2022年04月05日

欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(比率の推移分析と感応度の推移)-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2021年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

前回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告したが、今回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。

2―各社のSCR比率や感応度の推移

2―各社のSCR比率や感応度の推移

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2016年以降も、着実に営業利益を積み上げることに加えて、劣後債の発行等で資本の充実を図ってきている。

なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である1。加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期や感応度の対象時期も必ずしも統一されておらず、各社の考え方に基づいている。

なお、2021年上期末の状況については、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2021年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2021.10.1)で報告しているので、こちらも参考にしていただきたい。
 
1 現在行われているソルベンシーIIのレビューの中で、「感応度に関する情報の標準化」が提案されている。これについては、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーⅡの2020年レビューに関する意見をECに提出(4)-助言内容(報告と開示)-」(2021.2.3)を参照のこと。
1|AXA
(1)SCR比率の推移
2021年末のSCR比率は、2020年末の200%から17%ポイント増加して217%となった。

これは、以下の理由による。

・強力な通常自己資本の形成で+23%ポイント、正の運用分散で+2%ポイント

・経営行動による影響で+8%ポイント、そのうちAXA Bank Belgium、AXA Gulf、AXA Bharti及びAXA Greeceの売却完了により+7%ポイント、ポートフォリオ管理、特に香港でのレガシー再保険契約とAXA XLでの不利な進展カバー、及びAXA France Vieからグループ年金ビークルへの退職事業の移転により+5%ポイント、プライベートエクイティのエクスポージャーの増加とグループのエクイティヘッジの減少により▲4%ポイント

・主に高金利と強力な株式パフォーマンスによって引き起こされた外国為替を含む有利な2021年の経済的変動で+4%ポイント

・2022年の36億ユーロの配当金で▲13%ポイント、17億ユーロの自社株買いで▲6%ポイント

・規制/モデルの変更による▲2%ポイントは、主にUFRの15bpsの引き下げによる。

・劣後債及びその他の影響は、主にAXA SAによるグリーン劣後債の発行の影響を反映しているが、分散効果の低下により相殺されて、+0%ポイント。
AXAのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
2021年末の感応度は、ほぼ2020年末と同様な水準となっている。

2020年末から、ユーロソブリンスプレッド(ユーロソブリン債とユーロスワップレートの差)とクレジット削減(社債の20%が3ノッチ格下げされる前提)に対する感応度が新たに開示されている。前者は+50bpsで▲11%ポイント、後者は▲7%ポイントとなっている。

なお、AXAは自己資本の感応度も開示している。
AXAの感応度の推移
2|Allianz
(1)SCR比率の推移
2021年末のSCR比率は、2020年末の207%から2%ポイント上昇して、209%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益による資本形成とビジネス進展による影響が+29%ポイント(税及び配当控除後で+11%ポイント)

・規制・モデルの変更による影響は+3%ポイントで、いくつかのモデル変更と洗練化によりSCRが若干減少し、自己資本が若干増加した。

・市場による影響は+8%ポイントで、主としてより高い金利によるSCRの軽減による。さらに株式市場の上昇にもサポートされた。

・経営行動及び資本管理の影響は▲14%ポイントで、このうち、米国とスイスにおける生命保険ブックの管理により+11%ポイントとなったものの、配当(40億ユーロ)で▲11%ポイント、Aviva Poland、Aviva Italy及びWestpacの買収で▲9%ポイント、劣後債務と自社株買戻し(7.5億ユーロ)の差引きで▲5%ポイントの影響があった。
AllianzのSCR比率推移の要因
また、自己資本とSCRへの影響は、以下の図表の通りとなっている。自己資本は、税(▲35億ユーロ)、Allianz GI U.S. Structured Alphaのための準備金(▲37億ユーロ(移転制限により自己資本への税効果の相殺無し)、税引後で▲28億ユーロ)の減少要因があった。
Allianzの自己資本及びSCR推移の要因
なお、2022年には、▲10%ポイントの税と配当差引後の営業利益による資本形成、10億ユーロの自社株買戻しによる▲2%ポイントの影響が想定されている。
​(2)感応度の推移
2020年末は国債に対する信用スプレッドによる感応度が高くなっていたが、2021年末は2019年末の水準に低下している。また、2019年末に株式の感応度が大きく上昇していたが、2020年末や2021年末もほぼ同程度の水準となっている。

なお、統合ストレスシナリオによる場合の感応度は、個々の感応度の合計に比べて、クロス効果により追加の▲8%ポイントの影響があるとしている。
Allianzの感応度の推移
3|Generali
(1)SCR比率の推移
2021年末のSCR比率は、、2020年末の224%から3%ポイント上昇して、227%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益の計上による資本形成(生命保険新契約の収益性のさらなる増加と損害保険セグメントの強固な結 果)で+20%ポイント

・市場状況の好調な進展(金利の鋭い上昇と株式市場の優れた実績)で+8%ポイント
・規制変更等(UFRの▲15bpの引き下げ等)により▲7%ポイント

・配当等の資本移動で▲9%ポイント

・M&Aで▲2%ポイント

通常の資本形成により、SCRを超過する自己資本は、38億ユーロ増加しているが、このうち生命保険事業が28億ユーロ、損害保険事業が13億ユーロとなっている。
GeneraliのSCR比率推移の要因/Generaliの自己資本とSCRの推移の要因
(2)感応度の推移
2021年末は、2020年末と比較して、金利感応度が若干低下している。

また、社債スプレッドの拡大による影響は、2019年からプラスとなっている。

なお、イタリア国債のBTP(イタリア国債)スプレッド+100bpsによる影響が▲13%ポイントと大きなものとなっている。

なお、Generaliは自己資本の感応度も開示している。
Generaliの感応度の推移
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中村 亮一

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