2022年05月31日

サステナビリティに関する意識と消費行動-意識はシニア層ほど高いが、Z世代の一部には行動に積極な層も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――サステナビリティを意識した日頃の消費行動~女性やシニアで積極的、20歳代の一部で寄付傾向も

1全体の状況~約8割がエコバッグ持参の一方、価格よりサステナビリティを優先する消費者は1割未満
日頃の消費生活におけるサステナビリティを意識した行動について約30の項目を挙げて、その実施状況をたずねたところ、圧倒的に多いのは「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」(77.2%)であり、次いで「リサイクル可能なゴミを分別して出している」(57.1%)、「洗剤やシャンプーなどは詰め替え製品(や量り売りのもの)を買うようにしている」(52.4%)、「長く使える製品を買うようにしている」(42.8%)、「(無駄なモノを買わずに、)できるだけ必要なモノだけで生活するようにしている」(39.7%)、「外出の際はマイボトルを持参するようにしている」(30.8%)と3割以上で続く(図表8)。
図表8 日常生活におけるサステナビリティを意識した消費行動(複数回答)(n=2,584)
一方、「価格が安くても、地球環境や社会に悪影響のある製品は買わない(ようにしている)」(8.0%)や「価格が安くても、製造時に人権に問題のある製品は買わない(ようにしている)」(6.9%)、あるいは「価格が多少高くても、環境や社会問題に配慮された製品を買う(ようにしている)」(6.8%)や「価格が多少高くても、環境や社会問題に取り組む企業の製品を買う(ようにしている)」(4.6%)など、製品の購入時に価格よりもサステナビリティを優先する行動は、いずれも1割に満たない。

よって、多くの消費者にエコバッグの持参が定着し、詰め替え製品の購入などプラスチックごみが出にくい消費生活が浸透しつつある一方で、現在のところ、価格よりもサステナビリティを優先して製品を選ぶ消費者は1割に満たず少数派である。この背景には、現在のところ、消費者のサステナブル意識を投影できるような製品やサービスの種類がまだ少ないことのほか、価格を優先して購入したとしても、できるだけ必要なモノだけを買う、モノを大切に長く使う、リサイクルするといった行動でも持続可能な社会づくりに貢献できるといった影響もあるだろう。
2性別の状況~女性の方が男性よりサステナビリティを意識した消費生活、ただし価格より優先は1割未満
性別に見ても、全体と傾向はおおむね変わらず、男女とも首位は圧倒的に「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」である(図表9)。
図表9 性年代別に見た日常生活におけるサステナビリティを意識した消費行動(複数回答)
男女を比べると、「電気自動車などのエコカーを選んだり、エコドライブを実践している」(男性12.7%、女性9.3%、男性が女性より+3.4%pt)を除けば、全体的に女性の方が男性より選択割合が高く差もひらいている。特に「洗剤やシャンプーなどは詰め替え製品を買うようにしている」(同39.7%、同65.0%、女性が男性より+25.3%pt)や「外出の際はマイボトルを持参するようにしている」(同20.0%、同41.4%、同+21.4%pt)、「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」(同66.8%、同87.5%、同+20.7%pt)では女性が男性を2割以上上回る(このほか差がひらくものも多いが表記省略、詳細は図表9(c)参照)。

一方で、全体と同様、女性でも価格よりもサステナビリティを優先した行動は1割に満たない。

つまり、女性の方が男性よりサステナビリティを意識した消費生活を送っているが、これは前節までに見たような女性では消費生活に関わるサステナビリティについてのキーワードの認知度が高いことや、サステナビリティについての意識が高い傾向と一致する。ただし、現在のところ、女性でも価格よりもサステナビリティを優先して製品を買う消費者は少数派である。
3年代別の状況~高年齢層ほどサステナブルな消費生活だが、20歳代の一部で寄付や企業応援傾向も
年代別に見ても、全体と傾向はおおむね変わらず、全ての年代で首位は圧倒的に「買い物の時はエコバッグを持参するようにしている」である。

