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複数の国にまたがる年金基金の状況(欧州)-EIOPAの報告書(2021年12月)の紹介

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
これまでは、こうしたものを含む年金基金全体の様々な状況報告の中に、一つのテーマとして、複数の国にまたがって活動する年金基金の状況が含まれている、という報告書の体裁であったが、今回は、この件単独のテーマの報告書が発行されたものである。
2020年1月に、英国がEUを離脱したことにより、後述するように英国に関係する相当数の年金基金が報告対象から外れている。そのため、EUの状況=欧州ほぼ全体の状況、と言うわけにはいかなくなったが、それでもかなりの部分であることには違いない。
1 Cross Border IORP (EIOPA 2021.12.3)
https://www.eiopa.europa.eu/sites/default/files/financial_stability/pensions-statistics/2021-eiopa-report-on-cross-border-iorps.pdf
2――EUにおける、複数の国にまたがる年金基金の状況
ここでいう、複数の国にまたがる年金基金とは、スポンサー企業と基金加入者や年金受給者との関係において、自国以外の国の社会・労働に関する法律に準拠する必要がある年金基金のことを指す。
EU加盟国にある年金基金の総数は、2017年の報告では約16万件あり、うち英国のものが約4万件であった。今回は基金総数が示されていないので、英国離脱後の正確な基金数は不明だが、それでも約10万件以上の規模であろうと推察される。そのうち複数の国にまたがって活動しているのは33基金である。2017年報告では73基金だったものが、これも英国のEU離脱によって大幅に減少した。
具体的には、73基金のうち、報告対象から外れたのは、英国を本国とする19基金、英国のみを受入国とする23基金(すべて本国はアイルランド)である。
その他には閉鎖されたものが6基金(本国がベルギー:4、リヒテンシュタイン:2)、創設されたものが8基金(本国がベルギー:5、アイルランド:2、キプロス:1)である。
もともと、複数の国にまたがる年金基金を設立するメリットは、一貫したリスク管理やコスト管理がなされること、従業員が国を超えて移動した場合でも一元的な年金制度を提供できることなどであるとされ、ICT革新によってさらに容易にシステム管理できるであろうといった見通しもあった。
ところが実際には、デメリットとしての、受入国の年金関係の法律を本国とは別に適用する必要があること、逆に管理が複雑になりコストがかさむこと、リスク管理的にもオペレーショナルリスクが増大すること、国によってそれらの度合いも異なること、といった点が、メリットを上回っていると認識されているということであろう。
2 リヒテンシュタインはEU加盟国ではないが、EEA加盟国であり、今回の調査に含まれている。
(参考)EU加盟国27か国 オーストリア ベルギー ブルガリア クロアチア キプロス チェコ デンマーク エストニア フィンランド フランス ドイツ ギリシャ ハンガリー アイルランド イタリア ラトビア リトアニア ルクセンブルク マルタ オランダ ポーランド ポルトガル ルーマニア スロバキア スロベニア スペイン スウェーデン
EEA(欧州経済領域) 30か国 上記27か国に加え リヒテンシュタイン アイスランド ノルウェー
EFTA(欧州自由貿易連合) 4か国 リヒテンシュタイン アイスランド ノルウェー スイス
年金のタイプとして大きく分けると、確定給付年金(DB)と確定拠出年金(DC)とがある。これについても英国のEU離脱によって、EU内の様相は変化している。
前回2017年報告では、複数の国にまたがるものに限らない年金基金すべて約16万件の15万件近くはDCのみを取り扱う年金基金であった。ところがそれらはアイルランド、英国、キプロスの小規模の年金基金がほとんどを占めていたのであり、その3国を除くと、DCはもともと半数強でしかなかった。件数ではなく資産ベースでみると、DBの資産規模が大きいため、逆にDCはわずかだった。
こうした背景が、複数の国にまたがる年金基金の状況にも反映しており、英国がEU離脱した今回報告では、件数ベースではDCは4分の1程度。資産ベースではさらに小さく1割程度でしかない。
そういった意味ではDBが依然として主流である。しかし、近年DCが増加傾向にあることは認められるようだ。今回は全体データがないこともあって全貌は不明だが、次回報告を待ちたい。
複数の国にまたがる年金基金の加入者・年金受給者は約7万人(年金基金全体の0.2%にあたるとされる。)である。その65%はベルギーを本国とする基金の加入者である。
国をまたがる年金基金の負債は合計で105億ユーロであり、運用資産は113億ユーロとなっている。DBにおいては常に、保有資産が負債をカバーできているかチェックする必要がある。その点では、DCとDBの資産の内訳が不明であるなど、若干データ不足があるものの、把握できる範囲ではどの年金基金も、保有資産が負債をカバーできている、とのEIOPAの認識である。
3――おわりに
(2022年02月22日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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