2022年03月18日

英国金融政策(3月MPC)-3会合連続利上げだが、様子見意見も

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:3会合連続での利上げを決定

3月16日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、17日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を0.75%に引き上げ(0.25%ポイントの利上げ)

【議事要旨(趣旨)】
22年1-3月期のGDP成長率は0.75%と予想(2月報告書より強い)
2月以降の展開はインフレ率のピークと家計所得の下押し圧力を助長する可能性が高い
インフレ率は22年4-6月期にはおよそ8%となり、年後半にさらに高くなるかもしれない

2.金融政策の評価:今後の注目は利上げの到達地点やそのペース

イングランド銀行は今回のMPCで0.25%ポイントの利上げを決定した(0.50→0.75%)。昨年12月、前回2月の決定に続き3会合連続での利上げとなる。なお、市場でも今回の0.25%ポイントの利上げを予想しており、予想通りの決定となった。

ただし、今回の利上げの決定は8対1で、1人は政策金利据え置き(現状維持)を主張した。前回2月の決定が5対4で、4名が0.50%ポイントの利上げとタカ派な内容を主張していたが、今回の決定では様子見の反対票が出た

声明文には、前回から(エネルギー価格など輸入インフレのショックは)「金融政策では防ぐことができない」が、「金融政策の役割は、実体経済の調整が発生した際に、生産量の望ましくない変動を最小限に抑え、2%目標の中期的な持続を達成するよう一貫した行動をすることである」と記載されている。議事要旨によれば利上げに反対したカンリフ副総裁は、ロシアのウクライナ侵攻を含む物価上昇圧力が、域内需要や将来の域内インフレ圧力を低下させる点を重視している。まさに中期的に見た際の、生産量の大幅な変動を避けるということが強調されているように思われる。

つまり今回は、大幅な金融引き締めで需要が大きく縮小すること(いわゆる「オーバーキル」)を懸念し、状況を見極めるべきという意見が出てきた。声明文でも、金融政策について前回の「今後数か月でのさらに緩やかな引き締めが適切だろう(likely to be)」、から今回は「適切かもしれない(may be)」に表現が変更された。

ロシアのウクライナ侵攻前の2月の報告書では、政策金利を1.5%近くまで引き上げる中央見通しでは予測期間の終わりにはインフレ率が目標を下回り、政策金利が0.5%で横ばいのケースでは予測期間の終わりでも2%をやや上回っていることから、政策金利は0.5%より引き上げる方が望ましいが、1.5%は引き上げ過ぎと解釈できた。今回、ロシアのウクライナ侵攻による影響として、イングランド銀行はインフレ圧力が助長されると評価しているが、中期的なコストプッシュの物価上昇圧力と需要減の物価下落圧力への影響については、明確な見解を示していない。

議事要旨での指摘では、市場予測の政策金利は、今回の会合前時点で22年末に約2%(2月会合の直前よりも70ベーシスポイントほど高い)とされている1が、イングランド銀行がインフレ圧力だけでなく、景気(による物価下落圧力)にも配慮するとすれば、利上げの到達点は市場が予想する到達地点より低い可能性がある。そのため今後も段階的な利上げは続くだろうが、景気を冷やしすぎない政策金利の到達地点はどこか、といった点にも注目が集まりそうだ。また、成長率の減速が顕在化し、エネルギー価格の変動が大きい状況が続けば、カンリフ副総裁の主張するように、いったん様子見し、利上げペースを落とすという意見が増える可能性がある

次回5月には市場予想の政策金利経路を前提とした成長率とインフレ率の見通しが公表される。イングランド銀行は、高インフレを受けて主要中銀でいち早く引き締めを進めているだけに、インフレや景気の評価と金融政策の判断が引き続き注目される。
 
1 なお、今回の会合結果を受けてイングランド銀行の利上げ観測は後退しているが、金融市場では大方が年内に2%まで政策金利を上昇させると見ている。例えば、ロイター「英の金利先高観が急速にしぼむ、追加利上げ巡る文言軟化で」2022年3月18日(22年3月18日アクセス)

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • イングランド銀行はロシアのいわれのないウクライナへの侵攻および負わせている苦しみを非難する
    • イングランド銀行は英国政府と緊密に連携し、国際当局と一体となり対応を支援する
    • MPCはこの非難を支持し、これらの行動を歓迎する
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を0.75%に引き上げる(8対1で決定1、0.25%ポイントの引き上げ)、1名は0.50%に維持することを主張した
 
