2022年01月06日

中国Z世代の働き方

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1――2022年の新卒者が初めて1千万人を突破、過去最多へ

中国教育部、人力資源社会保障部は、2022年の大学・大学院などの卒業者数が1,076万人にのぼり、過去最多となる見通しとなると発表した1。2022年は昨年より167万人増加し、初めて1,000万人を突破することになる。

近年、大学・大学院卒業の新卒者が増加する中で、若年層、新卒者を中心とした就業は、政府が抱える大きな課題となっている。例えば、国家統計局は、2020年6月時点で新卒者を中心とした20-24歳の失業率が19.3%にまで上昇したとした2。その背景には、新卒者の増加に加えて、新型コロナの影響から求人件数が減少し、面接など就職活動にも一定の制限があった点を指摘している。2021年については16-24歳までの失業率は15.4%としつつも、「そのうち20-24歳の新卒者を中心とした失業率は更に高いであろう」という表現にとどめている3

中国において生産年齢人口が減少し、労働力が低下局面にある中で、求職側の経験不足といった要因のみならず、雇用や求職におけるミスマッチも多く発生している。

教育部はこのような状況に即して通知を発出しており4、そこからは新卒者の就職を何としてでも進めたい様子が見えてくる。通知では、大学側の更なるサポートやネット活用、中小企業による求人の促進を求め、企業側には新卒者採用における税金の減免策の活用を促すとした。学生に対しては、起業の促進やデジタル化関連の新たな個人事業への就業を提起するなど、企業や組織への就職にこだわらない就業の多様化を目指そうとしている。更に、政策的な面からは、貧困農村地区における振興事業や無医村での医療業務への従事、兵役への志願なども増強するとしている。加えて、人力資源社会保障部などは、ハイテク分野における人材不足の改善に向けて、技術者育成や技能研修に力を入れると発表している5
 
1 教育部「2022届高校卒業生首破千万」、2021年11月22日 http://www.moe.gov.cn/jyb_xwfb/s5147/202111/t20211122_581508.html、 2021年12月28日アクセス
2 財経「6月份全国20-24歳大専及以上人員調査失業率達19.3%」、2020年7月16日、https://finance.china.com/domestic/11173294/20200716/37240307.html、 2021年12月28日アクセス
なお、発表時(2020年6月時点)で、都市部における失業率は5.7%となっている。
3 人民網「国家統計局:我国就業情況総量穏定 青年失業率上昇」、2021年7月15日、
http://finance.people.com.cn/n1/2021/0715/c1004-32158647.html、 2021年12月28日アクセス
4 教育部「教育部関于做好2022届全国普通高校卒業生就業創業工作的通知」、2021年11月15日、
http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2021-11/21/content_5652326.htm、 2021年12月28日アクセス
5 人力資源社会保障部・教育部・発展改革委・財政部「関于印発“十四五”職業技能培訓規画的通知」、2021年12月15日、http://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/2021-12/17/content_5661662.htm、 2021年12月28日アクセス

2――Z世代:IT分野への就職は2割

2――Z世代:IT分野への就職は2割、転職希望も3割

では、新卒者など若年層は自身の就職についてどのように考えているのであろうか。中国の人材コンサルティング会社の智聯招聘は、Z世代(主に1995年から2009年までに生まれた世代)の就職について調査結果(「Z世代職場現状与趨勢調研報告」、2021年9月発表)を発表している。以下では調査結果を参考にしながら、Z世代の就業分布、就職にあたって重視する内容、仕事に対する考え方についてその一端を確認してみたい。
 
調査によると、働くZ世代における就業分布(男女別)としては、上位から男性は技術(28.1%)、販売(10.7%)、生産・加工(10.6%)となった(図表1)。一方、女性は事務職(16.1%)、財務・会計・監査(12.1%)、販売(10.2%)となっている。特に男性は技術職が突出して多く、およそ3割に達している。技術系への就職に関しては、社会のデジタル化や、それに伴うIT人材の確保と無関係ではないであろう。図表2より、IT分野の就職者の割合を世代別でみた場合、Z世代である95後(1995年以降1999年までに生まれた人)では14.7%、00後(2000年以降生まれた人)では20.1%を占めている。また、IT分野への転職・就職を希望する人については、10代を中心とした00後で全体のおよそ3割を超える状況にある(図表3)。
図表1 Z 世代の就業分布(男女別)/図表2 IT 分野への就職者の割合(世代別)/図表3 IT 分野への転職・就職希望者の割合(世代別)

3――Z世代

3――Z世代:プライベートな時間や生活をより大切にするも、仕事を通じて技能を高め、レベル向上を目指すなど仕事にも意欲的

では、Z世代は就職活動をし、働いていく上でどのような点に注目しているのであろうか。図表4はZ世代が求職に際して注目する内容を男女別に示したものである。それによると、注目点の上位は男女とも給与・福利厚生(男性:91.3%、女性:93.5%)、次いで仕事量や残業の多さ(男性:59.4%、女性:65.2%)、会社の雰囲気(男性:53.0%、女性:58.8%)となっている。企業理念(男性:22.3%、女性:25.9%)や、企業規模・人気(男性:11.0%、女性:14.4%)などの要素はそれほど注目が高くない点も興味深いと言えよう。

