2022年04月01日

2022年改正特定商取引法の施行-ダークパターン等への対応

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2021年第204回通常国会で「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が可決成立した。全部で10本の法律が改正されているが、うち重要なのは「特定商取引に関する法律(以下、特商法)」「特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下、預託契約法)」および「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律(以下、裁判特例法)」であり、順次説明する。

2――特商法の概要

2――特商法の概要

1|法の適用対象
特商法とは、(1)訪問販売、(2)通信販売、(3)電話勧誘販売、(4)連鎖販売取引、(5)特定継続的役務提供、(6)業務提供誘引販売取引、(7)訪問購入を行う事業者に対して行政上の規制を及ぼすとともに、民事的な行為義務を設け、一定の要件の下で解除権等を消費者に付与するものである。銀行法や保険業法と異なるのが事業者に免許や登録を求めるのではなく、特定の販売手法を行っていることに着目し、そのような販売手法を規制するものである。

(1) 訪問販売には、例えば新聞の購読契約を個別訪問して締結するような販売手法だけではなく、営業所外で通行人を呼び止めて営業所等に連れていって販売をする行為も含まれる(特商法2条1項)。

(2) 通信販売は新聞・テレビ等で広告を行い、電話や郵便などで消費者から申し込みを受ける販売手法をいう(特商法2条2項)。ネットで完結する販売もここに含まれる(特商法規2条)。

(3) 電話勧誘販売とは、事業者から消費者に電話をかけて物品等の購入の勧誘をして、電話もしくは郵送などで申し込みを受ける販売手法をいう(特商法2条3項)。

これら(1)~(3)の特商法規定の適用対象となるのは物品、特定権利の販売、役務の提供である。物品および役務に限定はないが、特定権利はi)施設利用権、映画等観賞する権利、語学教授を受ける権利、ii)社債その他の金銭債権、iii)株式会社の株式等に限定されている(特商法2条4項)。

(4) 連鎖販売取引は俗にマルチ商法やネットワーク商法などと呼ばれるもので、ある者に物品・役務を知人等に再販売・斡旋することで収益が得られることをもって誘引し、その者に対して物品等を販売し対価を得る、あるいは取引料を収受する取引をいう(特商法33条)。

(5) 特定継続的役務提供とは、エステや英会話教室など一定期間を超えて継続的にサービスを提供し、一定額以上の金銭を支払うものをいう(特商法41条)。たとえば語学学校では、一定期間とは2カ月であり(規11条1項、別表第4)、一定額は5万円である(規11条2項)。過去には長期にわたる受講の権利を販売しておいて破綻してしまった語学学校などの事例もあった。

(6) 業務提供誘引販売取引とは、いわゆるモニター・内職商法と言われるもので、物品の販売やサービス提供を行うことで収益が得られるとして勧誘し、材料の購入費、取引料、登録料などの支払(特定負担という)をさせる取引である(特商法51条)。

(7) 訪問購入とは、事業者がその営業所以外(例えば消費者の自宅)を訪問して、消費者から物品を購入するものである(特商法58条の4)。不用品回収業者などが該当する。
2特商法の規定内容
各販売手法に対する規定内容は区々であるが、特商法のもととなった訪問販売法で対象とされていた訪問販売について、ざっくりと規定内容をまとめてみる。

具体的には、ア)書面の交付(特商法4条、5条)、イ)不実告知の禁止・不告知の禁止、威迫・困惑をさせることの禁止(特商法6条)、ウ)行政からの指示・業務停止・業務の禁止(特商法7条、8条、9条)、エ)クーリングオフ(特商法9条)、オ)過量販売の禁止(特商法9条の2)、カ)契約取消権(特商法9条の3)、キ)損害賠償額の制限(特商法10条)である。

ア)書面の交付 消費者がどのような商品や権利、役務を申し込んだのか、それはいくらなのかなど契約時のおける重要な事項を消費者に理解してもらうための書面を交付する義務である。本書面ではクーリングオフ制度を告知することとなっており、書面交付時がクーリングオフ行使期間の起点となったり、あるいは不実告知による契約取消を行ったりするための基礎となる重要な書類である。後述するが、この書面を電子化するという改正特商法の政府原案に対して異論が噴出した。

