2021年04月20日

欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2020年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

このテーマに関する前々回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告し、前回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移について報告した。今回のレポートでは、資本管理に関係する取引等のトピックについてについて報告する。
 

2―各社の2020年における資本取引等

2―各社の2020年における資本取引等

各社の2020年における主な資本管理に関係する取引等とその概要について、各社のプレスリリース資料等に基づいて報告する。なお、2021年に入ってからの取引等についても、このレポート作成時点までの情報に基づいて、できる限り反映することとしている。

1|AXA
AXAの2020年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2020年2月7日、ポーランド、チェコ、スロバキアにおける事業をUNIQA Insurance Group AGに売却する契約を締結した。合意内容によると、AXAは中・東欧の生命保険、損害保険、年金事業の100%を売却し、正味キャッシュ10億200万ユーロを支払うことになっていた。2020年10月15日に、10億ユーロの現金対価での売却が完了し、これにより、SCR比率に+2%ポイントの影響がもたらされたと発表された。

2020年4月16日に、13億ユーロの劣後債務を償還した。

2020年8月21日に、AXAとBhartiは、インドでの損害保険事業であるBharti AXA General Insurance Company Limited(「Bharti AXA GI」)をICICI Lombard General Insurance Company Limited(「ICICI Lombard」)に統合する契約を締結したと発表した。この取引により、統合された事業体は、インドの損害保険会社の中で3位になり、市場シェアは約8.7%になる。AXAとBhartiのBharti AXA GIの所有権はそれぞれ49%と51%である。

2020年10月30日には、Architas UK投資事業のLiontrust Asset Management Plcへの1億ユーロでの売却を完了した。

2020年11月30日に、Gulf Insurance Group(「GIG」)と、AXA Gulf、AXA Cooperative Insurance Company、及びAXA Green Crescent Insurance Companyの株式保有*を含む湾岸地域での保険事業を売却する契約を締結したことを発表した。なお. 取引の一環として、湾岸地域で最大のコングロマリットの1つであるYusuf Bin Ahmed Kanoo(「YBA Kanoo」)も、AXA Gulf及びAXA Cooperative Insurance Companyの株式を売却する。契約条件に基づき、AXAは湾岸地域での事業の所有権を合計269百万米ドル(225百万ユーロ)の現金対価で売却する。この取引は、規制当局の承認の受領を含む通常の完了条件に従い、2021年第3四半期までに完了する予定である。

2020年12月15日には、3億ポンドの劣後債務を償還した。

2020年12月31日に、Generaliとギリシャでの保険事業を売却する契約を締結したと発表した。契約条件に基づき、AXAはギリシャの生命保険事業と損害保険事業を合計1億6,500万ユーロの現金対価で売却する。これは、2019年度のP/E倍数の12.2倍を意味している。取引の完了は、規制当局の承認の受領を含む通常の完了条件に従い、2021年第2四半期末までに完了する予定である。

なお、AXAは2021年に入ってからも、2021年3月31日には、2041年に満期を迎える10億ユーロの劣後グリーンボンドの発行に成功したことを発表している。
2|Allianz
Allianzの2020年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2020年1月2日に、Allianz Holdings plcが、Liverpool Victoria Friendly Society (LVFS)からのLV General Insurance Group(LV GIG)の残りの51%の計画的買収を完了した。さらに、Legal & General(L&G GI)の損害保険部門の100%を2億4,200万ポンドで買収した。これらの取引の完了により、Allianz Holdings plcは、2018年の数値に基づいて、総保険料収入は40億ポンドを超え、市場シェアは9%となって、英国で第2位の損害保険会社に位置付けられることになる。

2020年1月31日をもって、グループの60%所有子会社であるマドリードのAllianz Popular S.L.を売却した。当該企業は2019年6月30日以降、売却目的で保有されていると分類されて、2020年1月31日の連結解除まで減損損失は認識していなかった。売却の完了に伴い、連結損益計算書の実現損益(純額)に含まれる4億8300万ユーロの利益を認識した。

2020年2月4日に、Allianz SEは、イオンフィナンシャルサービス(AFS)と生命保険合弁会社(JV)を設立し、日本の現地顧客向けの生命保険ソリューションを開発及び販売する契約を締結した。

2020年2月20日に、最大15億ユーロ規模の自社株買いを発表し、2020年3月9日から実施した。2020年上半期に、最初のトランシェとして490万株の自己株式を7億5000万ユーロで購入した。ただし、COVID-19の影響による不確実性を受けて、7億5000万ユーロの第2のトランシェは2020年4月に停止された。

2020年4月27日に、スペインのBanco Bilbao Vizcaya Argentaria(BBVA)とバンカシュアランスの合弁会社を設立すると発表した。

2020年7月10日に、Allianz Seguros S.A.Brazilは、SulAmericaから自動車及びその他の不動産-災害事業の100%を取得した。この買収により、ブラジルにおけるAllianzの競争力が強化され、自動車保険で約15%、損害保険で9%の市場シェアを持つトップ3の保険会社の一つとなり、自動車保険でナンバー2の地位を確立した。

