2022年12月16日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について-欧州大手保険グループの対応状況(その2)-

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(9) ソルベンシーII自己資本との関係
IFRS第17号/第9号による株主資本からソルベンシーII自己資本に移行する場合、次の調整項目を考慮する必要がある。

・主に、ソルベンシーIIでは認められないのれんに関連する、無形資産の消去(▲9億ユーロ)
・ソルベンシーIIで負債として認識されないCSM(IFRS第17号/第9号の残余補償期間に認識される330億ユーロの前受利益)の算入
・主にIFRS 第17号/第9号貸借対照表の取得原価での不動産の公正価値の変動を反映した資産及び非技術的負債の時価評価(30億ユーロ)
・主に非金融リスクに対する引当金(ソルベンシーIIのRM vs IFRS第17号のRA)と残存カバレッジに対する損害保険負債の評価(ソルベンシーIIの最良推定vs IFRS第17号の保険料配分アプローチ)に関する技術的負債のモデルへのマーク(▲2億ユーロ)
・上記項目の公正価値の変動及びその他の残余移動の結果として生じるネット繰延税金その他(▲9億ユーロ)
・劣後債務、予見可能な配当及びソルベンシーII控除を含む、負債超過資産(XAL)調整額(30億ユーロ)

(10) 財務レバレッジ
財務レバレッジ(比率)は、IFRS第4号に基づく比率26%(=金融負債/(株主資本+金融負債))が、IFRS第17号においては16%(=金融負債/(包括資本(株主資本+ネットCSM)+金融負債))となる。

(11) その他
(11-1) 生命保険
・CSMのリリース比率(リリース前のCSMに対するリリースの割合)は、8%~10%の範囲(毎年25億~35億ユーロのリリース)にあると想定される。
・IFRS第17号のNBV(新契約価値)は、IFRS第17号発効後の新契約価値を表す新しい生命保険KPIとなるが、以前のNBVと比較して、新しい定義では、IFRS 第17号の経済的前提、異なる契約境界及び資本コストとヘッジ不能リスク(CoC & NHR) の代わりにリスク調整が考慮される。

(11-2) 損害保険
・GWP(総収入保険料)はもはやP&Lでは報告されないが、引き続きトップラインのKPIのままである。

(12) 2024年の目標と財務KPIs(主要業績指標)に与える影響
2024年の目標と財務KPIs(主要業績指標)に与える影響
4|Zurich
Zurichは、2022年9月27日に、新しい財務報告規則の実施に関する最新情報を提供するとして、その「ZurichにおけるIFRS第17号」との資料の中で、IFRS第17号の適用に伴う影響等を開示している5。さらに、2022年11月16日の「投資家の日」には、IFRS第17号に基づく2023年から2025年までの期間のグループの新しい財務目標を公表している6
(1) 主要なメッセージ
主要なメッセージ
(2) ロードマップ
今後のスケジュールとして、以下の通りとしている。

・2022年第4四半期中:投資家の日(Investor Day)にIFRS第17号ベースでの2023年~2025年の財務目標を公表
・2023年第1四半期中:2022年決算をIFRS第4号で報告(IFRS第17号の移行の影響を議論)
・2023年第2四半期中:2023年第1四半期結果のニュースリリースのみ(その後まもなく、2022年のIFRS第17号による財務情報)
・2023年第3四半期中:2023年上半期結果(最初の完全なIFRS第17号報告)
・2023年第4四半期中:2023年第3四半期結果のニュースリリースのみ
・2024年第1四半期中:2023年決算結果(完全なIFRS第17号報告)

(3) 定性的な考察と適格性評価に基づく測定モデルの選択
定性的な考察と適格性評価に基づく測定モデルの選択
具体例
・日本のP&C 個人傷害保険 BBA
・北米のP&C 労働者災害補償保険 PAA
・南米のLife Santander JV保障 PAA
・オーストラリア Life 保障 BBA

(4) オプションの選択
基礎的な経済を反映し、可能な限りの収益の安定性を提供するオプションを選択
オプションの選択
(5) 生命保険事業(Life)への影響
キーメッセージは、以下の通りとなっている。
生命保険事業(Life)への影響
(6) 生命保険の契約タイプごとの測定モデル
生命保険の契約タイプごとの測定モデルは、契約の性質に従って、以下の通りとなっている。
生命保険の契約タイプごとの測定モデル
(7) IFRS第17号の下での2023年~2025年の新しい財務目標
2022年11月16日の「投資家の日」には、IFRS第17号に基づく2023年から2025年までの期間のグループの新しい財務目標(注1として、以下が公表されている。

・20%を超える自己資本利益率 (BOPAT ROE) 後の事業営業利益(注2
・年間8%の1株当たり利益の複合的な有機的成長(注3
・135億米ドルを超える累積キャッシュ送金
・スイスソルベンシーテスト(SST)比率(注4:少なくとも160%

なお、配当政策は変わらない(注5、としている。

(注1)9月に概説したように、新しい目標は、2023年1月1日現在のZurichの財務諸表に適用される財務報告に関するIFRS第17号に基づいている。
(注2)未実現利益と損失を除いた、株主資本税還付後の年換算営業利益
(注3)2023年から2025年までの期間における、資本分散前の1株当たり有機的利益複利成長率。2020年から2022年にかけての1株あたりの複利利益成長率5%の目標が達成されたと仮定している。
(注4)スイス金融市場監督局FINMAによって承認されたグループの内部モデルに基づいて計算されたスイスソルベンシーテスト(SST)比率。1月1 現在のSST比率は、毎年4月末までに FINMA に提出する必要があり、FINMA による審査の対象となる。
(注5)配当は、年次株主総会での株主の承認を条件とする。
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中村 亮一

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