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米国における保険会計基準LDTIの適用を巡る状況-米国大手保険グループによる適用の影響度等の開示状況-
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4―IFRS第17号とLDTIとの比較
以下の図表が、IFRS第17号とLDTIの比較をまとめている。
・契約の分類(会計単位)において、LDTIでは、IFRS第17号のような収益性に基づくグループ化は求められない。
・LDTIもIFRS第17号と同様に、保険負債(IFRS第17号では、保険契約負債、以下同様)の評価を最新の前提に基づいて行うロックフリー方式を採用しているが、割引率の設定方式等は異なっており、IFRS第17号の方が若干複雑な方式となっている。また、保険負債の構成要素として、LTDIには、IFRS第17号におけるCSM(契約上のサービスマージン)に相当する概念はない。
・保険契約の期間にわたって保険収益が認識されていく点は共通しており、保険料率設定時の想定通りに実際の状況が推移すれば両者の収益出現パターンは類似したものになる。ただし、想定とは異なる(不利な)状況が発生して、前提の変更が行われた場合、その影響は、IFRS第17号ではCSMを通じて、LDTIでは純保険料率の変更を通じて、反映されることになる。
5―LDTI導入による保険会社への影響
1|保険負債評価モデル
契約発行日における保険会社の「期待投資利回り」による割引率は、通常はシングルA格付け相当の債券利回りを上回る率となっており、特に低金利環境下ではLDTIによる直近のシングルA格付け相当の利回りという割引率の採用により、保険負債の大幅な増加が予想されることになる。また、LDTIによる保険負債の割引率は、保有する資産の投資利回りとの乖離により、資産と負債のミスマッチを生じさせることになるため、保険会社は、ストレステスト等により、潜在的なミスマッチの影響を評価する必要がある。これに伴い、必要に応じて、ヘッジ戦略等を再検討する必要が出てくることになる。
現在の GAAP 基準は、保険会社に、給付の特性に応じて、給付の特徴を評価するための2つの測定方法((1)組込デリバティブとして分割し、FASBのASC 815 「Derivatives and hedging」4に基づいて公正価値で認識する。(2)AICPAのSOP-03-1 5に基づく給付比率モデルを使用して保険負債として認識する(この場合、負債は時間の経過とともに徐々に設定される)。)を提供している。
LDTIの適用により、簡素化されたより一貫性のあるモデルにより、異なる保険会社間での比較可能性の向上が期待されることになる。
なお、変額年金保証に関して、現在適用されているSOP-03-1「特定の非伝統的な長期契約及び分離勘定に関する保険会社による会計及び報告」には、給付比率がアンロックされ、部分的に市場変動を相殺する減衰メカニズムがビルトインされているが、公正価値に移行することにより、市場に対してより敏感になるため、保険会社によるヘッジへのインセンティブが高まることが想定されることになる。
4 ASC(Accounting Standards Codification:会計基準コディフィケーション)
5 SOP(Statements of Position:意見書)
DACの償却方法の簡素化により、保険会社間の比較可能性が高まるとともに、現在、基礎となる契約の収益性に関連しているDAC償却の分析が容易になる。
また、LDTIにより、将来キャッシュフローや割引率の保険負債評価の前提の少なくとも年1回の見直しにより、変動性が高まることになるが、一方でDACの償却に関しての変動性は低下することになる。
6―米国大手保険グループのLDTIに関する開示内容
これによれば、各社の事業展開地域や販売商品(の種類や給付)等の構成の差異等が反映されて、各社における影響の状況は異なっている。なお、以下の図表は、各社の公表資料を筆者が翻訳したものをベースにしており、必要に応じて、追加の補足説明等の修正を行っている。
1|MetLife
MetLifeは、2022年第2四半期の業績発表時に、その補足資料のスライド6の中で、LDTIによる適用初年度の移行残高の影響(2020年12月31日)について、以下の開示を行っている。
一方で、FCTA以外のAOCIは、219億ドルから34億ドル~49億ドルへと、170億ドル~185億ドル減少する。これは、日本事業等における保険負債評価における現在金利の適用による影響が、AOCIには大きく影響する形になっていることによる。
Prudential Financialも、2022年第2四半期の業績発表時に、その補足資料のスライド7の中で、LDTIによる適用初年度の移行残高の影響について、以下の開示を行っている。
まずは、調整後簿価(Adjusted Book Value)へのLDTIによる影響(2021年12月31日)について、420億ドルから400億ドル~410億ドルへと、10億ドル~20億ドル減少する(注1)、としている。
また、重要ポイント(Key Takeaways)として、以下の通りに説明している。
・直接的な経済効果はない。
―LDTIは、法定業績やキャッシュフローに影響を与えない。―
・AOCIを除く調整後簿価は、利益剰余金から AOCI への不履行リスクゲインの再分類及び準備金のその他の変更を反映して減少する。
-AOCIは資産と保険負債の評価において対称性を欠き続けているため、関連する指標であり続ける。
・2021年12月31日の時点で、AOCI は280億ドル~330億ドル減少する(注2)。これは主に、より低い割引率を使用した一定の日本の契約負債の再測定によるものである。
・2021年12月31日現在、主に日本事業において、AOCIを含む GAAP資本と調整後簿価は、600億ドル~650億ドル(注3)の未実現保険マージンを引き続き除外している。
―これらのマージンは、財務体力を決定する重要な要素である。―
(注2)2021年12月31日現在の AOCI の推定減少額は、金利の上昇と 2021年6月の台湾プルデンシャルの売却により、2021年1月1日時点の移行日よりも約120 億ドル低くなる。
(注3)2021年12月31日現在の推定税引後未実現保険マージンは、金利の上昇により、2021年1月1日時点の移行日よりも約40億ドル低くなる。これは、LDTI に基づく再測定の対象となる商品負債についての、現在のシングルAレートでの総保険料の現在価値から純保険料の現在価値を差し引いたものに、繰延収益負債を加えたものを表している。
(注4)想定されるLDTI移行調整簿価と比較可能なGAAP指標との間の調整は、以下の通り。
AIGは、他の保険会社に先駆けて、例えば2021年の決算発表時の2022年2月17日に、LDTIの適用による影響について、説明している7。
Peter Zaffino社長兼CEOは、「現在の金利とマクロ環境に基づいて、LDTI会計へのエクスポージャーを分析した結果、LDTIの移行の影響は、生命保険・退職の現在のAOCIの残高内に収まると予想している。」と述べた。また、EVPでグローバルチーフアクチュアリーのMark Lyons氏は、以下の通り説明している。
・LDTI 会計の変更は、GAAP の会計基準であり、キャッシュフローや法定業績への影響はない。
・LDTIが2023年から実施された場合、株主資本が10億ドル~30億ドル減少(2021年末の株主資本は660億ドル)すると予想されるが、現在の推定値はこの範囲の下限に向かっている。この減少は、利益剰余金の増加とAOCIの減少による相殺を表している。
・FAS 60の対象となる死亡率を含む古い伝統的商品のLDTIへの影響は、特定の長寿商品に関連する過去のAOCI調整の消去によってほぼ相殺されるため、幅広い生命及び退職の商品提供が価値を提供する。
・生前給付に関する現在のGAAP会計は公正価値であり、変更は損益計算書に反映されるが、LDTIの下では、その費用の一部は、会社自身の信用スプレッドに関連してAOCIに記録され、ボラティリティをいくらか抑えるのに役立つ。
・ただし、死亡給付もまた公正価値で評価され、GAAP損益計算書内でボラティリティを別の方向に向けるための相殺として機能する。
(2022年12月01日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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