2022年09月05日

定年退職予定者の研修で「公的年金シミュレーター」の活用を

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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「公的年金シミュレーター」は、厚生労働省が2022年4月に試験運用を始めた、年金見込額を簡易に試算できるWebページである。今年4月以降に発行された「ねんきん定期便」には同サービス用の2次元コードが印刷されており、これをスマートフォンで読み込めば、加入歴などを反映した試算ページにアクセスできる。
 
ねんきん定期便に印刷された2次元コードをスマートフォンで読み込むと、生年月日を尋ねる画面が表示される(図表1の左)。生年月日を入力して「試算する」ボタンを押せば、直近の収入で60歳になるまで働いた場合の年金見込額が、グラフで表示される(図表1の中央)。
グラフの下にあるスライドバーを動かせば、今後の年収や就労完了年齢、受給開始年齢を変更した場合の年金額が、リアルタイムでグラフに反映される(図表1の右)。
 
この年金額には、受給開始年齢の変更による年金額の増減(繰上げ/繰下げ受給)や、働きながら年金を受給した場合の減額(在職老齢年金)という、複雑な仕組みも反映される。年金額に反映されない仕組み(加給年金や振替加算という配偶関係によって決まるものや、厚生年金基金による代行部分など)がある点や、マクロ経済スライドによる年金額の実質的な目減りが反映されない点などには注意が必要だが、今後の働き方や年金の受取り方によって年金額がどう変わるかをイメージするには、有用なツールと言えよう。
図表1:「公的年金シミュレーター」の画面例
今後の働き方は、より詳細な設定も可能になっている。画面をスクロールして働き方・暮らし方の入力欄を開けば(図表2左)、どういった雇用形態で何歳から何歳までどの程度の年収で働くかを、最大で5期間まで設定できる(図表2右)。例えば、50代後半になると給与が減ることや60代も働き続けた場合の給与を試算に反映できる。
図表2 今後の働き方の詳細な設定画面
公的年金シミュレーターを定年退職予定者への研修で活用すれば、参加型の研修を実現できる。年金に関心がある参加者が多いとは言え、教科書的な制度の説明は実感を伴いにくい。参加者が公的年金シミュレーターを操作して年金額を試算し、年金額が変わった背景(制度)を講師が説明し、その説明に基づいて参加者が再度操作すれば、参加者は実感を伴って制度を理解できよう。また、面倒な計算を公的年金シミュレーターにゆだねれば、計算式や細かな値を理解する必要がなくなり、より多くの人が制度の目的や影響などの根幹を理解しやすくなるだろう。
 
厚生労働省は、二次元コードが印刷されたねんきん定期便を持たない人が使い方を確認できるよう、デモ用の二次元コードや使い方の動画を公開している。これらを使って実演・解説するだけでも、参加者の興味をひくことが可能だろう。
図表3 デモ用の二次元コードと生年月日
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2022年09月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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