2022年12月01日

法人企業統計22年7-9月期-高水準の企業収益が設備投資の増加につながる

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.7四半期連続の増益

経常利益の推移 財務省が12月1日に公表した法人企業統計によると、22年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比18.3%(4-6月期:同17.6%)と7四半期連続で増加し、前期から伸びを高めた。非製造業は前年比5.6%(4-6月期:同21.9%)と伸びが鈍化したが、製造業が前年比35.4%(4-6月期:同11.7%)と伸びが加速した。
製造業は、円安による輸出拡大の影響などから売上高の伸びが4-6月期の前年比6.1%から同12.1%へ加速したことに加え、売上高経常利益率が21年7-9月期の7.4%から8.9%へと改善したことが収益の押し上げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、円安、原油高の影響で変動費が13.6%の高い伸びとなり、利益率を押し下げたが、人件費が前年比0.9%と売上高の伸びを大きく下回り、売上高人件費率が改善したことに加え、受取利息等が前年比76.0%の大幅増加となったことから、金融費用要因が利益率を大きく押し上げた。

非製造業は、売上高経常利益率が4.2%と前年同期と変わらない中で、売上高が4-6月期の前年比7.6%から同6.7%へと減速したことが、増益率の鈍化につながった。製造業と同様に、変動費が前年比7.8%の高い伸びとなり、変動費要因がマイナスとなる一方、人件費要因が利益率を押し上げた。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)

2.製造業の経常利益(季節調整値)は過去最高を更新

経常利益を業種別に見ると、製造業は、食料品(前年比▲4.4%)、化学(同▲3.8%)、石油・石炭(同▲41.8%)、鉄鋼(同▲3.1%)は減少したが、輸送用機械(同168.9%)、生産用機械(同51.4%)、業務用機械(同73.4%)、電気機械(同73.4%)が大幅増益となった。

非製造業は、電気業が4四半期連続の赤字(▲6,746億円)、建設業が5四半期連続の減益(前年比▲38.5%)となったが、卸売・小売業(同15.0%)、運輸・郵便業(同739.2%)の高い伸びがそれをカバーした。非製造業の中で、コロナ禍の悪影響を大きく受けている業種についてみると、生活関連サービス業は4-6月期に続き黒字となったが、飲食サービス業は2四半期ぶり、宿泊業は3四半期連続の赤字となった。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比▲5.3%(4-6月期:同5.4%)と4四半期ぶりに減少した。製造業は前期比6.9%と4四半期連続で増加したが、非製造業が同▲13.3%と2四半期ぶりに減少した。

22年7-9月期の経常利益(季節調整値)は23.2兆円となり、過去最高だった前期から低下したが、過去最高に近い水準を維持している。非製造業は12.8兆円とこれまでのピーク(19年1-3月期の16.0兆円)を20%程度下回っているが、製造業は10.4兆円と過去最高を更新した。
 
製造業、非製造業ともに円安、資源高に伴うコスト増が収益の圧迫要因となっているが、製造業は円安による輸出の拡大効果がそれを大きく上回っている。

先行きについては、海外経済の減速を主因として輸出は弱い動きとなるものの、個人消費を中心とした国内需要の増加が収益の改善に寄与することが見込まれる。ただし、金融引き締めに伴う米国経済の急減速、ゼロコロナ政策継続による中国経済の下振れ、冬場の電力不足による経済活動の制限、新型コロナウイルス感染拡大時の政策対応の不確実性、など下振れリスクは大きい。

3.設備投資の伸びが加速

設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比9.8%(4-6月期:同4.6%)と6四半期連続で増加し、前期から伸びを高めた。製造業が前年比8.2%(4-6月期:同13.7%)と6四半期連続、非製造業が前年比10.7%(4-6月期:同▲0.0%)と2四半期ぶりに増加した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比2.4%(4-6月期:同4.1%)と2四半期連続で増加した。製造業は前期比▲2.3%(4-6月期:同6.6%)と2四半期ぶりに減少したが、非製造業が前期比5.1%(4-6月期:同2.8%)と2四半期連続で増加した。

企業収益が好調を続ける中で設備投資の回復ペースは緩やかなものにとどまっていたが、ここにきて回復が本格化してきた。

4.7-9月期・GDP2次速報は上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、12/8公表予定の22年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.1%(前期比年率▲0.4%)となり、1次速報の前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)から上方修正されるだろう。

設備投資は1次速報の前期比1.5%から同2.4%へ上方修正されると予想する。

設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比8.0%(4-6月期:同3.5%)と6四半期連続で増加し、前期から伸びが大きく加速した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ、前年比8%と公表値と同程度の伸びとなった。また、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比65.2%(4-6月期:同▲10.5%)の大幅増加となった。1次速報段階では、設備投資の需要側推計値は前年比7.5%となっていた。本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。
2022年7-9月期GDP2次速報の予測 また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度▲0.1%から同0.0%へと上方修正されるだろう。

なお、12/8の22年7-9月期GDP2次速報では、21年度の年次推計値が併せて公表され、四半期の計数は22年1-3月期までが速報値から年次推計値に改定される。22年7-9月期の成長率は、法人企業統計を中心とした基礎統計の追加に加え、21年度の年次推計に伴う遡及改定の影響を受けるため、不確定要素が多いことを念頭に置いておく必要がある。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年12月01日「経済・金融フラッシュ」)

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