2022年03月25日

ふるさと納税をしない理由

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

2020年度のふるさと納税で全国の各自治体に寄付された金額の合計は約6725億円、ふるさと納税にかかる住民税控除適用者数は約552万人だった1。ふるさと納税の利用者は増加傾向にあり、2020年度の寄付額はそれまでで最も大きい金額ではあるものの、住民税の所得割の納税義務者数は約5900万人2であることから、利用率は1割を下回る。

ふるさと納税は、実質2000円の負担で様々なお礼の品がもらえるというメリットの見えやすい制度といえる。そして、ふるさと納税という言葉を聞いたことがある人の割合は9割を超えるという報告もある3ことから、制度の存在は既にほとんどの人に認識されているといっていいだろう。それにも関わらず、多くの人々は利用していないのはどうしてなのか。

本稿では、ニッセイ基礎研究所が行った独自のアンケート調査を用いて確認した、人々がふるさと納税をしない理由についての調査結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、最も多くの人が選択したふるさと納税をしない理由は、「仕組みやメリットについて、よく知らないため」であった。
 
1 総務省(令和3年7月)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000761685.pdf, 2022年3月22日アクセス)
2 総務省(令和3年3月)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/ichiran09_20.html, 2022年3月22日アクセス)
3 リサーチプラス(2018年7月)(https://www.research-plus.net/html/investigation/report/index138.html, 2022年3月22日アクセス); リサーチノート(2022年3月)(https://research-platform.line.me/archives/39710497.html, 2022年3月22日アクセス)

2――調査概要

2――調査概要

本調査は、2021 年の 3 月に WEB アンケートによって実施した。回答は、全国の 26~65歳の男女4を対象に、全国 6 地区の調査対象者の性別・年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、令和2 年 1 月の住民基本台帳の分布に合わせて収集した。回答数の合計は 2,601件である。本稿ではこのうち、住民税所得割の納付がない(ふるさと納税を行ったとしても金銭的なメリットが無い)可能性のある、年収130万円未満の人を除いた、1,638件の情報を用いて行った分析の結果を紹介する。
 
4 マイボイスコム株式会社のモニター会員

3――ふるさと納税を行った人の特徴

3――ふるさと納税を行った人の特徴

ふるさと納税をしない理由を確認する前に、まず性/年齢層別に、2020年のふるさと納税を行った人の割合を確認したのが、図1である。図1からは、本調査の参加者の約3割の人が2020年のふるさと納税を行っていることがわかる。これは、「はじめに」で示された納税義務者の中でのふるさと納税の利用率(1割弱)よりも高い値である。本調査は、インターネット調査会社へのモニター登録者を対象としたアンケート調査であり、参加者がふるさと納税を行う際に便利なインターネットでの手続きに慣れていること等を反映している可能性が考えられる。そのため、本調査の結果が日本全体の傾向を必ずしも示しているわけではないことに注意が必要である。
図1. 2020年にふるさと納税を行った人の割合(男女/年齢層別)
さらに図1からは、男女ともにふるさと納税を行った人の割合は3割程度で、ふるさと納税を行った人の割合に男女差は見られないことがわかる。年齢層別の違いを見ると、男性では20代と30代、女性では20代で、ふるさと納税を行った人の割合が特に大きいことが確認できる。また、男女ともにふるさと納税を利用した人の割合が最も小さいのは、60代であった。若年層ほど、ふるさと納税を行う際に便利なインターネットでの手続きに慣れていることから、手続きへのハードルが低いことを反映している可能性が考えられる。

また、図2は、ふるさと納税を行った人の割合を年収別に示したものである。図2からは、年収の高い人ほど、ふるさと納税を行った人の割合は大きい傾向が確認できる。実質2000円の負担で寄付することができる金額の上限は、所得が高い人ほど高いため、ふるさと納税は所得が高い人ほどメリットが大きい制度であることを反映していると考えられる。
図2. 2020年にふるさと納税を行った人の割合(年収別)

4――ふるさと納税をしない理由

4――ふるさと納税をしない理由

それでは、多くの人がふるさと納税をしない理由は何なのか。2020年のふるさと納税をしなかった人を対象に、ふるさと納税をしなかった理由を尋ねた回答の分布を、性/年齢層別に確認したのが図3、年収別に確認したのが図4である。図3に示されるように、ふるさと納税をしない理由として全体で最も大きな割合を占めたのは、「仕組みやメリットについて、よく知らないため」だった。年齢層別に見ると、男女ともに、「仕組みやメリットについて、よく知らないため」を選んだ人の割合が最も大きい年齢層は30代で、最も小さい年齢層は60代だった。また、「仕組みやメリットについては知っており、やりたいと思っているが、手続きが面倒なため」という人も各性別年齢層で約2割確認された。
図3. ふるさと納税をしない理由 (男女/年齢層別)
さらに、図4は、年収別にふるさと納税をしない理由の分布を示したものである。年収が700万円未満の人の間で最も選択された理由は「仕組みやメリットについて、よく知らないため」である一方、年収が700万円以上の人の間では、「仕組みやメリットについては知っているが、必要性を感じないため」の割合が最も大きく、「仕組みやメリットについては知っており、やりたいと思っているが、手続きが面倒なため」の割合が次に大きい。所得が高い人は納税額も大きいため、こうした仕組みやメリットについて調べている可能性が示唆される。
図4. ふるさと納税をしない理由 (年収別)

5――おわりに

5――おわりに

本稿では、ニッセイ基礎研究所の独自のアンケート調査から、人々がふるさと納税をしない理由を確認した結果を紹介した。本調査からは、人々のふるさと納税を行わない最も大きな理由は、「仕組みやメリットについて、よく知らないため」で、ふるさと納税を行わなかった人の約4割が選択した。ふるさと納税を行った人を含めた全体から見ると、約4分の1の納税者が、仕組みやメリットについてよく知らないためにふるさと納税を行っていないということになる。ふるさと納税という言葉の認知率は高いが、制度の仕組みやメリットについてはまだほとんどの人に知れ渡っているとは言えないのかもしれない。

(2022年03月25日「基礎研レター」)

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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

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【ふるさと納税をしない理由】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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