 
1 今回の反対票は、カンリフ委員(副総裁)。前回はハスケル委員、マン委員、ソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)の4名で0.75%への利上げ(0.50%ポイントの利上げ)を主張した。
  • ロシアのウクライナ侵攻前に公表した2月のMPR(金融政策報告書)で英国のGDPは今年にかけて成長が緩やかに減速すると予想した
    • これは、大部分が、これまですでに高騰していた世界的なエネルギー価格と貿易財価格の上昇による悪影響が英国の実質所得と支出に影響することの反映であった
    • その結果、生産力余剰(spare capacity)が拡大し、失業率が2025年までに5%まで上昇するとみていた
    • CPIインフレ率は22年4月に7.25%程度でピークに達すると予想された
    • 2月のMPC時点における市場予測の政策金利と慣例の将来エネルギー価格の前提の条件のもと、インフレ率の上昇圧力は時間の経過とともに解消に向かい、CPIインフレ率は2年間で2%をやや上回る程度まで低下し、3年後には目標を大きく下回ると予想された
 
  • 2月の報告書以降の展開は、インフレ率のピーク、および、家計所得の下押し圧力を助長する(accentuate)可能性が高い
 
  • インフレ率に関して、ロシアのウクライナ侵攻はエネルギーと食料を含む商品価格をさらに大きく押し上げた
    • これはまた世界的な供給網の混乱を悪化させ、経済見通しへの不確実性を大幅に増加させる可能性が高い
    • 世界的なインフレ圧力は今後数か月でかなり上昇し、英国を含むエネルギーの純輸入国の成長は鈍化するだろう
 
  • 経済活動に関して、1月の英国GDPは2月の報告書で予想されていたよりも強かった
    • 企業景況感は堅調で、労働市場のデータは引き続き強かった
    • しかしながら消費者信頼感は家計の実質可処分所得の低下を反映して落ち込んだ
    • いまや実質所得への影響は、2月の報告書での見通しで示唆されるよりもかなり大きいと見られ、成長や雇用の見通しもそれに合わせて弱くなるだろう
 
  • CPI前年比上昇率は12月の5.4%から1月には5.5%まで上昇し、MPCの声明と同時に公開された中銀総裁と財務相の間の書簡2を交わしている
    • インフレ率は今後数か月でさらに上昇し、22年4-6月期にはおよそ8%となり、年後半にはさらに高くなるかもしれない(perhaps)
    • このインフレ率の2%目標からの上方乖離(overshoot)は世界的なエネルギー価格の上昇と貿易財の上昇の影響を反映している
    • サービス価格も、他の品目よりも程度が低いとはいえ、上昇しており、コアサービス価格はコロナ禍前のトレンドに回帰している
    • 名目所得上昇率の基調は引き続きコロナ禍前の上昇率を上回っていると見られ、今後数年は強い状況が続くと見られる
 
 
2 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)。
  • 直近のエネルギー先物価格の上昇が持続するならば、ガス電力市場監督局(Ofgem)の公共料金の上限(price caps)は22年10月の再設定時に大幅に上昇することを意味する
    • これは今年末のCPIインフレ率を、ピークをつけると予想されていた4月の水準以上に、一時的に押し上げるかもしれない
    • さらに先々はエネルギー価格の上昇が止まり、実質所得と需要の減少が国内のインフレ圧力への大きな下押し圧力となるため、インフレ率が大幅に低下すると見られる
 
  • MPCの責務は、英国の金融政策枠踏みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 経済はかなり大きなショックを繰り返し経験してきた
    • ロシアのウクライナ侵攻もこうしたショックである
    • 特に、最近の世界的なエネルギー価格と貿易財価格の持続的かつかなり急な上昇は、純輸入国である英国全体の実質所得と支出の重しになるだろう
    • これは金融政策では防ぐことができない
    • 金融政策の役割は、実体経済の調整が発生した際に、生産量の望ましくない変動を最小限に抑え、2%目標の中期的な持続を達成するよう一貫した行動をすることである
 
  • 現在の労働市場のひっ迫と、国内の費用や価格上昇圧力が持続する兆しが続いていること、これらの圧力が持続するリスクのため、委員会は今回の会合で政策金利を0.25%ポイント引き上げることが必要であると判断した
 
  • 現在の経済状況の評価に基づいて、委員会は今後数か月でのさらに緩やかな引き締めが適切かもしれない(may be)と判断したが、中期のインフレ率をとりまく見通しに関して、この判断へのリスクは上下双方ある
    • MPCは、次回22年5月MPRでの予想作成の一環として、地政学的リスクの世界的な影響を含めた、今後明らかになるデータと、中期的なインフレ率への影響を評価する

4.議事要旨の概要

議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(国際経済)
  • 中国では新型コロナ感染者が上昇しはじめ、当局は現在の対コロナ戦略に従って、局所的に厳しい制限を課し続けている
    • 工場の生産停止も報告されており、供給網の混乱と世界経済の重しとなる可能性がある
 
(通貨金融情勢)
  • 市場予測の政策金利は22年末に約2%までに達しており、2月のMPC直前よりも70ベーシスポイントほど高い。
    • 最新のイングランド銀行の市場参加者調査(Market Participants Survey)では今後数年間では市場で観測される政策金利の予測経路よりもやや低くなると予想しているが、多くの回答者は、リスクが下方よりも上方に傾いていると考えている
 
