2022年03月01日

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1―はじめに

米国のNAIC(全米保険監督官協会)は、2022年2月9日に、2021年の規制上の優先事項を公表1している。また、英国のPRA(健全性規制機構)も2022年1月12日に保険会社のCEO宛の書簡の中で、2022年の規制当局の目標を概説している。

今回のレポートは、これらのNAICやPRAの2022年における監督・規制上の優先事項について、報告する。

2―NAICの2022年の規制上の優先事項

2―NAICの2022年の規制上の優先事項

NAICのメンバーは、毎年、組織の役員や委員会の任命の発表後、優先順位を決定し、潜在的な作業計画を議論しているが、NAICは、2022年2月9日に、「州の保険委員会が保険問題について話し合った」として、「全米保険監督官協会(NAIC)のメンバーは先週会合を開き、様々な委員会の活動の計画を開始した。コミッショナーはまた、効率を改善し、組織を強化するために更新されているNAICの内部戦略計画に取り組んだ。」と述べた。

また、この中で、2022年の「重要な優先事項と議論のトピックの1つは、データ、イノベーション、サイバーセキュリティに焦点を当てる新たに形成された「H」委員会の立ち上げだった。委員会は、消費者を不公正な慣行やサイバー侵害から保護しながら、テクノロジーとイノベーションを適切に使用する方法に取り組む。」とし、さらに、「議論された他の重要な問題には、介護保険、消費者が保険にアクセスしやすくすること、及び国際基準の設定が含まれていた。」と述べた。

NAICの会長兼アイダホ州の保険ディレクターのDean L. Cameron氏は、「共有された思慮深く、協調的で、慎重なコメントは、2022年の問題の概要を説明し、意味のある入手可能な解決策の表を設定するのに役立った。私たちの州の規制当局が常に消費者を第一に考えていることを誇りに思う。」と述べた。

NAIC の2022年の規制上の優先事項は、以下の通りとなっている。

なお、「2022年の主要な規制の優先順位は、メンバーによって決定される。メンバーは、これらの重要な優先順位や、年間を通じて消費者と業界に影響を与えるその他の重要な問題に取り組み続ける。私たちの最優先事項に特定の順序はない。」としている。

「H」委員会によるサイバーセキュリティ、消費者データ/AI、イノベーション
新たに設立されたH委員会は、州の保険規制当局がサイバーセキュリティ、イノベーション、データセキュリティ、プライバシー保護、及び新興技術について学び、議論するためのフォーラムを提供する。委員会は、保険会社によるAIの使用に関する調査を継続し、現在の州法と規制ツールが保険契約者の保護に十分であるかどうかを評価する。イノベーション、サイバーセキュリティ違反から生じる規制問題、及び保険業界における進化するテクノロジー関連の問題に関するNAICの取り組みを調整する。

介護保険
NAICは、州間の料率レビュー慣行及び保険会社による減額給付オプションの提供に関して、より一貫性のある規制環境を構築するための共同の努力を継続する。この点で、最近開発されたNAIC のマルチステート保険数理レビューフレームワークの採用と実装は、来るべき年の重要なイニシアティブとなる。介護保険市場と保険会社の継続的な財務監視も重要なイニシアティブになる。

人種&保険
人種と保険に関する特別委員会は、様々な人種の保護ギャップを埋め、保険商品へのアクセスの障壁に対処し、保険セクターのキャリア機会を拡大し、金融リテラシーを強化するために、人種と保険の共通部分を引き続き評価する。

気候リスク/自然災害と回復力
NAICメンバーは、保険会社による気候関連リスクとその保険セクターへの影響に関する開示の強化を最終決定し、バランスシートの両側で保険会社の回復力を評価し、消費者の保険保護ギャップを埋め、緩和技術と戦略の経済的便益を促進する。NAICは、リスク分析と軽減の取り組みにおいて、州にさらに力を与えるために、大災害モデリングに関するセンターオブエクセレンスの設立を検討することを進める。

3―PRAの2022年の監督上の優先事項

3―PRAの2022年の監督上の優先事項

PRAの保険監督のエグゼクティブディレクターであるAnna Sweeney氏とCharlotte Gerken氏は、2022年1月12日に保険会社のCEO宛の書簡の中で、2022年の規制当局の目標を概説している。

