2022年04月27日

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【福祉Mover概要】

デイサービス施設が使用する送迎車両の配車計画作成と、運行指示をデジタル化したシステムであり、一般社団法人ソーシャルアクション機構(群馬県高崎市)が開発、運用している。利用者の自宅の位置情報や、介助に必要な事項を事前に入力しておくことによって、送迎車両に専用タブレットを設置すれば、運転者が誰であってもスムーズに送迎できる。利用者は、スマートフォンの専用アプリや電話で予約する仕組み。

同機構は、デイサービス施設への送迎だけではなく、利用者や地域の高齢者らを、スーパーマーケットや病院などへも送迎することを目指している。また、グループ内の法人だけではなく、地域でデイサービスを運営する他の法人ともプラットフォームを共有して、それぞれが所有するデイサービス車両を一体的に運用、活用して地域で送迎網を形成し、従来の公共交通を補完する「第三の交通網」とすることが目標だ。2020年度には、経済産業省の実証実験で、群馬、栃木、新潟3県の17事業所が参加して、計222車両で共同送迎を行うなど、国や自治体の多くの実証実験に採用されている。今後は実用化に向けて、同機構理事長の北嶋史誉氏がスキームを検討している。

福祉ムーバーは北嶋氏が2015年頃から構想し、2018年、公立はこだて未来大学発ベンチャー「株式会社未来シェア」とAIを用いたシステムを共同開発した。現在は、公立大学法人前橋工科大学と連携して、自社開発した新システムに切り替えた。新システムではAIを使用せず、統計によるアルゴリズムを使用している。

福祉Moverが注目される背景

【福祉Moverが注目される背景と、実用化に向けた課題】

国内では、地方部を中心に、モータリゼーションや人口減少などによって電車やバスが路線を廃止、縮小したり、タクシー営業所が撤退したりと、公共交通が縮退したことから、マイカーを運転できない高齢者や子どもたちは移動が困難になっている。また都市部でも、身体能力の低下により、目的地やバス停まで歩くことが大変な高齢者が増えており、高齢者らに使いやすい移動手段が必要とされている。

多くの市町村が、コミュニティバスや乗合タクシーなどの代替輸送手段を導入してきたが、利用が低迷するなど、うまく機能していないケースも多い。結果的に、高齢ドライバーによる重大事故も相次いでいる。

道路運送法では、自家用車を用いて他人を有償で運送できるのは、国土交通大臣の許可・登録を受けた緑ナンバーの事業用自動車に限られている(図表1)。これまでは、緑ナンバーが地域の公共交通網を形成していたが、これだけでは住民に必要な移動サービスを提供できなくなっていることから、近年、輸送を事業としない白ナンバーの自家用車を活用する動きが広がっている。2006年に導入された自家用有償旅客運送制度や、各地域で行われている住民ボランティアによる送迎もその例だが、実施団体が伸び悩むなど、持続可能性には課題もある。

一方、全国に立地するデイサービス施設の多くは、サービスを提供するために、利用者を自宅から無料送迎している。多くの場合、送迎の対価を受け取っていないため、車両は白ナンバー、ドライバーは第1種免許である。ただし、施設が車両を5台以上保有している場合は、道路交通法に基づいて「安全運転管理者」を配置し、運転者への安全教育を行うなど、安全確保のために一定の措置を講じなければならない。2022年10月以降は、アルコール検知器を用いた飲酒確認が義務化されるなど、措置が強化されている。

デイサービス施設の車両は現状でも、高齢者に対する買物支援として、施設への送迎途中にスーパーマーケットなどで利用者を降車させることは認められているが、通常の送迎ルートを逸脱する場合には認められていない。

今後、デイサービス施設による送迎の仕組みを、高齢者の日常生活の移動にも活用することができれば、地域の高齢者ら向けの移動サービスを補完し、買物困難などの地域課題解決にもつながる可能性がある。ただし現状では、上述のように、道路運送法によって、他人を有償で運べるのは緑ナンバーの事業用自動車に限られるため、地域で送迎サービスを提供しても、対価を受け取ることはできない。福祉Moverについても、有償化の仕組みをどうするかが実用化のネックとなっている。
図表1 道路運送法による輸送の事業区分
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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