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- 2015年就職戦線、史上最悪の就職難の懸念もベンチャー支援の広がりが(中国)
7月に入ると、中国では大学の新卒者が新社会人として働き始める。中国の大学は6月が卒業の季節なのだが、本年の卒業者数は昨年より22万人増え、過去最多の749万人となった。史上最悪の就職難、と言われ続けて3年目1。中国の新卒者たちにはどんな変化がうまれ、2015年の就職戦線にどう臨んでいたのか。
2015年の新卒者の多くは1990年以降に生まれた、いわゆる「90後」である。中国が経済の高度成長期にある中で、家族の愛情を一身に受け、インターネットが身近にある環境で育った「デジタルネイティブ」でもある。生活は、スマートフォン(スマホ)、SNSを通じたコミュニケーションが基盤となっており、自己の判断基準や「個」(自分自身)を重視する傾向が強い‘最近の若者’だ。
中国の大手就職サイトが就活ピーク時の4月に実施したアンケート調査2によると、卒業を控えた学生のうち卒業後、企業への就職を考えているのは71.2%となった。昨年が全体の76.3%であることを考えると、5ポイントほど少ない。一方、ベンチャー企業の立ち上げ等、起業を考えている学生が6.3%(前年は3.2%)と増加した。
そんな彼らに業種別の就職先として最も人気があったのが、IT企業(通信、電子を含む)だ。次いで金融機関(銀行、アセットマネジメント、証券、保険など)、政府機関(NPOを含む)となった。
IT企業については、国内のSNSの急速な普及により、創業者が若くして立ち上げたベンチャー企業が成功し、中国を代表する三大IT企業「BAT」(百度、アリババグループ、テンセント)に急成長したなど身近な事例があることが背景にあると考えられる。
国としても3月に李克強首相が「インターネット+(プラス)」戦略を打ち出し、ベンチャー企業設立の機運を高めている。「インターネット+」戦略とは、インターネット技術をこれまで以上に活用して既存の産業を活性化させ、社会や個人のライフスタイルを大きく変革、「新常態(ニューノーマル)」とされる今後の経済成長をも後押しするという国家戦略である。通販を中心とした電子商取引最大手のアリババグループが、自社のオンライン決済口座を通じて、業種の異なる金融事業と連携し、オンライン金融商品や保険商品の購入を可能としたのはその先例といえよう。中国版IT革命ともいえる変革の中で、国としても「インターネット+」戦略の一環として、ベンチャーファンドによる資金調達の促進や、北京市などの各都市や大手IT企業を中心に大学生や卒業生を対象としたベンチャー企業設立の支援措置を相次いで発表している。いずれの策も新卒者の就活ピークのタイミングで発表が増加しており、史上最悪の就職難の懸念を逆手に、学生の就職への不安を和らげ、起業という就業チャンスを広げることを目指している。
学生が就職を希望する企業ではこれまでと同様、外資系企業(24.4%)、国有企業(23.8%)が双璧をなしている(図表1)。しかし、これまで人気が高かった国有企業は習政権後の綱紀粛正などの影響もあり、希望者は減少傾向にある。加えて、安定性が高く、福利厚生が手厚い政府系企業(16.3%)や政府機関(14.1%)についても、民間企業(17.0%)の後塵を拝す結果となった。
就職難3年目を迎え、学生は、むしろ狭き門を必死で競うより、将来を見据えてより堅実な就職先を確保し、一定期間経験を積むのもよいといった現実的な考えに切り替わってきている。実際、雇用契約を結んだ企業は、民間企業が全体の41.8%と最も多くなっているのだ。
「90後」が仕事を決める要素には、業種もさることながら、給与や、働く場所も大きく関係している。希望する初任給に関しては、90後らしくかなり強気のようだ。上掲の調査によると、2015年は3001~5000元(約6~10万円)が最も多く、平均すると5510元(約11万円)となった(図表2)。
これはあくまで「希望」を聞いたものであるが、2014年の全国の一般企業の平均月給が3033元であることを考えると、初任給としてはかなりの高額だ。背景には物価高に加えて、毎年10%以上平均給与が上昇している状況等が考えられるが、当初からこのような高めの初任給を希望してしまうあたりが雇用のミスマッチを引き起こす一因であるとも考えられる。
中国では、一定程度の給与を確保する上で、どこで働くかも重要である。大都市と地方の平均給与格差が大きいからである。しかし、90後の特徴として、国の首都である北京市や経済都市である上海市などの大都市(直轄市)で働くことをそれほど希望していない点が挙げられる。彼らの多くはむしろ「各省の省都(日本の県庁所在地に相当)」やその下の「地方の中規模都市」での就職を希望している(図表3)。背景には国の経済成長や都市化の進展、また、それにともなって、就職の機会が大都市より現在発展過程にある地方に多くあると考えているようだ。インターネットやスマホの普及により、大都市でなくても希望する一定レベルの生活や就業環境を確保できる点もあろう。むしろ、物価も家賃も高く、交通渋滞や大気汚染等の問題を抱える大都市は、よほどの理由がない限り、彼らにとって暮らしにくいのかもしれない。どこで働くかを決める要因として、「個人の業務発展や向上の機会」(50.3%)を最も重視するとはしているが、その場所が直轄市などの大都市とは限らないらしい(図表4)。前掲のアリババグループの本部は浙江省杭州市、テンセントは広東省深セン市である。いずれも地場の産業育成を重視する地方都市から誕生して成功した企業だ。
就職に向けては履歴書や成績表等の書類選考を経て、面接、採用となるが、採用獲得の難易度を示す指標として、採用を1件獲得するのに必要な履歴書・成績表の平均書類件数で表す方法がある。2015年は採用1件を獲得するのに平均して12.5件の書類が必要であった。2014年の10.3件、2013年の9.9件と比較して、平均書類件数が増加しているので、就職の難易度は高かったと見ているようだ。
学生にとっては史上最悪の就職難ではあったが、採用を獲得した学生が答えた採用成功の理由は「インターンシップ研修など業務と関係する実習経験」(30.6%)、「就職するための目標を明確に設定」(25.0%)、「面接での自己PRなどのテクニック」(15.2%)など、自身の経験、適性や性格をしっかりアピールしたことである(図表5)。中国はかつて国や大学が就職先を決定していた時代もあったが、その際重視された「卒業校の知名度」(7.7%)や「大学での成績」(5.8%)、「関係者の推薦・コネクション」(4.6%)といった要素の影響は相対的に小さくなってきている。
2015年の就職戦線は一先ず落ち着いてきているようである。とはいえ、今後、短期間で大量の転職者や退職者も出かねない。政府としてはベンチャー企業の設立を支援することで、まず、若年層の雇用を吸収し、可能であればその中から、今後産業を牽引するような可能性のある新たな事業の選抜、育成にも力を入れていく予定だ。
(2015年07月13日「研究員の眼」)
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- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
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