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デイサービス車両は高齢者の移動を支える「第三の交通網」を形成できるか(上)~群馬県発「福祉ムーバー」の取組から~
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
【福祉Mover概要】
同機構は、デイサービス施設への送迎だけではなく、利用者や地域の高齢者らを、スーパーマーケットや病院などへも送迎することを目指している。また、グループ内の法人だけではなく、地域でデイサービスを運営する他の法人ともプラットフォームを共有して、それぞれが所有するデイサービス車両を一体的に運用、活用して地域で送迎網を形成し、従来の公共交通を補完する「第三の交通網」とすることが目標だ。2020年度には、経済産業省の実証実験で、群馬、栃木、新潟3県の17事業所が参加して、計222車両で共同送迎を行うなど、国や自治体の多くの実証実験に採用されている。今後は実用化に向けて、同機構理事長の北嶋史誉氏がスキームを検討している。
福祉ムーバーは北嶋氏が2015年頃から構想し、2018年、公立はこだて未来大学発ベンチャー「株式会社未来シェア」とAIを用いたシステムを共同開発した。現在は、公立大学法人前橋工科大学と連携して、自社開発した新システムに切り替えた。新システムではAIを使用せず、統計によるアルゴリズムを使用している。
【福祉Moverが注目される背景と、実用化に向けた課題】
多くの市町村が、コミュニティバスや乗合タクシーなどの代替輸送手段を導入してきたが、利用が低迷するなど、うまく機能していないケースも多い。結果的に、高齢ドライバーによる重大事故も相次いでいる。
道路運送法では、自家用車を用いて他人を有償で運送できるのは、国土交通大臣の許可・登録を受けた緑ナンバーの事業用自動車に限られている(図表1)。これまでは、緑ナンバーが地域の公共交通網を形成していたが、これだけでは住民に必要な移動サービスを提供できなくなっていることから、近年、輸送を事業としない白ナンバーの自家用車を活用する動きが広がっている。2006年に導入された自家用有償旅客運送制度や、各地域で行われている住民ボランティアによる送迎もその例だが、実施団体が伸び悩むなど、持続可能性には課題もある。
一方、全国に立地するデイサービス施設の多くは、サービスを提供するために、利用者を自宅から無料送迎している。多くの場合、送迎の対価を受け取っていないため、車両は白ナンバー、ドライバーは第1種免許である。ただし、施設が車両を5台以上保有している場合は、道路交通法に基づいて「安全運転管理者」を配置し、運転者への安全教育を行うなど、安全確保のために一定の措置を講じなければならない。2022年10月以降は、アルコール検知器を用いた飲酒確認が義務化されるなど、措置が強化されている。
デイサービス施設の車両は現状でも、高齢者に対する買物支援として、施設への送迎途中にスーパーマーケットなどで利用者を降車させることは認められているが、通常の送迎ルートを逸脱する場合には認められていない。
今後、デイサービス施設による送迎の仕組みを、高齢者の日常生活の移動にも活用することができれば、地域の高齢者ら向けの移動サービスを補完し、買物困難などの地域課題解決にもつながる可能性がある。ただし現状では、上述のように、道路運送法によって、他人を有償で運べるのは緑ナンバーの事業用自動車に限られるため、地域で送迎サービスを提供しても、対価を受け取ることはできない。福祉Moverについても、有償化の仕組みをどうするかが実用化のネックとなっている。
(2022年04月27日「ジェロントロジーレポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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