2021年08月02日

カナダの生命保険会社に対する資本規制を巡る動向-OSFI(金融機関監督庁)の対応-

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4―OSFI Life Risk Management Seminar

OSFIは、2021年6月9日に、OSFI Life Risk Management Seminar(生命保険リスク管理セミナー)を開催している。その中でOSFIの保険監督部門のシニアディレクターのStewart McIlwraith氏が、COVID-19による影響に加えて、(1)IFRS第17号の実装、(2)IFRS第17号に対するLICATの変更、(3)気候関連の健全性リスク、(4)進化するテクノロジー関連のリスク、といったテーマについて発言している2

このうちの、(1)と(2)の内容については、以下の通りとなっている。
 

IFRS 第17
OSFIと業界の両方にとってより重要な取り組みの1つは、国際財務報告基準IFRS第17号(保険契約)への移行である。私たちは、業界及び主要な利害関係者と協力して、堅牢なIFRS第17号の実装をサポートすることに引き続き取り組んでいる。

本日ここにスペシャリストがおり、より詳細なアップデートを提供している。IFRS第17号の実施進捗報告と、LICATの資本に関する議論は、パンデミックの開始時に政策立案が中断された後、再開した最初のイニシアチブだった。昨年8月にタイムラインを更新し、 その9月に詳細を 示した。私たちの計画は順調に進んでおり、教育機関が独自のシステムを採用するために適応し準備するための時間を確保する必要性を考慮に入れている。

IFRS第17号の会計基準及び関連する保険数理計算の実施は、特に生命保険会社にとって大きな仕事であると認識している。新しい基準は、業界が対処するための新しい複雑さを生み出す。簡単な練習ではない。OSFIは、IFRS第17号の採用に向けた金融機関の進捗状況を引き続き監視し、業界に今年後半にプロフォーマ財務諸表を提出させる予定である。

LICAT
カナダの保険会社の会計上の変更について、資本の考慮なしに話すことは不可能である。私たちの計画には、可能な場合はセクター全体で資本への影響を制限することにコミットしながら、新しい基準を反映するために資本ガイドラインに必要な調整を加えることが長い間含まれている。私たちが使用している用語は「資本の中立性」である。

今朝遅くに、自己資本比率テストガイドライン草案を発行する計画についてより詳細に話し合うためのさらなるセッションがある。これは、適切なバランスを見つけることに関する議論の継続を示している。私たちは、期待を確定する前に、夏の間、ドラフトへのさらなる関与を計画している。

最終的な較正、段階的導入又は移行調整が必要かどうかをより適切に通知するために、業界に焦点を当てた定量的影響調査(QIS)も開始する。このQISで高品質の入力が提供されることを楽しみにしている。信頼できる情報を持つことは、資本テストとの適切なバランスを見つける上で、OSFIと 業界の両方にとって重要である。これは、意味のある管理しやすい業界指標を持つという私たちの目標を達成するのに役立つ。

資本について言えば、国際的に活動しているカナダの保険会社にとってのその他の問題の1つは、グローバルな保険資本基準(ICS)を開発するための進行中の作業である。私たちは、保険会社のための強固な国際資本基準を持つことを支持している。ただし、現在の形では、カナダ市場に適しているとは考えておらず、長期的な事業を行う保険会社に不利益をもたらす可能性がある。

カナダで機能する解決策を見つけるためにIAISや他の人々と協力し続けているので、カナダにより適している可能性のある代替案も調査している。例えば、米国が提唱している集計方法は、私たちにとって可能な選択肢である。

OSFIは、国際的な保険基準設定組織で積極的に活動しており、これは、カナダで何が機能するかに焦点を当てつつ、国際的な期待とベストプラクティスの構築を支援するために、IAISやその他の組織と従事している議論の一つである。

このように、Stewart McIlwraith氏は、OSFIがグローバルな保険資本基準(ICS)に基づいて保険会社の資本を計算するために、「米国が提唱している集計方法(Aggregation Method:AM)が可能な選択肢である」と述べている。

OSFIは、2019年にICSの計画が合意されて以来、ICSは市場に適さず、生命保険会社に不利益をもたらす可能性がある、と主張してきている。Stewart McIlwraith氏は、OSFIはIAIS(保険監督者国際機構)とのICSに引き続き取り組んでいるが、同時に、カナダにおいてより適切な代替案を探している、と述べた。  

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、カナダの保険監督当局であるOSFIによるカナダにおける最近の資本規制見直しを巡る動きについて報告してきた。

カナダは、これまでも独自の先進的な資本規制や会計基準を採用してきた国であり、その動向は常に注目されてきた。昨今の国際的な保険資本規制であるICS策定の動きや国際的な保険会計基準であるIFRS第17号の策定を受けて、OSFIやカナダの生命保険業界がどのような対応を行っていくのかについては、多くの業界関係者が関心を有しており、大変興味深いものがあると考えられる。

今後も、カナダの資本規制や会計基準の見直しを巡る動きについては、注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年08月02日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

【カナダの生命保険会社に対する資本規制を巡る動向-OSFI(金融機関監督庁)の対応-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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