2021年12月20日

EIOPAによる資本アドオンの使用に関する2020年報告書の公表

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2021年11月22日に「2020年中の資本アドオンの使用に関する報告書」を公表1した。この報告書はEIOPAが毎年この時期に公表しているものである。

今回のレポートでは、この報告書の概要を公表する。

2―資本アドオン

2―資本アドオン

1|資本アドオンとは
資本アドオン(Capital Add-ons)とは、文字通り、資本追加措置のことであり、規制上の資本要件だけでは単独会社又は保険グループのリスク・プロファイルを反映することが十分にできない場合で、例外的な状況において、監督当局の判断によって、追加の資本要件を課すことができる制度である。

2|資本アドオンの目的
資本アドオンの目的は、規制上の資本要件が単独会社又は保険グループのリスク・プロファイルを反映することを確保することである。

したがって、必要に応じて各国監督当局(national competent authorities:NCAs)によって使用されることが重要であり、その適用において高度な監督上のコンバージェンスを確保することが重要となる。それにより、資本アドオンの設定に関して、公平な競争の場を設定することができることになる。

3|資本アドオンのプロセス
資本アドオンの設定は、ソルベンシーII指令の第37条(単独会社の場合)及び第232条(グループの場合)並びにソルベンシーII委任規則の第X章の関連条項に記載されているプロセスに従う。

監督上の審査プロセスの後、NCAsは、例外的な状況(他の措置が失敗した場合、成功する見込みがない場合、又は実行不可能な場合)において、理由を述べた決定により、単独会社の資本アドオンを設定することができる。

「例外的」という用語は、特定の市場において課される資本アドオンの数というよりは、各会社の特定の状況との関連において理解されるべきもの、とされている。

4|資本アドオンの可能性
資本アドオンの可能性があるのは、以下の場合となる。

(a)監督当局は、保険又は再保険会社のリスク・プロファイルが、標準式(ソルベンシーII指令第37条 (1)a)を用いて計算したソルベンシー資本要件(SCR)の基礎となる仮定から著しく逸脱していると結論付けている。

(b)監督当局は、保険又は再保険会社のリスク・プロファイルが、内部モデルを用いて計算されたSCRの基礎となる仮定から著しく逸脱していると結論付けている(第37条 (1) b)。

(c)監督当局は、保険又は再保険会社のガバナンス態勢がソルベンシーII指令第37条(1)cに定められた基準から大幅に逸脱しており、それらの逸脱が、それがさらされている又はさらされる可能性のあるリスクを適切に識別、測定、監視、管理及び報告することができず、他の措置の適用自体が適切な時間枠内で欠陥を十分に改善する可能性が低い、と結論付けている。

(d)監督当局は、当該会社のリスク・プロファイルが、ボラティリティ調整、マッチング調整又は移行措置の基礎となる仮定から著しく逸脱していると判断している(第37条 (1) d)。

なお、ソルベンシーII指令は、資本アドオンの額は、重大なリスク特性の逸脱が生じた場合に、第101条 (3) の遵守を確保するために、特定又は計算された欠陥から生じる重大なリスクに対応していなければならず、また、当該資本アドオンは、監督当局により、少なくとも年1回検討され、会社がその賦課の原因となった欠陥を是正した場合には、削除されなければならない、ことを要求している。

3―資本アドオンの利用に関する報告書

3―資本アドオンの利用に関する報告書

1|本報告書の位置付け
資本アドオンの使用に関する報告書は、ソルベンシーII指令第52条 (3) 項に従い、EIOPAが公表する年次報告書であり、異なる加盟国の監督当局間における資本アドオンの使用に関する監督上のコンバージェンスの程度を欧州議会、理事会及び欧州委員会に報告するためのものである。

2|本報告書の分析
本報告書の分析は、2020年に欧州経済領域(EEA)30カ国の単独会社又は保険グループに対して設定された資本アドオンを対象としている。

本報告書の分析は、EEA 30カ国の2,447の単独会社と326の保険グループから提出された2020年末の定量的報告テンプレート(QRT)に基づいている。加えて、EIOPAはNCAsに対する調査を開始し、資本アドオンの使用に関する定性的及び定量的な質問を行っている。また、定量的な部分については、個別会社又はグループごとに設定された資本アドオンの数及び資本アドオンを設定した理由(QRTには記載されていない)に関する情報を求めている。

3|資本アドオンに関する開示
ソルベンシーII指令第31条及び委任規則の附属XXIに関連しての第316条によれば、資本アドオンを設定するNCAsは、特に以下を開示しなければならない。

・指令2009/138/ECに基づいて監督される全ての保険及び再保険会社に関する、資本アドオンの数、SCRのパーセンテージとして測定された、会社当たりの平均資本アドオン及び資本アドオンの分布