年代による違いを見ると、全体的に高年齢層ほど選択割合は高く、特に「リサイクル可能なゴミを分別して出している」や「洗剤やシャンプーなどは詰め替えできる製品や量り売りのものを買うようにしている」、「長く使える製品を買うようにしている」、「あまり無駄なモノを買わずに、できるだけ必要なモノだけで生活するようにしている」では、70~74歳は20歳代を4割程度上回る。

一方、価格よりもサステナビリティを優先する行動のうち、特に「売上の一部が地球環境や社会問題に寄付される製品を買うようにしている」や「価格が多少高くても、環境や社会問題に積極的に取り組む企業の製品を買うようにしている」といった、製品を買うことがサステナビリティな社会づくりに貢献できるような行動は、選択割合は1割に満たずに低いながらも、40歳代を底に20歳代とシニア層で高い傾向がある。

また、「新品を買うより、人に借りたりシェアリングサービスを利用するようにしている」は若いほど選択割合は高まるが、全ての年代で選択割合は5%に満たない。

5――現時点ではサステナビリティを意識した消費生活は導入期

5――現時点ではサステナビリティを意識した消費生活は導入期、消費者属性による特徴把握も重要

昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、サステナビリティを巡る課題への取り組みが大幅に拡充され、特にプライム市場上場企業は自社のサステナビリティについての基本的な方針を策定し、取り組み内容を開示することが求められるようになった。企業経営や事業活動において、サステナビリティという観点が必須のものとなる中で、本稿では3月下旬にニッセイ基礎研究所が実施した調査に基づき、消費者側のサステナビリティに関する意識や行動について捉えた。

その結果、消費者の実に約8割がSDGsという言葉を耳にしたことがあり、半数以上が地球環境や社会問題に対して危機意識を持っているなど、社会や地球環境の持続可能性に対する高い意識が醸成されつつある様子がうかがえた。

一方で、現在のところ、意識の高さと行動には隔たりがあり、発展過程、あるいは導入期にあるような状況も見てとれた。SDGsをはじめとしたサステナビリティについてのキーワードを内容まで十分に理解している消費者は半数に満たず、持続可能な社会づくりを意識したボランティア活動や情報の受発信などの具体的な行動に取り組む消費者は1割程度にとどまっていた。また、買い物時のエコバッグの持参や詰め替え製品の購入など、プラスチックごみが出にくい消費生活が浸透しつつある一方で、価格よりも環境や社会問題への影響を優先して製品を買う消費者は1割に満たずに少数派であった。

これらの背景には、前述の通り、現在のところ、消費者のサステナブル意識を投影できるような製品やサービスの種類がまだ少ないことが、まずあげられるだろう。

一方で企業側からすれば、サステナビリティを配慮した製品の製造には相応のコストがかかる。サプライチェーンの再構築や新素材による製品開発などのほか、足元の原材料やエネルギー価格の上昇、円安進行によるコスト増の負担もある。消費者のサステナブル意識を叶える製品やサービスの提供は容易なことではないだろうが、消費者の実に約6割が「地球環境や社会問題は他人事ではない」と考えている現状を見れば、消費者に非常に響きやすい状況にはある。

また、よく世間ではZ世代のサステナブル意識の高さが取り上げられるようだが、本稿で見た通り、意識の高さはZ世代というよりもシニア層ほど強く見られる特徴であり、Z世代では他年代と比べてサステナビリティを意識した行動に積極的な傾向はあるが、それは一部の積極層によるものであるなど、必ずしも印象通りではないようだ。つまり、サステナビリティが響きやすい消費者はZ世代に限らず、また、必ずしもZ世代だからと言ってサステナビリティが響きやすいわけではない。将来的にはサステナビリティという観点がすべての消費者にとって重要なものとなっていくのだろうが、導入期の現在では、消費者の属性による特徴をきめ細やかに捉えたターゲット設定も重要である。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2022年05月31日「基礎研レポート」)

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