2022年07月11日

2021年度生命保険会社決算の概要(速報)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2021年度の全生命保険会社の業績を概観する。

生命保険協会加盟会社は、4月1日現在42社であり、1社を除いて6月中旬までに2021年度決算が発表された。これらを、伝統的生保(17社)、外資系生保(12社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(7社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した(図表-1)。
【図表-1】 主要業績(2021年度)
41社合計では、年換算保険料ベースで新契約は15.8%増加しており、個々の会社や商品にもよるが、全体としては、コロナ前の2019年度業績の規模にほぼ回復してきている。保有契約は▲0.6%減少となった。
 
「伝統的生保」(17社)の新契約年換算保険料は、22.0%増加(前年度▲18.2%減少)となった。2020年度には、新型コロナの影響により販売活動不調だったことの反動で、大きく回復してきている。保有契約年換算保険料は0.3%の増加(前年度▲0.3%減少)。以下これと同様に保険料ベースでの増減を示す。

(なお、この表には記載していないが、「保険金額」ベースでの新契約高、保有契約高は、第三分野商品の増加を反映していないため、全体としては近年減少傾向である。)

「外資系生保」は、新契約が6.9%増加(前年度▲6.2%減少)し、保有契約は1.6%増加(前年度 0.9%増加)した。

「損保系生保」は、新契約が4.0%増加(前年度 ▲2.7%減少)で、保有契約は1.3%増加(前年度 0.9%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が13.7%増加(前年度 ▲10.0%減少)、保有契約は5.2%増加(前年度 3.3%増加)となった。
【図表-2】新契約年換算保険料(2021年度)
次に、新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表-2である。40社(かんぽ生命を除く。)合計で、個人保険は対前年13.3%増加した(前年度▲7.0%減少)。また個人年金は、24.4%増加(前年度▲33.5%減少)となった。各社が注力している分野にもよるが、販売業績は全体として、2020年度から一転して増加(回復)傾向となった。
 
基礎利益は、全体では10.8%増加(前年度5.5%増加)と大幅に増加した。基礎利益が増加した会社数は、決算発表があって前年度と比較できる40社(なないろを除く)のうち25社である。

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。

なお、大手グループにおいては、複数の保険会社があって、保険販売面で医療保険・金融機関窓販などに役割の分担がなされている面があるので、収支の方もグループ連結でみるべきと考えられるが、今のところ収支面においては、グループ内の保険子会社の占める割合が小さいことや、もとからある9社単体の開示情報が比較的多いこと、から従来通り9社でみることにしている。
1|資産運用環境と有価証券含み益
2021年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。
【図表-3】運用環境
国内の株価については、日経平均株価が前年度末29,179円で始まり、大きくはほぼ横ばいで推移していたが、年度後半のウクライナ情勢などを受け、年度末には27,821円と、前年度末より若干下落した。

国内金利については、10年国債利回りは引き続きゼロに近いところで推移しているものの、欧米の金利引き締め観測の高まりにより、2021年度末には0.210%と、前年度末からは上昇した。

為替については、欧米の金利引き締め(金利引き上げ)を受けて、対米ドルでは年度末には122.39円/ドルとなり、対ユーロでは年度末には136.70円/ユーロと、いずれも円安ドル高・ヨーロ高の方向に進んだ。他の通貨では、従来から外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについても、2020年度に引き続き円安となった。
【図表-4】有価証券含み益(大手中堅9社計)
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、図表-4に示す通りとなった。国内債券の含み益が▲3.5兆円減少、国内株式の含み益が▲0.5兆円減少、外国証券含み益は債券で減少、株式で増加し合計では▲1.1兆円減少した。その結果、有価証券合計では▲5.9兆円減少した。
2基礎利益は大きく増加
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計)
【図表-6】3利源の状況(開示7社計)
そうした中、2021年度の基礎利益は26,215億円、対前年度11.0%の増加となった(図表-5)。 

うち利差益は、2013年度に9社合計で逆ざやから利差益に転じた後は拡大傾向にあり、2021年度も逆ざや解消後最高水準を更新し11,932億円、47.4%の増加となった。(詳しくは後述)

危険差益・費差益等の保険関係収支は14,283億円、▲8.3%の減少となった。

3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかるのだが、危険差益は、▲10.7%減少(前年度は3.3%増加)となった。保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる一方、第三分野商品(医療保険)については保有も増加しており、選択効果もあるので危険差の拡大方向に寄与していると推定される。

費差益については、ほぼ枯渇した状態にあると考えられる。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ(保険料の値上げ)とセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にあると考えられる。そのうえ2021年度は、多くの会社で新契約業績が回復し、事業費に含まれる販売関係費用の負担も同時に増加しているはずなので、単年だけ見るともっと厳しい状況もあり得たが、それほどではなかったようだ。
3利差益は、逆ざや解消以降の最高水準を、引き続き更新
【図表-7】利差益の状況(大手中堅9社計)
【図表-8】利差益(逆ざや)状況の推移(大手中堅9社計)
利差益について、さらに詳しく見てみる(図表-7 、8)。

これらの表の中の「基礎利回り」とは、基礎利益のうち、資産運用損益が貢献する部分の利回り換算であり、主に債券利息や株式配当金などの収入からなる(有価証券売却損益等は含まれない)。これを、契約者に保証している利率(予定利率)と比べて、上回る場合に利差益と呼び、下回る場合は逆ざや(利差損といってもいいが)と呼ぶ。 
 
2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2021年度は11,932億円と2017年度から5年連続で最高水準を更新した(一部の会社はまだ逆ざやであるが、そのマイナス額は、横ばいまたは減少傾向にある。)。
 
多くの会社で利息配当金収入が増加したため、「基礎利回り」は上昇した。運用資産の中核である国内債券に関しては、ゼロ近くの金利が続いているので、たとえ年限の長い(=一般には利回りの高い)ものを多く保有したとしても、利回りは低下傾向にあると思われる。このままの金利が続けば、利息収入に引き続き悪影響をもたらすことになるだろう。その一方で、新型コロナ感染拡大などで悪化した経済環境からの回復もあって、こうした中、株式配当金や投資信託の分配金などの増加が、債券の利回り低下を補っているのが現状と推測される。(現時点では2021年度のそうしたさらなる内訳は未開示)。
 
一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
 
基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存しているのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。実際、2021年度以降は、「利回り、予定利率とも低下して利差益は減少ないし横ばい、危険差・費差は減少傾向で、全体として基礎利益は減少傾向」と自ら予測している会社が多い。(と言い続けて数年経つ中で、今回も利差益、基礎利益は増加しているが、あまり楽観的な予想をするわけにもいかないので無理もない。)
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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