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- 日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント下落の12と予想、注目は仕入・販売価格の上昇度
2022年06月17日
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6月短観予測:強弱材料が交錯し、景況感はまちまちに
(大企業非製造業の景況感は回復へ)
7月1日に公表される日銀短観6月調査では、原材料価格の高騰や供給制約などが逆風となり、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが12と前回3月調査から2ポイント下落すると予想する(表紙図表1)。景況感の悪化は2四半期連続のこととなる。一方、大企業非製造業では、国内でのオミクロン株の感染縮小に伴う人流回復が追い風となり、業況判断DIが14と前回調査から5ポイント上昇すると見込んでいる。
前回の昨年3月調査1では、半導体不足やオミクロン株拡大による生産停止といった供給制約に加え、原材料価格上昇が重荷となり、大企業製造業の景況感が悪化した。また、非製造業も原材料高に加え、オミクロン株拡大に伴う人流減少が逆風となり、景況感が弱含んでいた(図表2・3)。
7月1日に公表される日銀短観6月調査では、原材料価格の高騰や供給制約などが逆風となり、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが12と前回3月調査から2ポイント下落すると予想する(表紙図表1)。景況感の悪化は2四半期連続のこととなる。一方、大企業非製造業では、国内でのオミクロン株の感染縮小に伴う人流回復が追い風となり、業況判断DIが14と前回調査から5ポイント上昇すると見込んでいる。
前回の昨年3月調査1では、半導体不足やオミクロン株拡大による生産停止といった供給制約に加え、原材料価格上昇が重荷となり、大企業製造業の景況感が悪化した。また、非製造業も原材料高に加え、オミクロン株拡大に伴う人流減少が逆風となり、景況感が弱含んでいた(図表2・3)。
前回調査以降も、ロシアによるウクライナ侵攻が続いたこともあり、資源高や円安進行に伴う原材料価格の高騰に拍車がかかっている。また、半導体等の部品不足といった供給制約が長期化し、工場の稼働停止がしばしば発生しているうえ、中国の都市封鎖によって外需も鈍化し、自動車を中心に生産が下押しされた。中国の都市封鎖は部品不足や物流の混乱を通じて供給制約の悪化要因にもなっている。一方、国内ではオミクロン株の感染が縮小し、まん延防止等重点措置も全面解除されたことで人流が回復し、対面サービス業を中心に需要の回復が見られる(図表4~7)。
今回、大企業製造業では、原材料価格の高騰に加え、部品不足など供給制約の長期化や中国での都市封鎖に伴う外需の低迷も重石となったことで、景況感が弱含むだろう。ただし、輸出産業にとっては円安の進行が景況感の下支えになったと考えられる。
非製造業についても、原材料価格の高騰が重荷となったものの、対面サービス業を中心に、オミクロン株の感染縮小とまん延防止等重点措置の全面解除に伴う人流の回復が追い風となり、景況感が回復したと見ている。
中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から3ポイント下落の▲7、非製造業が4ポイント上昇の▲2と予想している(表紙図表1)。大企業同様、製造業の景況感が悪化する一方、非製造業の景況感は持ち直すと見込んでいる。
今回、大企業製造業では、原材料価格の高騰に加え、部品不足など供給制約の長期化や中国での都市封鎖に伴う外需の低迷も重石となったことで、景況感が弱含むだろう。ただし、輸出産業にとっては円安の進行が景況感の下支えになったと考えられる。
非製造業についても、原材料価格の高騰が重荷となったものの、対面サービス業を中心に、オミクロン株の感染縮小とまん延防止等重点措置の全面解除に伴う人流の回復が追い風となり、景況感が回復したと見ている。
中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から3ポイント下落の▲7、非製造業が4ポイント上昇の▲2と予想している(表紙図表1)。大企業同様、製造業の景況感が悪化する一方、非製造業の景況感は持ち直すと見込んでいる。
先行きの景況感は総じて小幅な改善を予想している(表紙図表1)。製造業では供給制約の緩和と中国の経済活動再開への期待、非製造業では政府による旅行喚起策や水際対策緩和などに伴う人流のさらなる回復への期待がそれぞれ景況感の追い風になる。ただし、ウクライナ情勢や世界的なインフレ、中国の都市封鎖再導入の可能性など海外経済を巡る不透明感は強いほか、原材料価格のさらなる上昇・高止まりに対する懸念も根強いとみられることから、先行きにかけての景況感の大幅な改善は見込みづらい。なお、中小企業非製造業については、もともと先行きを慎重に見る傾向が強く、先行きにかけて景況感の改善が示されることが稀であるだけに、今回も小幅な悪化が示されると予想している。
1 前回3月調査の基準日は3月11日、今回6月調査の基準日は6月13日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
1 前回3月調査の基準日は3月11日、今回6月調査の基準日は6月13日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は概ね堅調に)
2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比1.4%増(前回調査時点では同4.6%増)へ下方修正されると予想している(図表9・10)。
例年、6月調査(実績)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としては下方修正される傾向がある2。今回はコロナの感染再拡大や供給制約、原材料高による建設コストの増加などを受けて、設備投資を一旦見合わせたり、先送りしたりする動きがやや強まった結果、例年よりもやや大きめの下方修正が入ると予想している。
