2021年09月17日

活用が広がるESG指数を学ぼう

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――運用への導入が広がるESG指数

ESG投資が拡大する中で、ESGを考慮した株式市場などの指数(ESG指数)の重要性が増している。ESGを考慮しつつ、幅広い対象に投資する運用やそうした運用のパフォーマンスを測定するための指標が求められているためだ。

機関投資家を中心にESGを運用に取り入れる投資家が増加している。2017年3月には、国内の代表的な機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund:GPIF)が、ESG指数を用いたパッシブ運用の導入を発表した1。GPIFはその後も各資産で、ESG指数に基づく運用の導入を進めている。現在では、様々なESG指数の開発・提供が行われており、国内外の投資家で運用への導入が進んでいる。本稿では、ESG指数の概要や機関投資家の運用でのESG指数の活用について説明したい。
 
1 GPIF(2017)

2――代表的なESG指数

2――代表的なESG指数

実際にESGを考慮した指数には、どのようなものがあるのだろうか。ESG指数にはESGを総合的に考慮する指数や環境、社会、ガバナンス、個別のテーマに焦点をあてた指数など様々な指数が各社から提供されている。代表的なESG指数としては図表1に示すものが挙げられる。

株価指数の算出を行う代表的な企業であるMSCIはMSCI ESGセレクト・リーダーズ指数やMSCI日本株女性活躍指数、MSCI日本株人材設備投資指数といった指数を提供している。MSCI ESGセレクト・リーダーズ指数では、世界、日本や米国など各国の株式を対象としてESGを考慮した指数のシリーズを提供している2。MSCI ACWIからESG評価に基づいて構成銘柄を抽出したMSCI ACWI ESG ユニバーサル指数、MSCI日本指数から同様に構成銘柄を抽出したMSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数などの指数である。個別のテーマに焦点をあてた指数としては、S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数やMSCI日本株女性活躍指数、野村企業価値分配指数などがある。

これらの指数は、ウェブサイト上で指数構築のルール(メソドロジー)を開示しており、一般の投資家も内容を確認することができる。算出は簡単に言うと、おおもとの投資対象候補全体を示す指数(親指数)の構成銘柄の中からESG評価に基づいて銘柄を選別あるいは組入比率を調整(ティルト)して構築している。この際、一般的に業種などに偏りが出ないように銘柄を選定することで、ESG評価の高い企業を選ぶことで発生しがちな構成銘柄の偏りを抑制している。こうした調整を行うことで、株式市場全体に連動しつつESG評価の高い企業に投資する効果を評価できる指数を算出している。

また、ESG指数は株式だけでなくREITを対象としたダウ・ジョーンズ・グローバル・セレクト・グリーン不動産証券指数や日経ESG-REIT指数、債券を対象としたブルームバーグMSCI ESG債券指数といった指数も提供されており、様々なテーマや資産クラスでESG指数が提供されている。
図表1 代表的なESG指数
 
2 MSCI

3――機関投資家の運用でのESG指数の活用

3――機関投資家の運用でのESG指数の活用

ここまでで説明したESG指数を機関投資家はどのように運用に取り入れているのだろうか。上述のように、GPIFではESG指数を選定しそれに基づくインデックス運用を導入している。

GPIFはユニバーサルオーナー(広範なポートフォリオを持つ大規模な投資家)である自身がESG指数を活用した投資を行うことが、日本企業がESG要素を改善し評価を高めるインセンティブとなり、長期的な企業価値の向上や投資収益の改善につながることが期待されるとしている。

こうした方針の下、GPIFは国内外の株式の運用でESGを総合的に考慮した指数、女性活躍や脱炭素に注目した指数といった7つのESG指数を運用に導入している(図表2)3。GPIFは指数選定にあたって(1)ESGの要素を重視し、ポジティブスクリーニングにより指数構築を行っていること、(2)企業にESG情報の開示を促し、その情報に基づいて適切な評価を行えるようにESG評価手法の改善を行っていること、(3)ESG評価及び指数算出を行う会社のガバナンス・利益相反管理の点で評価を行った。

こうしたプロセスにより特定のテーマに偏らないよう、ESG要素を総合的に評価する指数や女性活躍に注目した指数など複数の指数を選定し、幅広いテーマについて働きかけを行うとしている。また、選定した指数について、リスク・リターンなどのモニタリングを実施する予定だ。

これらのESG指数はGPIFが中長期的な資産配分(政策アセットミックス)の基準として用いている指数(政策ベンチマーク)とは異なる指数である。このため、ESG指数に基づく運用はGPIFにとってスマートベータ運用4の一種と位置づけられる。政策ベンチマークとESG指数の優劣は中長期的に判断すべきであり、ESG指数は中長期で見れば、上述のような企業価値の向上により単純な市場インデックスを上回ることが期待される。

インデックス運用は幅広い銘柄に投資を行うため、大きな資金の投資先となり得る。GPIFのESG指数による運用でも、対象となる金額は2021年3月時点で約10.6兆円まで拡大している。こうした機関投資家によるESG指数による運用は株式市場に対する影響も大きく、企業のESG取り組みを促進するきっかけにもなり得る。

また、GPIFをはじめとした公的年金は資産運用全体でESG要素を意識して投資を行うこととしており、その中でESG指数に基づく運用は、グリーンボンド等SDGs債券への投資と並んで、目に見えるESG投資として象徴的な位置づけにある。こうしたことからGPIFの今後の取り組みが注目される。
図表2 GPIFが採用しているESG指数の主な特徴
 
3 GPIF(2021)
4 スマートベータとは、従来の個別銘柄の時価総額の基づいて構成された指数とは異なり、財務指標(売上高、営業キャッシュフローなど)や株価の変動率など個別銘柄の特定の要素に基づいて構成された指数を指す。スマートベータ運用では、市場全体の上昇による利益だけでなく、その他の要素による利益の獲得が期待できる。

4――おわりに

4――おわりに

本稿では、ESG指数について概略を説明した。ESG投資が拡大する中、ESGを考慮したインデックス運用やそのパフォーマンスの指標が必要となっている。

内外の機関投資家はESG指数を活用した運用の導入を進めており、ESG指数の重要性が高まっている。GPIFはESG指数を運用に導入しており、対象となる資産の拡大が続いている。今後もESG指数に基づく運用資産は増加していくことが考えられる。

しかしながら、ESG指数には課題もある。企業のESGに関する情報の開示を進めることやESG評価手法の改善が求められている。ESG投資の効果を適切に評価するためには指数の整備や評価手法の改善は重要である。こうした課題を解決し、ESG指数の投資への活用が進むことを期待したい。

【参考文献】

年金積立金管理運用独立行政法人(2017), 『ESG指数を選定しました』,2017年7月
https://www.gpif.go.jp/investment/esg/pdf/esg_selection.pdf
 
MSCI,“MSCI ESG Leaders Indexes”
https://www.msci.com/msci-esg-leaders-indexes
 
年金積立金管理運用独立行政法人(2021), 『2020年度ESG活動報告』,2021年8月
https://www.gpif.go.jp/investment/GPIF_ESGReport_FY2020_J.pdf
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2021年09月17日「基礎研レター」)

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