イ)不実告知の禁止・不告知の禁止、威迫・困惑をさせることの禁止 消費者が契約を締結する判断を行うにあたって判断に影響を与える事実について不実のことを告げたり1、故意に事実を告げなかったり、あるいは自由な意思決定を妨害するような威迫等の行為を禁止するものである。

ウ)行政からの指示・業務停止・業務の禁止 特商法違反行為があったような場合において、主務大臣は訪問販売業者に対して違反行為等の是正のために必要な措置を指示することができる。また違法行為等によって消費者の利益が著しく害される恐れがある場合や、上述の指示に従わない場合は、二年以内の期限を限り販売業者の業務の停止を命ずることができる。さらに例えば法人に対して業務停止命令を出した場合に、その役員・使用人が別に訪問販売事業を開始することを禁止する命令を出すことができる(図表1)。
【図表1】業務停止および業務禁止
エ)クーリングオフ 商品等販売にともない上述の書面の交付が行われてから8日を経過するまでは理由の如何を問わず、消費者は申込の撤回または契約解除を行うことができる。

オ)過量販売の禁止 2008年改正によって導入された規定で高齢者が不要な量の同じ商品等の購入をさせられていたような事例により定められた。具体的には、特別な事情がない限り、日常生活で通常必要とされる分量を著しく超える販売については解除することができるとされている。

カ)契約取消権 不実告知を行ったり、告知が法定されている事項に不告知だったりしたことによって、消費者が誤認に基づいて契約を行ったときには、消費者が契約を取り消すことのできる権利である。

キ)損害賠償額の制限 たとえば物品の販売に関して契約取消がなされ、物品が返品された場合において、仮に違約金条項があったとしても、契約取消までの物品の利用料相当額とそれにかかる遅延損害金を超える損害賠償を求めることができないとする規定である。

各販売手法ごとの規定は図表2の通り。
【図表2】各販売手法に関する特商法規制
 
1 不実のことを告げたかどうかに関して、主務大臣は訪問販売業者に事実の裏付けとなる資料の提出を求めることができ、提出がないときは不実のことを告げたとみなすことができる(特商法6条の2)。
3|その他の特商法の規定
特商法のその他の主な規定としては、販売業者等が不特定かつ多数の者に不実告知や故意の不告知などを現に行うおそれがあるときに、適格消費者団体による差し止め請求を認めている(特商法58条の18~58条の24)2
 
2 なお、この部分に関して消費者安全法の定める消費生活協力団体等から適格消費者団体への情報提供についても立法されている(改正特商法58条の26)が本文では省略した。

3――改正特商法の概要

3――改正特商法の概要

1|総論
今回の改正の概要は、(1)通信販売における詐欺的行為の抑止、(2)送り付け商法の返品請求不可、(3)交付書面の電磁的提供、(4)クーリングオフ通知の電磁的提供、(5)業務停止・禁止範囲の拡充、(6)外国執行当局との情報交換である。(2)はすでに施行済み(2021年7月6日)であるが、(1)及び(4)~(6)は2022年6月1日施行である。(3)については2023年6月15日までの政令で定める日までに施行されることとなっている。
2通信販売における詐欺的行為の抑止
通信販売については販売業者が広告をしたことに対して、申込みは消費者から自発的になされることが特色であり、重要事項を書面で告知する義務は課されていない。

ところで、昨今、無料モニターやお試し無料・半額などと表示して消費者から契約を申し込ませるが、その契約は2回目以降の分も申し込む内容となっており、2回目以降は正規料金をとるものがある。また、サブスクリプション方式で、申込みはネットで簡単にできるが、解約には電話をすることが必要とされ、そしてその電話はずっと話中か時間外で、一向に解約できないといった、いわゆるダークパターンと呼ばれる行為が問題となってきた。