  • MPCは、ロシアのウクライナ侵攻について、中銀取引先関係者や意思決定者調査(Decision Maker Panel)における景況感調査の説明を受けた
    • しかし、侵攻が英国経済に及ぼす影響について、ほとんどの証拠はまだ得られていない
    • しかしながら、実質の税引後の実質雇用者報酬の下押し圧力は、商品価格の上昇によって以前に予想されていたものより、かなり大きくなるだろう
 
(需要と生産)
  • 前回の会合以降、英国政府および分権政府(Devolved Administrations)により公表された新型コロナ対策は、さらなる制限緩和、場合によっては撤廃であった
    • 最近の高頻度指標は対人接触が多い部門の活動が今年1-3月期にオミクロン前の水準に戻る経路にある
    • カード支出、レストラン予約、列車利用、航空機利用がここ数週間で大幅な回復を続けている
 
  • 中銀スタッフは22年1-3月期のGDP成長率を0.75%と予想しており、これは2月の報告書でのほぼ横ばいという予想よりも強い
 
  • 住宅市場は引き続き堅調で、住宅価格は驚くべきことに2月の報告書の見通しよりも上昇していた
 
  • 企業景況感に関する最近の指標は、消費者信頼感よりもいくぶん堅調であったが、いずれも侵攻前のものである
    • 2月のIHS Markit/CIPSの総合PMI指数は、21年6月以来の最高水準に達した
    • 製造業と建設業PMIには供給網の混乱がさらに緩和された兆しが見られた
    • それにもかかわらず、中銀取引先関係者の最新情報では、侵攻によって貿易財不足が悪化し、自動車産業など一部の産業の生産計画に影響が生じる可能性が示唆された
    • 需要面では3月の意思決定者調査の初期結果では、3分の1の企業がこの侵攻を事業上の不確実性のトップ3に挙げており、全産業への負の影響は平均して、今後1年の売上予測の約3%としている
 
  • 卸売ガス価格は非常に変動が大きく、ガス電力市場監督局の10月の公共料金上限に対応する2月から7月末までの6か月の観測期間は開始されたばかりである
    • 仮にガスと電気の先物価格について現在の上昇が持続するならば、ガス電力市場監督局の10月の再設定で約35%の上昇となり、これは2月の報告書での予想よりも20%ほど高い
 
(当面の政策決定)
  • 家計貯蓄率は、ここ数四半期でコロナ禍によるピークからすでに大幅に低下しており、さらに一部の家計がコロナ禍で積みあがった貯蓄を取り崩せば、コロナ禍前の水準を下回る可能性もある
    • エネルギー価格の動向は低所得者の家計に、不平等な影響を及ぼす
    • しかしながら、こうした家計は、一般的にコロナ禍期間中に貯蓄を大きく増やしておらず、したがって貯蓄の取り崩しによる相殺の程度は限られるだろう
    • また不確実性の高まりから設備投資を削減する動きを注視することも重要となる
 
  • 委員会のほとんどのメンバーは、労働市場の現在のひっ迫、国内の費用・物価上昇圧力とこれらの圧力が持続するリスクに照らして0.25%ポイントの政策金利の引き上げが妥当であると判断した
    • 英国の活動は2月の報告書で予想されていたよりもいくぶん強く、労働市場のひっ迫は予想されていたほどすぐには緩和されないかもしれないという兆しがある
    • ロシアのウクライナ侵攻はインフレのピークと家計所得の圧迫による経済活動への悪影響を助長するだろう
    • この会合で金融政策を引き締めることで、名目賃金上昇率の、域内物価、インフレ期待の強さといった最近のトレンドが続き、固定化されるリスクを軽減し、持続的にインフレ率が中期的に2%目標となることを確保する
 
  • 委員の1名は、今回の会合において、現在の政策を維持することが適切であるとした
    • その委員は、高インフレと労働市場のひっ迫が長引くことで、波及効果(second-round effects)が生じるリスクを認識しており、その場合は更なる引き締めが妥当であるとした
    • しかしながら、商品価格の高騰と実質所得、経済活動へのかなり大きな負の影響を、現時点では大きく強調した
    • これらはロシアのウクライナ侵攻によって悪化したように思われた
    • 侵攻により不確実性が増し、消費者・企業の景況感が低下する可能性もある
    • これらの経済活動や雇用への影響は、域内のインフレ圧力を押し下げるだろう
    • この委員にとって、特に商品市場のボラティリティが高いため、金融政策の経路はこれらの圧力のバランスのさらなる十分な評価に左右される
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年03月18日「経済・金融フラッシュ」)

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【英国金融政策(3月MPC)-3会合連続利上げだが、様子見意見も】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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