一方、2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2021年度実績比で6.3%増になると予想。例年6月調査では計画の具体化や(比較対象である)前年度実績が下方修正されることに伴って前年比の伸び率が上方修正される傾向が極めて強い。今回は2021年度実績の下方修正がやや大きめになるうえ、収益の改善や経済活動再開への期待を受けて、伸び率の上方修正は例年3を上回り、伸び率の水準としても比較的高めになると見ている。
2021年度実績の下方修正がやや大きめになることで嵩上げられる面もあるため、力強いとまではいかないが、概ね堅調な計画が維持されることになると見ている。
2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比1.4%増(前回調査時点では同4.6%増)へ下方修正されると予想している(図表9・10)。
例年、6月調査(実績)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としては下方修正される傾向がある2。今回はコロナの感染再拡大や供給制約、原材料高による建設コストの増加などを受けて、設備投資を一旦見合わせたり、先送りしたりする動きがやや強まった結果、例年よりもやや大きめの下方修正が入ると予想している。
一方、2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2021年度実績比で6.3%増になると予想。例年6月調査では計画の具体化や(比較対象である)前年度実績が下方修正されることに伴って前年比の伸び率が上方修正される傾向が極めて強い。今回は2021年度実績の下方修正がやや大きめになるうえ、収益の改善や経済活動再開への期待を受けて、伸び率の上方修正は例年3を上回り、伸び率の水準としても比較的高めになると見ている。
2021年度実績の下方修正がやや大きめになることで嵩上げられる面もあるため、力強いとまではいかないが、概ね堅調な計画が維持されることになると見ている。
2 2011~20年度における6月調査での修正幅は平均で▲1.4%ポイント
3 2012~21年度における6月調査での修正幅は平均で+5.5%ポイント
(注目ポイント:仕入・販売価格判断DIなど)
今回の短観で特に注目されるのは、前回に続き、仕入価格判断DIと販売価格判断DIの動きだ。資源高や円安によってコストプッシュ型の物価上昇が加速しており、企業や家計の懸念が高まっているためだ。今回、仕入価格がどの程度上昇し、企業の採算がどれだけ圧迫されているか、今後はどの程度仕入価格の上昇が見込まれており、どの程度販売価格に転嫁される見通しなのかが両DIの動きで示される。この点は、企業業績や物価、日本経済の行方を占ううえで重要な手がかりになるだろう。
また、今年度のソフトウェア投資計画も注目される。昨年度のソフトウェア投資計画は堅調に推移してきた。コロナ禍を受けてDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が意識されたことが背景にあったと推測される。現在はコロナ禍からの経済活動再開が進みつつあるが、引き続き、堅調な投資計画が示されるのかがポイントになる。示された場合には、企業のDXの推進に向けた積極的な姿勢が続いていることを反映している可能性がある。
今回の短観で特に注目されるのは、前回に続き、仕入価格判断DIと販売価格判断DIの動きだ。資源高や円安によってコストプッシュ型の物価上昇が加速しており、企業や家計の懸念が高まっているためだ。今回、仕入価格がどの程度上昇し、企業の採算がどれだけ圧迫されているか、今後はどの程度仕入価格の上昇が見込まれており、どの程度販売価格に転嫁される見通しなのかが両DIの動きで示される。この点は、企業業績や物価、日本経済の行方を占ううえで重要な手がかりになるだろう。
また、今年度のソフトウェア投資計画も注目される。昨年度のソフトウェア投資計画は堅調に推移してきた。コロナ禍を受けてDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が意識されたことが背景にあったと推測される。現在はコロナ禍からの経済活動再開が進みつつあるが、引き続き、堅調な投資計画が示されるのかがポイントになる。示された場合には、企業のDXの推進に向けた積極的な姿勢が続いていることを反映している可能性がある。
(金融政策への影響は限定的)
今回の短観が日銀の金融政策に与える影響は限定的に留まりそうだ。
まず、今回の景況感はマチマチな動きが予想されるうえ、今年度設備投資計画についても、底堅いものの力強いとまでは言えないレベルに留まると想定される。日銀による早期の政策変更を後押しするような内容にはならないだろう。
また、そもそも、足元の物価上昇率は日銀の目標水準である2%に達しているものの、日銀は資源高等によるコストプッシュ型であるため持続性に欠けるとの認識を持っている。今回、先行きにかけて販売価格判断DIの上昇が示されたとしても、それが日銀の目指す企業収益や賃金・雇用が増加する好循環の中での物価上昇に結び付くとは限らない。従って、日銀は引き続き現行の金融緩和を粘り強く続ける姿勢を崩さないだろう。
今回の短観が日銀の金融政策に与える影響は限定的に留まりそうだ。
まず、今回の景況感はマチマチな動きが予想されるうえ、今年度設備投資計画についても、底堅いものの力強いとまでは言えないレベルに留まると想定される。日銀による早期の政策変更を後押しするような内容にはならないだろう。
また、そもそも、足元の物価上昇率は日銀の目標水準である2%に達しているものの、日銀は資源高等によるコストプッシュ型であるため持続性に欠けるとの認識を持っている。今回、先行きにかけて販売価格判断DIの上昇が示されたとしても、それが日銀の目指す企業収益や賃金・雇用が増加する好循環の中での物価上昇に結び付くとは限らない。従って、日銀は引き続き現行の金融緩和を粘り強く続ける姿勢を崩さないだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年06月17日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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