これによると、「英国の保険業界は、専門分野への移行を含め、形を変え続けている。後者のメリットを認識しながら、ビジネスモデルや運用モデルへの集中度が高まると、効果的なリスク管理と軽減が必要な脆弱性がもたらされる。」と述べている。また、「政府によるソルベンシーIの見直しは、2022年を通じて、PRAと保険会社の両方にとって引き続きの焦点となる。私たちは、実施された場合に、健全性体制とその回復力要件を 英国の保険セクターとそのリスクの形に整合するような改革のパッケージに向けて取り組む。」としている。

具体的な2020年の優先事項の概要は、以下の通りとなっている。

1.財務上のレジリエンス
COVID-19が信用ポートフォリオに与える影響はまだ十分には現れておらず、公的セクター支援スキームが廃止されるにつれ、回復はセクター間で不均等となる可能性が高い。全ての生命保険と損害保険会社は、ポートフォリオ内の信用リスクと準備金への影響を綿密に監視する必要がある。

また、取締役会は、信用格下げと債務不履行のリスク、それが財政状態に与える影響、及び損失から回復する能力を明確に理解していることが期待される。取締役会は、適切なリスクアペタイトを設定し、これらのアペタイトがビジネス全体で実践されるようにし、様々なシナリオに対して自分の立場を評価することで、このリスクに関連する適切なリスク管理を実施する必要がある。

保険会社が経済インフレに関するリスクを監視し、これが保険金請求額に与える影響を理解し、様々なシナリオにおいて、一般的及び社会的インフレが財務上のレジリエンスに与える潜在的な影響を考慮し、慎重な準備金決定に織り込むことを期待する。

なお、このセクターの財務上の回復力は、保険ストレステストによって評価されるが、2022年には、PRAやその他の利害関係者がシステミック・ショックに対するセクターの回復力を評価できるような集計結果を公表する必要がある。

2.オペレーショナルリスクとレジリエンス
サイバー攻撃によるものを含め、企業の規模及び業務機能に応じたハイブリッドな作業環境及び操業上の混乱を管理するための、ダイナミックで効果的なリスク管理の枠組みを構築すし、サイバー脅威に対する回復力をテストすることを奨励する。

3.気候変動から生じる金融リスク
気候変動がもたらす金融リスクの監督を中核的な監督アプローチに組み込む。アプローチは、 2021年気候ビエンナーレ探索シナリオ (CBES)から収集された情報によって知らされる。企業の気候関連財務リスク管理の評価は、監督サイクルの全ての関連要素に含まれる。企業が気候関連の財務リスクを効果的に管理する上で不十分な進展が見られる場合に利用できるよう、様々な監督ツールを引き続き検討する。

4.規制の変更
ソルベンシーIIの見直しについて引き続き政府と協働して、企業の規制上の負担を軽減し、賢明なリスク管理及び政府の優先事項に沿ったインセンティブを有する改革パッケージを提供する。

本年後半に予定されている一連の措置に関する正式な協議に先立ち、レビューの目的に最も合致する可能性のある政策措置に関する詳細な技術的関与を通じて、本年前半に定量的影響調査のデータを拡充する。

保険セクターのための目標を定めた破綻処理制度を策定するために政府と協力する。

リスクに見合ったプロセスと時間を確保するために、ILSビークルや他の保険会社の認可に対するアプローチを改善する方法を引き続き検討する。

5.英国で認可を求める第三国の支店
PRAは、FSMA(金融サービス市場法)のPart 4 Aに基づく申請を一定期間行うよう企業に指示する権限を含め、申請の流れが効果的に管理されることを確保するため、引き続きその権限を行使する。

6.ダイバーシティ&インクルージョン
ディスカッションペーパー(DP)2/218が、企業内の多様性を奨励することにより、金融サービス部門のレジリエンスを支援するという野心を示している。企業がDP 2/21に示されたテーマを検討し、自らのギャップを理解し、組織内においてどこで前進できるかを検討することを期待する。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、NAICやPRAの2022年における監督・規制上の優先事項について、報告してきた。

前回の保険年金フォーカスで報告したEIOPA(欧州保険年金監督局)の2022年の監督上のコンバージェンス計画における課題を含めて、今回のNAICやPRAが掲げている課題のいくつかは、基本的には世界各国の保険業界に共通する課題であり、そのためグローバルレベルでのIAIS(保険監督者国際機構)においても、同様のトピックに関する検討が行われてきている。

これらの課題は、日本の保険会社にとっても極めて重要な課題であることから、今後の検討を巡る動向等については、今後も引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年03月01日「保険・年金フォーカス」)

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【NAICやPRAが2022年の監督・規制上の優先事項を公表】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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