そのため、改正特商法では(1)申込み書面または申込み画面への表記規制、(2)誤認表示の禁止、(3)申し込みの撤回等妨害の禁止が定められた。具体的に、販売業者等は(1)特定申込み(すなわちi)販売業者等の定めた様式の書面での申込み、またはii)販売業者等の定めたネット経由の申込み)を受ける場合には、以下の事項を申込み書面・画面に記載・表示する必要がある。表示事項としては、a)商品・特定権利・役務の分量、b)商品・特定権利・役務の対価、c)対価の支払い時期・方法、d)商品の引き渡し時期、権利の移転時期、役務の提供時期、e)申込期間の定めがある場合はその旨・内容、f)申込の撤回または解除に関する事項である(改正特商法12条の6第1項(⇒11条1号~5号))。また販売業者等は、(2)消費者が申し込むのが有償契約であるのに、それを誤認させるような表示や、上記(1)に係る事項について誤認させるような表示を行うことが禁止される(改正特商法12条の6第2項)。さらに(3)販売業者等は、通信販売に係る売買契約等の申込みの撤回または解除を妨げるために撤回・解除に関する事項について不実のことを告げることをしてはならない(改正特商法13条の2)。この(3)の改正特商法13条の2違反行為には刑事罰が科せられることとなっており、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または併科)が科されることとなる。なお、(1)と(2)に関しては「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(以下ガイドライン)」が制定される。

これらの改正の結果、無料サンプル進呈と言いながら、実際には不意打ち的な有償契約の締結を行うような手法は、そのような有償契約であって金額や期間はどれほどかなどをしっかりと記載しなければならなくなるため、改正法施行以降は抑止できると考えられる。また、実際につながらない電話を解約手続き先として記載することも事情により、撤回・解約に関する事項について不実のことを伝えたと解される(ガイドライン2(2)⑥)。

さらに、法12条6項第1項2項(上記(1)(2))に反する不実告知または不告知によって誤認をした消費者は通信販売に係る契約の申込みについて取り消しをすることができる(法15条の4)。そして、申込みの撤回または解除に関する事項について優良誤認させる行為や、通信販売における申込み書面や画面に法定事項を記載しない行為等、書面送付や電磁的な送信が契約申し込みとなるのにそのことを表示しない行為、申込みの撤回や解除に関する不実告知をする行為については、新たに適格消費者団体による差止対象とされた(改正特商法58条の19)。
3送り付け商法の返品請求不可
送り付け商法とは、何ら先行するやり取りもないのに勝手に商品を送り付け「返品するか、代金を払うか」と迫るものである。これまでは原則として商品が送付されてきてから起算して、原則として14日を経過した日まで承諾の通知をせず、かつ販売業者が引き取りをしなかった場合には、販売業者はその商品の返還を請求することができないとされていた(改正前特商法59条)。

改正法では、「売買契約を偽って商品を送付した場合」にはその商品の返還を請求することができないとされた(改正特商法59条の2)。したがって「ご注文ありがとうございます。」などの表記で勝手に商品を送り付けられた場合は、即座に所有権が消費者に移ることとなり、14日を待たず、即座に処分してよいこととなった。これについて立案者の説明としては、売買行為が存在しないのに商品を一方的に送付して売買契約の申込みを行う行為は何ら正常な事業活動とみなされず、代金を支払わなければならないと誤認させることは「詐欺行為である」と認識をしているとのことである3

なお、国会議論では誤送付の場合(=配達業者が誤ってAさんあての小包をBさん宅へ配送)された場合は、「売買契約を偽った」ものではなく、単なる配送を間違っただけであるため、所有権が移転するわけでなく、民法の原則に従って処理されることとなる4との説明があった。
 
3 第204回衆議院、消費者問題に関する特別委員会議事録第9号令和3年5月13日片桐政府参考人発言
4 この場合は、勝手に処理をすることはできず、商品を返送するか、不当利得により利得の返還請求が求められる(民法703条)。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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