2022年12月14日

日銀短観(12月調査)~景況感は非製造業を中心に改善したが先行きへの警戒感が強い、設備投資の伸びは依然高いが先送りの動きも

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4. 売上・利益計画: 22年度収益計画は上方修正、中小企業は依然減益計画

2022年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比7.7%増(前回は6.0%増)、経常利益が同7.5%増(前回は1.1%増)と、ともに上方修正され、前年比での増収増益計画が維持された。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、6月調査で前年度分の上方修正などを受けて伸び率がさらに下方修正された後は、(景気が想定外に下振れた場合を除き)実績が判明するにつれて上方修正される傾向が強い。今回も同様のパターンとなった。

原燃料価格の高騰や中国経済の低迷などは続いているものの、前回調査以降、自動車産業における供給制約がやや緩和し、国内の経済活動再開の流れも継続したことを受け、もともとの保守的な想定よりも収益が上振れたことを反映したとみられる。また、利益の上方修正が目立つ加工業種は、輸出割合が高いだけに、想定為替レートの円安方向への修正(下記)が収益の押し上げに寄与したようだ。

ただし、中小企業では、収益の上方修正幅が限られ、引き続き減益となる計画が維持されている。大企業と比べた場合の価格転嫁の難しさを反映している可能性がある。
 
2022年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は130.75円(上期129.19円、下期132.31円)と、前回調査時点(125.71円)から約5円円安方向へ修正されたものの、足下の実勢(136円台)やこれまでの年度平均レート(4月~11月・136.7円)と比べて依然かなり円高の水準に留まっている。企業の想定為替レートは実勢の反映に時間がかかる傾向があるため、修正がまだ追い付いていない状況とみられる。また、輸出企業では、あえて収益に保守的となるように円高ぎみに据え置いている企業もも多いとみられる。

今後、大幅な円高が進まなければ、想定為替レートが円安方向に修正されることで輸出企業が牽引する形で全体の収益計画にとって上方修正要因になる。ただし、輸出割合が低い企業では、円安方向への修正によって原材料輸入コストが膨らみ、利益計画の下方修正要因になる恐れもある。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8)経常利益計画(全規模・全産業)

5. 設備・雇用

5. 設備・雇用:設備投資計画は高い伸びを維持、人手不足感はコロナ前の水準に到達

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲2となった。非製造業で低下がみられる。

また、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)も、全規模全産業で前回から3ポイント低下の▲31となった。コロナ禍で一旦縮小したDIのマイナス幅は、今回コロナ前(2019年12月調査・▲31)の水準まで再び拡大している。国内で経済活動再開の流れが継続したうえ、全国旅行支援などの政策的な支援もあってサービス需要が回復したことで、非製造業を中心に設備・人出の不足感が強まっている。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)は前回から2.2ポイント低下の▲20.3となり、不足超過の度合いが高まった。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲3、雇用判断DIが▲33とそれぞれ1ポイント、2ポイントの低下が示されており、不足感がやや強まることが見込まれている。

この結果、「短観加重平均DI」も▲22.0と足元から1.7ポイント低下する見込みとなっている。
(図表9)生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10)短観加重平均DI
2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比15.1%増と前回(同16.4%増)から下方修正されたが、前年から大幅に持ち直すとの計画は維持された。16.2%という伸び率は、12月調査としてはバブル期であった1989年(15.5%)以来の高い伸びに当たる。

例年、12月調査では中小企業において計画の具体化に伴って上方修正される傾向が強いほか、企業収益の回復を受けた投資余力の改善、昨年度から先送りされている計画の存在、脱炭素やDX・省力化に向けた投資需要の存在が設備投資計画で高い伸びが維持された背景となる。

ただし、既往の資源高や円安によって資材価格が高騰しているうえ、欧米の利上げや中国経済の回復の遅れなどを受けて海外経済の後退懸念が高まっていること、国内経済もコロナの感染再拡大や物価高の影響が懸念されることから、一部で投資の見合わせや先送りの動きも出始めていると考えられる。このため、前回調査からの伸び率の修正幅(▲1.3%ポイント)は例年4を大きく下回っている。従って、設備投資計画の修正のモメンタムは弱めということになる。

また、今年度の設備投資計画は今のところ大幅に持ち直すとの計画が維持されていると評価できるものの、実際、内外経済を巡る下振れリスクは高いと考えられる。従って、今後設備投資計画が大幅に下方修正されるリスクも排除できない。
 
なお、2022年度設備投資計画(全規模全産業で前年比15.1%増)は市場予想(QUICK 集計16.1%増、当社予想は16.2%増)を下回る結果だった。
 
2022年度のソフトフェア投資計画(全規模全産業)は前年度比17.8%増(前回も17.8%増)と前回から横ばいとなり、近年と比べて高い伸びが維持されている。企業において、DXの推進や省力化などに向けた積極的なIT投資姿勢が続いていることを反映している可能性が高く、前向きな動きと言える。
(図表11)設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表12)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13)設備投資計画(大企業・全産業)
(図表14)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
4 2012~21年度における12月調査での修正幅は平均で+0.9%ポイント

6. 企業金融

6. 企業金融:原材料コスト高、借入返済が資金繰りの逆風に

企業の資金繰り判断DI(「楽である」-「苦しい」)は大企業が12と前回から1ポイントの低下、中小企業は8と前回から横ばいになった。ともに前回から大きな変化はみられない。経済活動再開の流れが続いたことは、キャッシュフローの回復を通じて資金繰りを支えたと考えられる。一方で、ゼロゼロ融資などコロナ禍で膨らんだ借入の返済や、原材料コストの上昇に伴う運転資金の増加が資金繰りの悪化要因になっているとみられる。
 
企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断DI(「緩い」-「厳しい」)は、大企業が14、中小企業が16とそれぞれ前回から1ポイント低下した。金融機関の貸出態度には前回から大きな変化はないと受け止められているものの、長い目で見れば、ゆっくりと厳格化してきているようだ。
(図表15)資金繰り判断DI(全産業)/(図表16) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2022年12月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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