2021年07月20日

2020年度 生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2020年度の全生命保険会社の業績を概観する。

生命保険協会加盟会社は、現在42社であり、全ての会社の2020年度決算が6月中に発表された。まずは会社数の動きについて、確認しておく。42社というものの、昨年まであったソニーライフ・ウィズ生命は2021年4月1日からソニー生命と合併し、社名は42社内に含まれていないが、2020年度業績は発表されており、このレポートでも各種金額を含めている。一方で新たに、なないろ生命が4月1日から加わっているが、営業は10月1日からの予定となっており、まだ業績はない。

その他の会社も含めた全貌は、図表1の(注1)に示した通りとなっている。
 
全社合計では、年換算保険料ベースで新契約は▲17.8%減少、保有契約は▲1.3%減少となった。

これらを便宜上、伝統的生保(16社)、外資系生保(13社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(8社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した(図表-1)。

「伝統的生保」の新契約年換算保険料は、▲18.2%減少(前年度▲30.0%減少)となった。全般的には、新型コロナの影響による販売活動自粛、海外金利低下による外貨建保険の販売量の減少により、販売業績は苦しい状況となった。保有契約年換算保険料は▲0.3%と減少した(前年度▲0.9%減少)。なお、保険金額ベースでの新契約高、保有契約高は、第三分野商品の増加を反映していないため、過去数年と同様減少傾向である。以下同様に年換算保険料ベースでの増減を示す。

「外資系生保」は、新契約が▲65.9%減少(前年度▲39.7%減少)し、保有契約は1.0%増加(前年度 ▲1.2%減少)した。

「損保系生保」は、新契約が▲2.7%減少(前年度 ▲33.4%減少)で、保有契約は+0.9%増加(前年度 +0.5%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が▲10.0%減少(前年度 ▲9.1%減少)、保有契約は3.3%増加(前年度 4.0%増加)となった。
 
基礎利益は、全体では5.5%増加(前年度▲2.7%と減少)した。基礎利益が増加したのは42社中24社である。
【図表-1】 主要業績(2020年度)
【図表-2】新契約年換算保険料(2020年度)
次に、新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表-2である。41社(かんぽ生命を除く)合計で、個人保険は対前年▲6.9%減少した(前年度▲34.5%減少)。また個人年金は、▲33.5%減少(前年度▲21.7%減少)となった。各社が注力している分野にもよるが、外貨建保険の販売減少により、販売業績は全体として減少傾向となった。外貨建保険については、2019年度に引き続き2020年度半ばまで、海外金利の低下により国内外の金利差が縮小し、貯蓄面でのメリットが小さくなったことが響いている。2020年度後半からは米国金利などが上昇してきているが、2020年度決算では、まだその状況が充分に反映されていないようである。
 

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。

なお、大手グループにおいては、複数の保険会社があって、保険販売面で医療保険・金融機関窓販などに役割の分担がなされている面があるので、収支の方もグループ連結でみるべきと考えられるが、今のところ収支面においては、グループ内の保険子会社の占める割合が小さいことや、もとからある9社単体の開示情報が比較的多いこと、から従来通り9社でみることにしている。
1基礎利益は微増
まず、2020年度までの資産運用環境は、図表-3の通りである。
【図表-3】運用環境
国内の株価については、前年度末近くの大きな下落により、日経平均株価18,917円で始まったが、その後の経済活動の再開や政府の経済対策などにより上昇した。一時は3万円をも超えたが、2020年度末には結局29,179円となり、2019年度末に比べて大きく上昇した。

国内金利は、引き続きゼロに近いところで推移しているものの、2020年度末には0.090%と、前年度末からは上昇した。

為替については、対米ドルでは、円高方向に推移していたが、年度末近くになって米国金利上昇などにより円安となり、年度末には110.71円/ドルとなった。対ユーロでは欧州の景気回復期待もあって、年度末には129.80円/ユーロと円安の方向に進んだ。他の通貨では、従来から外貨建保険で比較的よく使われる豪ドルについて、大きく円安となった。
【図表-4】有価証券含み益(大手中堅9社計)
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、図表-4に示す通りとなった。国内債券の含み益が▲2.6兆円減少、国内株式の含み益が6.0兆円増加、外国証券含み益は債券で減少、株式で増加し合計では1.0兆円増加した。その結果、有価証券合計では4.7兆円増加した。
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計)
【図表-6】3利源の状況(開示7社計)
そうした中、2020年度の基礎利益は23,623億円、対前年度0.4%の微増となった(図表-5) 。

2013年度に9社合計で逆ざやから利差益に転じた後は拡大傾向にあり、ほぼゼロ金利の状況にあっても、外債利息や投資信託分配金等の増加により、2020年度も逆ざや解消後最高水準を更新し8,041億円、4.3%の増加となった。危険差益・費差益等の保険関係収支は15,582億円、▲1.5%の減少となった。

3利源とも一定程度公表している7社のみの合計金額を見た(一部推定)ものが図表-6である。これで保険関係収支のうち危険差益と費差益の内訳がわかるのだが、危険差益は、4.3%増加(前年度は▲7.9%減少)となった。保有契約の減少傾向や、2017年の死亡表の改定(保険料の値下げ)の影響は、危険差益の減少として現れるものと考えられる一方、第三分野商品(医療保険)保有の増加は、選択効果もあり、まだ給付金等支払も大きくないことから、危険差の拡大方向に寄与していると思われる。

費差益については、ほぼ枯渇した状態にあると考えられる。費差益は、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。付加保険料については、過去予定利率の引下げ(保険料の値上げ)とセットで引き下げられた会社が多く、その影響で費差益が減少傾向にはあると考えられる。もっとも、2020年度は、多くの会社で新契約が減少し、販売手数料の負担が比較的小さかったことは、費差益にとって一時的には有利な状況ではあったのだが。
2利差益は、逆ざや解消以降の最高水準を、引き続き更新
利差益について、さらに詳しく見てみる(図表-7 、8)。

「基礎利回り」とは、基礎利益のうち資産運用損益にかかわる部分であり、主に利息配当金収入から成る。これが契約者に保証している利率(予定利率)を上回ると利差益、下回ると逆ざやと呼ぶ。 

2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2020年度は8,041億円と2017年度から4年連続で最高水準を更新した(一部の会社はまだ逆ざやであるが、そのマイナス額は、横ばいまたは減少傾向にある。)。
【図表-7】利差益の状況(大手中堅9社計)
【図表-8】利差益(逆ざや)状況の推移(9社計)
多くの会社で利息配当金収入が減少したため、「基礎利回り」は低下した。運用資産の中核である国内債券に関しては、ゼロ近くの金利が続いているので、たとえ年限の長い(=一般には利回りの高い)ものを多く保有したとしても、利回りは低下傾向にあると思われる。このままの金利が続けば、利息収入に引き続き悪影響をもたらすことになるだろう。今回はそれに加えて、昨年来より新型コロナ感染拡大など経済環境の悪化や不安要因もあって、株式配当金もさほど増加していないと考えられる(現時点では2020年度のそうした内訳は未開示だが)。こうした中、外貨建債券の利息や投資信託の配当金の増加が、債券の利回り低下を補っているのが現状と考えられる。

一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。

基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の増加に依存してきたのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて楽観はできない。実際、2021年度以降は、「利回り、予定利率とも低下して利差益は減少ないし横ばい、危険差・費差は減少傾向で、全体として基礎利益は減少傾向」と自ら予測している会社が多い。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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