2022年08月02日

2021年度のGPIFの運用利回りは、名目で5%超、実質的にも3.9%を達成~年金改革ウォッチ 2022年8月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

資金運用部会は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2021年度の業務実績評価や第4期中期目標の変更について議論した。また、GPIFは2021年度の業務概況書を公表した。
 
○社会保障審議会 資金運用部会
7月25日(第18回) GPIFの令和3年度業務実績評価、GPIFの第4期中期目標の変更
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26960.html (資料)
 
(参考) 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
7月1日 2021年度の運用状況(業務概況書ほか)
 URL https://www.gpif.go.jp/operation/the-latest-results.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:公的年金財政における積立金運用の位置づけと状況

先月は、1日にGPIFの昨年度の運用実績が公表され、25日には年金積立金の運用を審議する資金運用部会が開催された*1。そこで本稿では、積立金運用の基本的な見方を踏まえた上で、積立金運用の状況を確認する。
 
*1 配布資料は公開済だが、新型感染症の影響で報道関係者以外は傍聴できず、議事録は本稿執筆時点で未公開である。
図表1 公的年金全体の主な収入 1|基本的な見方:運用収益は収入源の一部
積立金の運用状況は報道される頻度が多いため、公的年金財政と言えば積立金の運用が気になる、という声を聞く。しかし、公的年金財政の主な収入源は保険料である。
図表2 名目運用利回りと名目賃金上昇率の推移 過去の実績を概観すると、保険料収入が30兆円程度、国庫負担等が約10兆円を安定的に占めている(図表1)。今後の見通しを見ても、総財源に占める運用収益や積立金の取崩しの割合は、合計で1割程度である。

運用利回りが年金財政に与える影響を見る際は、単に表面的な(名目の)運用利回りが何%だったかではなく、名目運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いた「実質的な運用利回り」が指標となる(図表2)。これは、保険料収入や給付額が基本的には名目賃金上昇率に連動することを踏まえれば、名目運用利回りのうち名目賃金上昇率を上回る部分が年金財政への貢献となるためである。
図表3 実質的な運用利回りの実績と見通しでの前提 2|将来見通しとの比較:当面の前提を上回る
運用利回りの実績が年金財政の見通しにどう影響するかは、年金財政の将来見通し(財政検証)の前提との比較で評価される。将来見通しの前提のうち当初10年分は内閣府の経済見通しを基に作成され、少なくとも5年ごとに改定される。このため、運用利回りの実績の比較対象は、常に内閣府の経済見通しを基にした前提となる。近年は、金利上昇を見込んでいる影響等で実質的な運用利回りの前提がマイナスの年度もあり*2、実績が前提を概ね上回っている(図表3)。
 
*2 長期金利が上昇すると、保有している債券の価格(時価)が下落して、運用利回りが低下する方向に影響する。
図表4 実質的な運用利回りの平均と長期的な目標 3|運用目標との比較:長期的には目標を上回る
GPIFの資産構成は、厚生労働大臣が課す長期的な運用目標(中期目標)を達成するように設定される。長期的な運用目標は将来見通しの長期的な前提を基に設定されており、前述した当面の前提よりも高い。「長期」の具体的な年数は明示されていないが、GPIFは年金積立金の市場運用が始まった2001年度を起点とした平均運用利回りと長期的な目標を比較しており、近年は平均が長期的な目標を上回っている(図表4)。
4|次期将来見通しの注目点:好実績をどう反映
2024年に公表される次期将来見通しに向けて、見通しで用いる経済前提を議論する時期になりつつある*3。将来見通しにおける運用利回りの長期的な前提は、2014年に公表された見通しまでは、マクロ経済モデルで推計した長期金利に分散投資効果を上乗せした値が用いられていた。しかし、2019年に公表された見通しでは、近年は長期金利が金融政策の指標となっていることなどを考慮して、GPIFの運用利回りの実績と企業の利潤率の実績の関係を基に推計する形に改められた*4。次の将来見通しでは、2020年度の高い利回り実績をどのように前提の設定に反映するか、などの点が注目される。
 
*3 これまでの将来見通しに向けた経過は、拙稿「次期将来見通し(財政検証)の懸念と課題」を参照。
*4 2019年に公表された見通しでの運用利回りの前提の設定方法は、拙稿「年金改革ウォッチ 2019年3月号」を参照。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2022年08月02日「保険・年金フォーカス」)

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