2022年09月13日

夏は年々暑くなっているのか?~高まる熱中症のリスクを踏まえた夏の過ごし方の見直しの必要性

山下 大輔

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1――はじめに

連日、熱中症警戒アラートが発表された今年の夏。暑いと感じた人が多かったのではないだろうか。そして、夏は昔より暑くなったという話をよく聞くところだが、実際に夏の暑さは昔と変わっているのだろうか。9月に入り、徐々に暑さが緩和されることが期待されるところだが、日本の夏の暑さを振り返るとともに、今後の夏の過ごし方を併せて考えてみたい。

2――年々暑くなる日本の夏

2――年々暑くなる日本の夏

日本の夏(6-8月)平均気温偏差 まず、気温データを確認しよう。日本全体でみると、気象庁が公表している夏(6月から8月)の平均気温偏差1は、年による変動は大きいものの、均してみれば、上昇している。1898年以降の各年の平均気温の推移を線形近似すると、100年で1.16度上昇するトレンドがある。平均値を上回るトレンドがあることは、以前よりも気温が上昇していることを意味する。なお、ここでの日本の平均気温偏差は、都市化による影響が小さく、特定の地域に偏らないように選定された15地点から算出されている2。観測地点により気温が大きく異なることから、同一地点における月平均気温と基準値との差(偏差)の推移をみて、長期的な変化傾向をみるものだ。また、都市では都市化により、気温の上昇程度が上述の15地点平均に比べて大きい傾向にある。東京の夏の気温変化は100年あたりで2.1℃、大阪については2.0℃となっている。
平均気温の100年あたりの変化率 このように夏の平均気温は長期的に上昇傾向にある。しかし、100年あたりで2℃程度の上昇であり、これが厳しい暑さを感じさせる要因とは言い難いかもしれない。

では、次に気温が高い日の日数を確認しよう。1日の最高気温が30℃以上の日は真夏日、35℃以上の日は猛暑日と呼ばれる。東京と大阪の2021年までの真夏日、猛暑日、熱帯夜の年間日数の推移を以下のグラフで示した。まず、真夏日の年間日数は、年による変動は大きいものの、緩やかに増加している。また、猛暑日の年間日数は1990年代以降で顕著に多くなっている。また、熱帯夜(本来、熱帯夜とは、夜間の最低気温が25℃以上のことを指すが、ここでは日最低気温25℃以上の日数を熱帯夜日数としている)の年間の日数も明確な増加傾向にある。このように気温が非常に高くなる日が増加し、また、気温が下がりにくい日も増加する傾向にある。
東京の真夏日の年間日数/大阪の真夏日の年間日数
東京の猛暑日の年間日数/大阪の猛暑日の年間日数
東京の熱帯夜の年間日数/大阪の熱帯夜の年間日数
なお、2022年について、8月31日までに、東京では真夏日を54日、猛暑日を16日、熱帯夜を27日記録した。8月までの時点で、真夏日は2019年(55日)、2020年(54日)、2021年(52日)と同程度となっており、猛暑日は過去最多となった。熱帯夜も、2019年(28日)、2020年(27日)と同程度となっており、2021年(19日)を上回った。
東京と世界の他都市の気候の比較(クリモグラフ) 日本の暑さの特徴は気温だけではなく、湿度の高さもある。欧米と比較すると、ニューヨークよりは夏の湿度が高く、ルクセンブルクよりは、気温が高いという関係にある。

2021年までの相対湿度3の推移をみると、東京について、2014年に観測場所が移転したことの影響を考慮する必要はあるものの、近年は平均湿度が高い都市が続いている。ただし、大阪では、年による変動が大きい。
東京の8月の平均湿度の推移/大阪の8月の平均湿度の推移
次に、気温や湿度を加味した指標である暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)の推移を確認しよう。暑さ指数とは、熱中症予防のために活用されることを意図して作成された指標であり、環境省が公表している。人体や外気との熱のやり取り(熱収支)に着目し、気温だけでなく、湿度や日射・輻射、風の要素を加えて算出される。また、環境省は、暑さ指数をもとに熱中症警戒アラートを発表している。
暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)の推移
公表が開始された2006年以降の夏(7~9月)の暑さ指数の推移を確認しよう。環境省は、熱中症予防のため、暑さ指数が28以上の場合を「厳重警戒(激しい運動は中止)」、31以上の場合を「危険(運動は原則中止)」としている。年による変動は大きいものの、東京では暑さ指数が28以上となるのは2016年以降50日以上となっている。大阪でも暑さ指数が28以上となるのが2016年以降50日近くなっている。また、特に東京に顕著なのは、1日の中で暑さ指数が31以上を記録する日数の増加である。2017年以降、20~30日程度で推移している。2022年については、8月末までの合計で、東京では、暑さ指数が28以上を記録した日数が既に57日に達しており、うち31以上を記録した日数(35日)はこれまで最多であった2018年に並んでいる。
暑さ指数が28以上の日数の推移(6~9月、東京)/暑さ指数が28以上の日数の推移(6~9月、大阪)
 
1 各年の平均気温と1990年から2020年の30年平均値(基準値)との差
2 15地点は、網走,根室,寿都(すっつ),山形,石巻,伏木(高岡市),飯田,銚子,境,浜田,彦根,宮崎,多度津,名瀬,石垣島。平均気温偏差の算出方法は気象庁ウェブサイト(https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/clc_jpn.html)参照。
3 空気中の同じ水蒸気量であっても気温により変化する相対湿度は、蒸し暑さを捉えきれていない可能性がある。

3――高まる熱中症のリスク

3――高まる熱中症のリスク

熱中症による救急搬送人数(6~9月、全国) このように、ここしばらく連続して夏が暑い状況が続いている。そして、暑さ指数が31以上になる日数の増加が示すように、熱中症にかかる危険性が近年特に上昇している。全国の6月から9月の熱中症による救急搬送人数は、2010年以降は概ね5~6万人程度で推移しており、2018年には9万人を超えることもあった。2022年については6月と7月の合計で既に2021年と同程度となっている。
熱中症による死亡数 また、熱中症による死亡者数は、近年増加しており、2018年~2020年には連続して1,000人を超えた。とりわけ65歳以上の高齢者が8割程度を占めており、高齢者にとって暑い夏は特に注意すべきものとなっている。

環境省は、暑さ指数と救急搬送件数の関係について、暑さ指数が28を超えると、熱中症での救急搬送件数が急増すると指摘している。実際、2021年の東京と大阪を例に、暑さ指数と熱中症による救急搬送人数の散布図を作成すると、暑さ指数が28前後を超えるに従って救急搬送者数が加速度的に増加する傾向があることがみてとれる。
暑さ指数と熱中症による救急搬送者数(2021年、東京)/暑さ指数と熱中症による救急搬送者数(2021年、大阪)
環境省と気象庁は、2020年7月から関東甲信地方で、2021年下旬から全国を対象に、暑さ指数が33以上と予測された場合には、熱中症警戒アラートを発表し、危険な暑さへの注意を呼びかけ、熱中症予防行動を促している。
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山下 大輔

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