り上がらず、サービス価格が同0.9%上昇にとどまったことがある。
 
2022年に景気が低迷した背景には、COVID-19の第2波が襲来したことに加えて、10月に党大会というビッグイベントが開催されたこともあった。その重要性があまりにも高いことから、さまざまな面で中国経済を下押しすることになったのである。党大会までは何としてもCOVID-19の感染拡大を阻止しようと、中国政府が居住地域をなるべく出ないよう指導したため、9月の中秋節や10月の国慶節の連休では旅行者が減少し、個人消費を下押しした。投資に関しても、党大会で決まる重要政策や最高指導部の人事を見極めた上で投資判断しようと、実施を先送りする動きが見られた。
 
しかし、そうした制約条件が無くなる2023年はさまざまな面で経済活動が活性化していく可能性が高いと見ている。COVID-19の新規感染が多少増えたとしても、無症状の患者が大半を占めていたり、死亡者がほんのわずかだったりすれば、その厳格度はゆっくりとだが徐々に緩和されていくだろう。実際、習近平国家主席が「ゼロコロナ政策を堅持する」と宣言しているにもかかわらず、2022年9月には外遊を再開し、11月のG20サミットでは外遊したうえ夕食会にも参加した。また、党大会が終わったことで民間投資も活性化するだろう。新指導部の顔ぶれが分かり、経済運営の方向性が予想しやすくなったからだ。企業家にとっては、ライバルに先んじてビジネス展開を進める絶好のチャンスでもある。したがって、2023年は抑制されてきた個人消費が徐々に勢いを取り戻し、不振だった民間投資が徐々に勢いを取り戻す年となるだろう。
 
ただし、2023年春に開催される全人代では、経済運営の陣頭指揮を執る首相が交代する見込みである。新首相がその手腕を存分に発揮できるようになるには一定の準備期間が必要だろう。そこで2023年上半期はやや低め(前期比年率4%前後)、下半期はやや高め(同6%前後)の成長率になると予想している。これらを前年比に直すと5.3%増となる。
 
図表2:中国経済の見通し(前年同期比)
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(2023年01月06日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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