・資本アドオンの適用に使用する基準、及びその計算及び削除の基準

ソルベンシーII令第51条 (2) によれば、加盟国は、ソルベンシー財務状況報告書(SFCR)の中での毎年設定される資本アドオンの各保険会社及び再保険会社による開示を、一時的に制限するオプションを行使することができる。

2020年12月以降、会社及び保険グループは、パブリックベースで毎年、資本アドオンに関する情報提供が義務付けられた。これは、2020年12月末以降の会計年度末を対象とするSFCRs、すなわち、市場の大半として、2021年末を対象とし、2022年に公表されるSFCRsが、最初に資本アドオンに関する情報を有することが予定されることを意味している。

2020年12月のSFCRsを確認すると、次のようになっている。

a) 9つのSFCRsのうち7つは、資本アドオンが開示されている。
b)資本アドオンを有する1つの会社は、SFCRに資本アドオンを開示していない。
c)資本アドオンを有する1つの会社は、清算中のため、SFCRを開示していない。

EIOPAは2020年におけるこの開示に留意し、特定されたいかなる問題についても、それぞれのNCAsにフォローアップを行うとしている。

4|本報告書の結果概要
過去数年間に資本アドオンを設定した2つのNCAsは、2020年には資本アドオンを設定しなくなった。こうした状況を受けて、2020年末に設定された資本アドオンは2019年よりもさらに減少した。2020年には、7つのNCAsが、生命保険会社3社、損害保険会社6社の合計9社の単独会社に対して、資本アドオンを設定した。

2019年には、9つのNCAsが、生命保険会社2社、損害保険会社7社、生損保兼営会社1社を含む合計10社の単独会社に対して、資本アドオンを設定した。グループについては、2019年と同様に、2020年中に資本アドオンは設定されていない。

単独会社の場合の適用ケース別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

9社のうち7社がソルベンシーII指令第37条 (1)aに基づくものとなっており、残りの2社は第37条 (1)cに基づくものとなっている。
単独会社の場合の適用ケース別内訳
また、単独会社の場合の国別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

イタリアとノルウェーが2社である以外は、各国1社となっている。

ノルウェーの2社のうちの1社は、ノルウェー船主の相互戦争リスク保険協会(Norwegian Shipowners’ Mutual War Risks Insurance Association)で、そのSCR 386百万ドルのうち、270百万ドルが資本アドオンとなっている。これは、標準式や内部モデルでは確率的にモデル化することができない、戦争、海賊行為、テロに関連するリスクに対応したものとなっている。
単独会社の場合の国別内訳
(参考)
2019年までの報告書には、英国が含められており、英国はこの制度を最も利用していた。例えば、2019年の報告書によれば、9の単独会社、3つのグループが資本アドオンの対象になっていた。

資本アドオンについては、ソルベンシーIIの導入以来、監督当局におけるリソースの不足、アドオンの適用にかかる長いプロセス、アドオンの計算の難しさ等から、その適用が非常に限定されてきた状況にある。

5|今回の資本アドオンの全体評価
2020年は、資本アドオンの数が少ないため、標準式を用いている会社に課される資本アドオンのウェイトは全体として非常に低いままであった。すなわち、資本アドオンの相対的な規模は、SCR全体の0.1%未満であった。

しかし、個社レベルでの金額でみると、依然として重要な制度であると言える。標準式を用いて資本アドオンを有する会社を考察すると、資本アドオンのウェイトは、全体では2020年のそれらの会社のSCR全体の25%(2019年は38%)を占めているが、その会社毎の分布には1%から86%と幅があった。1つのケースを除く全てのケースで、資本アドオンによりSCRが少なくとも10%増加した。

プロセスに関しては、2019年よりも1つ多い合計8つのNCAsが、アプローチにおけるより大きなコンバージェンスをもたらすためにプロセスを正式化した。ただし、これらのNCAsのうち、資本アドオンを設定しているのは3つのみであった。

資本アドオンの設定については、公平な競争条件を維持することが重要となる。EIOPAは、今回の調査結果を受けて、また既に低い水準にある資本アドオンの数が減少していることを踏まえて、今後も引き続き資本アドオンの使用状況を監視し、将来におけるこのツールのより効率的な利用方法に関して、NCAsによって行われた提案に、特に注意を払っていく、としている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが2021年11月22日に公表した「2020年中の資本アドオンの使用に関する報告書」の概要について報告した。

EIOPAはこうした報告書の作成を通じて、加盟国間の監督上のコンバージェンスを目指してきている。こうした内容は、日本における保険監督等を考える上でも参考になる事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年12月20日「保険・年金フォーカス」)

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