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- 利他性が強い人はテレワークで生産性低下を感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(7)-
2022年10月26日
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1――はじめに
本稿を含めて全8回の基礎研レターでは、2022年3月にニッセイ基礎研究所が独自に行ったアンケート調査のデータを用いて、テレワーク拡大によってどのような人は生産性が高まったと感じ、どのような人は生産性が下がったと感じたのかを分析した結果を紹介していく。本稿ではそのうち第7回目として、人々の利他性に注目した分析結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、利他性が強い人の間では、コロナ禍でテレワークをするようになったことで、生産性が低下したと感じた人の割合が大きかった。
2――利他性が強い人は、生産性が低下したと感じた人の割合が大きい
日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)テレワークを行った人へ、「在宅勤務・テレワークで仕事をする時、勤め先に出社して仕事をする場合と比べて、仕事の生産性をどう感じましたか。」と質問した際の回答を、利他性の強さ別に回答の分布を示したのが図1である1。図1からは、非常に利他的な人は、その他の人と比べて、テレワークをするようになって生産性が向上した、もしくは生産性がやや向上した、と感じた人の割合は小さく、生産性が低下した、もしくは生産性がやや低下した、と感じた人の割合は大きい傾向が見られる。また、完全に利己的な人を除けば、利他性が強いほど、生産性が低下した、もしくはやや低下した人の割合は大きくなる傾向もみられる2。
1 ニッセイ基礎研究所が実施した独自の被用者を対象とした調査の回答者計5,653名のうち、本質問の対象者となる、日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)一番テレワークを利用した時期に、月1回以上のテレワークを行ったと回答した人は、1,985名。
本調査は、全国の 18~64 歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国 6 地区、性別、年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて収集した(株式会社クロス・マーケティングのモニター会員)。調査の概要は以下の基礎研レター参照。
岩﨑敬子(2022年9月14日)「会社員/公務員がテレワークによって感じた生産性の変化概況-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72366?site=nli)
2 図1では、「かなり利他的」な人は、「ある程度利他的」な人より、生産性が向上したと感じた人の割合が大きいが、「テレワークで生産性低下/向上を感じた人の特徴―テレワークで生産性が上がった人/下がった人(8)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72860?site=nli)で紹介するように、独裁者ゲームの質問で、相手への配分額が大きいほど大きい値をとる変数を説明変数とし、その他さまざまな属性をコントロール変数として含めた回帰分析(被説明変数は、テレワークによる生産性の感じ方)では、利他性が強いほど生産性が向上したと感じにくく、生産性が低下したと感じやすい傾向が確認された。
3――おわりに
本稿では、ニッセイ基礎研究所の独自調査のデータを元に、新型コロナ拡大以降テレワークを行った人の間では、利他性が強い人の間で、テレワークによって生産性が下がったと感じた人の割合が大きい傾向を確認した。この要因については今後の検討課題であるが、テレワークでは、オフィスで行う業務に比べて、顧客や同僚に直接会う機会が少ないことが要因になっている可能性が考えられる。直接会うことが少ない中で、特に利他的な人は、利他的な行動から感じられていた達成感や役に立っているという実感をしにくくなり、生産性の低下を感じた可能性が考えられるかもしれない。その場合、この結果は、テレワークを行う上での適切なフィードバックやコミュニケーションの重要性を示唆するものと考えられる。
(2022年10月26日「基礎研レター」)
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03-3512-1882
経歴
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
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