また、男女別で見た場合、女性は男性よりも自宅からの距離(男性:36.2%、女性:49.4%)、執務環境(男性:35.5%、女性:42.6%)といった点をより注目している。女性は通勤における負担や職場における環境についてより注目する傾向にあり、より快適に働ける点を重視していると捉えることもできよう。
図表4 Z世代が求職に際して注目する内容(男女別)/図表5 就職時に重視する内容(世代別)
一方、就職時に重視する内容を世代別にみた場合はどうであろうか。以下では、X世代(主に1960~1970年代に生まれた人。図表5では65後、75後が該当)、Y世代(ミレニアム世代とも呼ばれ、1980~1990年代に生まれた人。図表5では85後が該当)とZ世代(図表5では95後、00後が該当)に分けて見てみる。

図表5によると、Z世代が就職時に重視すると最も多く回答しているのは、収入の高さや福利厚生の充実(図表5-①)であり、およそ6割が重視すると答えている。この項目については、X、Y、Z世代と世代が若くなるにつれて重要度が高くなっている。一方、企業理念への賛同や業務目標の実現については、X、Y、Z世代と世代が若くなるにつれて重要度は低くなっている(図表5-⑤)。X世代、Y世代はZ世代と比較して、就業期間が長く、また、高度経済成長を支えたという経験などもあろうが、世代別で重要度が最も高いX世代の75後は38.9%、重要度が最も低いZ世代の00後は18.6%とその差は20ポイント以上ある。更に、仕事が忙しくなく、趣味や副業の充実を重視する傾向(図表5-⑥)は特にZ世代が高く、例えばX世代の00後はY世代の85後よりもおよそ9ポイント高くなっている。

一方、仕事の内容への興味や自身の力の発揮について注目してみると、Z世代(95後:45.0%、00後: 49.4%)は、Y世代(85後:47.0%)、X世代(65後:51.7%、75後:52.2%)とそれほど大きな差はない点がうかがえる(図表5-②)。

会社における研修の機会や技能の習得、レベル向上といった面においては、X世代の65後(25.9%)などはすでに一定度の職位や技能レベルに達していることも考えられ、それほど高くはない(図表5-③)。Z世代において95後は47.0%、00後は39.3%が重視すると回答しており、特に20代を中心とした95後はY世代(47.3%)と同様に意欲的ともいえよう。
 
昨年は若年層を中心としたライフ・スタイルの1つ「躺平」(タンピン)が話題となった。タンピンの本来の意味は、寝そべるや横たわるである。そこから派生して、競争社会から自主的に離脱し、結婚や出産などのライフイベントを回避し、家や車といった高額消費のみならず普段の生活などの消費も抑える低消費、低意欲の生き方を指している。確かに、経済的に恵まれた時期に育ったZ世代は、それより前のX、Y世代と比較して、仕事よりは自身のプライベートな時間や生活をより大切にし、快適に過ごそうとする様子は見えてくる。高度経済成長期を支えたX世代、Y世代が持つ企業理念への賛同や業務目標の達成といった成長への貢献はそれほど感じられない。しかし、そうだからと言って、タンピンに代表されるような無気力というわけでもなく、自身の力が発揮できる仕事を重視し、仕事を通じて技能を高め、レベル向上を目指すという点はそれ以前の世代とそれほど変わらない点もうかがえる。

4――Z世代:仕事をする上で直面する大きな課題

4――Z世代:仕事をする上で直面する大きな課題は、働く上での意味を見出すこと

働くことについて上掲のような考え方をもつZ世代であるが、働く上でどのような課題に直面しているのであろうか。図表6によると、Z世代は仕事の価値や意義などのやりがいが見いだせていない(図表6-①)が全体の5割を超え(95後:54.7%、00後:53.7%)、仕事の忙しさとそれに収入が見合っていないという不公平感を感じている(図表6-②)が4割を超えている(95後:45.2%、00後:42.7%)。その一方で、自身の能力不足については、それ以外と比較して、それほど感じてない点も見受けられる(図表6-⑨)。
図表6 Z 世代が働く上で直面している課題(95 後・00 後)
Z世代の中で比較してみると、20代を中心とした95後は、10代を中心とした00後と比べて、企業内の研修が少なく、自身の能力向上に悩みを抱えているが9.8ポイント高かった(図表6-⑦、95後:28.7%、00後:18.9%)。また、会社が定める規程などへの適合が難しいとする95後は00後よりも8.3ポイント高かった(図表6-⑤、95後:30.9%、00後:22.6%)。その一方で、自身の能力不足を認めるのは00後が95後よりも6.7ポイント高かった(図表6-⑨、95後:7.7%、00後:14.4%)。

このように、Z世代は、自身の能力を伸ばすことに意欲的ではあるものの、それに対応する企業内研修が少ない点に悩みを抱えている。10~20代ということもあり、能力や経験不足などによるミスマッチもあると考えられる。しかし、社会がデジタル化で大きく変革し、経済的にもこれまでと比べて大きく恵まれた中で育ったZ世代にとっては、X世代、Y世代とは‘働く’ということの意義や価値が異なるのであろう。雇用主側が評価方法や育成の仕方、働き方などについて、彼らのニーズに即したものへとフレキシブルに変えていかなければ、Z世代はそこから簡単に離脱してしまう可能性もある。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

(2022年01月06日「基礎研レター」)

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