2022年03月08日

老後資金準備の実態-老後までに準備が必要と考える金額、老後のための貯蓄や投資に1年間で拠出する必要があると考える金額と、実際の拠出額

基礎研REPORT(冊子版)3月号[vol.300]

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1―はじめに

2019年に起こった「老後2000万円問題」は記憶に新しいが、人々は老後までにいくら準備する必要があり、そのための貯蓄や投資に毎年いくら拠出する必要があると考えているのだろうか。そして、実際に、老後のための貯蓄や投資に年間どの程度拠出しているのか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が実施した独自の調査を用いて確認した結果を紹介する。

2―調査概要

本調査は、2021年3月にWEBアンケートによって実施した。回答は、25~64歳の男女*1を対象に、全国6地区の調査対象者の性別・年齢階層別(10歳ごと)の分布を、令和2年1月の住民基本台帳の分布に合わせて収集した。回答数の合計は2,601件である。
 
*1 マイボイスコム株式会社のモニター会員

3―老後までに準備する必要があると考える金額

図表1は、「あなたが、老後までに準備する必要があると考える金額(ご結婚されている方はご夫婦での総額)を教えてください。」という質問への回答の分布を有配偶者/独身者別及び年齢層別に示したものである。有配偶者全体の平均値は4419万円で、中央値は2000万円、最小値は0円で、最大値は50億円であった。独身者全体の平均値は4070万円で、中央値は2000万円であった。また、最小値は0円で最大値は50億円であった*2
[図表1]老後までに準備する必要があると考える金額
年齢層別の分布を見ると、有配偶者と独身者のどの年齢層でも「2000万円以上3000万円未満」の金額と回答した人の割合が最も大きい。中でも、ちょうど2000万円と回答した人の割合は、有配偶者全体の約28%、独身者全体の約27%であった。年齢層ごとの違いを見ると、60代有配偶者で3000万円以上必要と考える人の割合が少し大きく、60代独身者で3000万円以上必要と考える人の割合が少し小さい傾向が見られる。
 
*2 図1に示した分布や平均値は、調査の回答のすべてを使い、こうした最小値や最大値を除外しないで計算したものである。参考に、上位下位各5%の回答を除外した場合の平均値(5%トリム平均)は、有配偶者全体では2887万円(n=1307)、独身者全体では2501万円(n=1036)である。

4―老後のために準備する必要があると考える金額

次に、図表2は、「あなたは、老後のための貯蓄や投資に、1年間で何万円程度拠出する必要があると考えていますか。(ご結婚されている方はご夫婦での総額をお答え下さい)」という質問への回答の分布を有配偶者/独身者別及び年齢層別に示したものである。有配偶者全体の平均値は282万円で、中央値は100万円、最小値は0円で、最大値は4億円であった。独身者全体の平均値は242万円で、中央値は100万円、最小値は0円で最大値は4億円であった*3
[図表2]老後のための貯蓄や投資に、1年間で拠出する必要があると考える金額
年齢層別の分布を見ると、有配偶者、独身者ともに、どの年齢層でも「100万円以上200万円未満」の金額と回答した人の割合が最も大きい。中でもちょうど100万円と回答した人の割合は、有配偶者全体の約27%、独身者全体の約24%であった。年齢層ごとの違いを見ると、有配偶者、独身者共に、老後準備意識の高まりからか、50代で100万円以上必要と考える人の割合が少し大きいようだ。
 
*3 図2に示した分布や平均値は、調査の回答のすべてを使い、こうした最小値や最大値を除外しないで計算したものである。参考に、上位下位各5%の回答を除外した場合の平均値(5%トリム平均)は、有配偶者全体では143万円(n=1307)独身者全体では113万円(n=1036)である。

5―老後のための貯蓄や投資に現在1年間で拠出している金額

次に、図表3は、「あなたは、老後準備のための貯蓄や投資に、現在1年間で何万円程度拠出していますか。(ご結婚されている方はご夫婦での総額をお答え下さい)」という質問への回答の分布を有配偶者/独身者別及び年齢層別に示したものである。有配偶者全体の平均値は150万円で、中央値は50万円、最小値は0円で、最大値は1億2000万円であった。独身者全体の平均値は108万円で、中央値は16万円、最小値は0円で最大値は5000万円であった*4
[図表3]老後のための貯蓄や投資に、現在1年間で拠出している金額
年齢層別の分布を見ると、有配偶者、独身者ともに、どの年齢層でも「10万円未満」の金額と回答した人の割合が最も大きい。中でも0円と回答した人の割合は、有配偶者全体の約19%、独身者全体の約21%であった。年齢層ごとの違いを見ると、老後準備意識の高まりからか、50代で10万円以上拠出している人の割合が少し大きい傾向が見られる。
 
*4 図3に示した分布や平均値は、調査の回答のすべてを使い、こうした最小値や最大値を除外しないで計算したものである。参考に、上位下位各5%の回答を除外した場合の平均値(5%トリム平均)は、有配偶者全体で74万円(n=1307)、独身者全体で47万円(n=1036)である。

6―おわりに

本稿では、老後までに準備が必要と考える金額と、老後のための貯蓄や投資に1年間で拠出すべきと考える金額、そして、老後のための貯蓄や投資に現在拠出している金額について、ニッセイ基礎研究所が実施した独自の調査を用いて確認した結果を紹介した。そして、老後までに準備が必要と考える金額は2000万円程度、老後のための貯蓄や投資に1年間で拠出する必要がある金額は100万円程度と考えている人が多いことが確認された。一方、実際の老後のための貯蓄や投資への年間拠出額の中央値は、有配偶者で50万円、独身者で16万円であり、必要であると考える年間拠出額の中央値である100万円を下回った。

老後のための貯蓄や投資に必要と考える金額を実際に拠出できない理由としては、主に経済的な理由が考えられるが、その他にも、老後準備がついつい後回しにされてしまう傾向などの要因が考えられるかもしれない。こうした要因が今後検証されていくことで、人々がより安心して暮らすことができる社会の構築につながっていくことが期待される*5
 
*5 本稿の本文で示した、老後のために準備する必要があると考える金額、老後のための貯蓄や投資に1年間で拠出する必要があると考える金額、老後のための貯蓄や投資に現在拠出している金額の平均値は、最大値として記載したような大きな値の回答についてもサンプルからの除外等は行わずに、回答をそのまま集計した結果を掲載している。(注釈には参考として、上位下位各5%を除外したトリム平均を掲載。)これらの回答の分布は、左に傾いた分布であるため、これらの平均値は、中央値より大きい数値になっていることに、注意が必要である。
 また、本調査は日本の住民全体からランダムサンプリングによって選ばれた人々を対象に行ったわけではなく、マイボイスコム株式会社のモニター会員を対象に実施したWeb調査であり、日本の住民全体の傾向とは異なる可能性がある点に注意が必要である。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2022年03月08日「基礎研マンスリー」)

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