2020年8月18日には、Allianz Benelux(ベルギー)とMonument Reは、クラシックな生命保険のクローズドブックと4,500件の住宅ローンをMonument Assurance Belgium(MAB)に譲渡し、規制当局の承認後18ヶ月以内に関連業務を譲渡することに合意した。この取引には、ソルベンシーIIに基づく14億ユーロの技術的準備金を伴う95,000の保険契約のポートフォリオが含まれている。なお、この取引は、2021年4月1日に完了したことが発表された。

2020年9月29日には、Jubilee Insurance(Jubilee Holdings Limited:JHL)と戦略的パートナーシップを築くことを発表した。これは、東アフリカの5カ国の損害保険をカバーしており、東アフリカ全体の保険市場を拡張し拡大することを目的としている。取引は規制当局の承認が必要となる。提案されたパートナーシップ構造では、Allianzはこれらの各事業の支配持分を取得し、総額108億ケニアシリング(8,400万ユーロ、1億ドル)を検討するが、JHLは重要な少数株主持分を保持する。

2020年12月2日には、オーストラリアのWestpacの損害保険事業を買収することに同意した。これは、7億2500万豪ドル相当の取引で、2021年半ばに完了する予定である。これにより、Allianzはオーストラリアの消費者保険市場でのシェアを拡大する。

2020年11月6日には、COVID-19の不確実性のために4月に中断していた15億ユーロの自社株買いプログラムについて、残りの7.5億ユーロの買戻しを永久に中止することを発表した。

2020年11月17日には、2020年10月8日にドイツ連邦財務省が制限付きTier1(RT1)商品の税務上の取扱いを決定した後、Allianz SEが、米ドル(12.5億ドル)とユーロ建て(12.5億ユーロ)のデュアルトランシェRT1債の発行を完了している。

なお、Allianzは2021年に入ってからも、以下のような動きを見せている。

2021年1月28日には、Allianz China Insurance Holdingが中国で最初の完全に外資系の保険資産運用会社を設立するための承認を受けた。2021年2月5日には、Allianz China LifeがAllianz China Insurance Holdingの完全子会社となることが発表された。
2021年3月4日には、Avivaグループのイタリアの損害保険会社であるAviva Italia S.p.A.を買収することが発表された。

2021年3月26日には、Avivaグループから、ポーランドにおける生命保険及び損害保険事業、年金及び資産管理事業を買収し、SantanderとのAvivaの生命保険及び損害保険の合弁事業の51%の株式を取得することに合意したと発表した。これは、25億ユーロに相当する取引である。これによりAllianzは、ポーランドでは、総保険料に基づいて、全体で5番目に大きい保険会社になり、生命保険セグメントで2位に上昇することが見込まれている。また、営業利益の面で中東欧において第2位になることが想定され、中東欧での主導的地位が強化されたと述べている。
3|Generali
Generaliは、2015年から、国際的な事業展開の最適化を図ることに取り組んでいるが、2020年に入ってからの主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

Generaliは、2019年年初に、7.5億ユーロの劣後債の償還を発表したが、5億ユーロの劣後債のみを再発行することで、外部の金融債務を2.5億ユーロ削減している。また、2022年の満期ピークを滑らかにするために、2019年9月に最初の負債管理取引を開始して、2.5億ユーロのデレバレッジを行ったが、2020年7月の2回目では未払債務ではニュートラルだったが、リファイナンスリスクは軽減された。さらに、2020年1月には、12.5億ユーロのシニア債務が償還された。

2020年1月8日に、2019年7月に発表したポルトガルでのSeguradoras Unidasとサービス企業のAdvance Careの100%買収が完了した。この買収は、Generaliの欧州でのリーダーシップ強化を目指すグループの3カ年戦略を実行する上で重要なステップとなる、と述べている。

2020年3月13日に、2019年5月7日の株主総会決議に基づき、Generali Groupの従業員のための最大600万株の株式買戻しを開始すると発表した。

Generaliは、2020年7月に、2022年に最初にコール可能な6億ユーロ相当の劣後債の買戻しと、2031年に満期を迎える6億ユーロのTier2の第2回目のグリーンボンドの発行を無事終了したと発表した。なお、Generaliは、2019年9月に最初にコール可能な2.5億ユーロ相当の劣後債の買戻しと、2030年に満期を迎える7.5億ユーロのTier2のグリーンボンドの発行を無事終了したと発表していた。今回は、グリーン/SRIのマンデートを持つファンドの代表格を含む、高度に分散化された約350の国際機関投資家ベースから、オファーの7倍以上の45億ユーロのオーダーブックを受けた、としている。今回の買戻しと新株発行により、2019年9月に実施した同様の負債管理に沿って、金融負債の支払利息のさらなる削減を実現することができることになる、と述べている。

2020年10月1日には、ポルトガルの100%所有の保険子会社全ての法的な合併のプロセスを終了したと発表した。

2020年10月23日には、3億ユーロの予約株式増資を引き受け、CATTOLICA ASSICURAZIONIの株主になると発表した。

2020年12月31日には、AXAのギリシャ子会社であるAXA Insurance S.A.の(2019年の収益の12.2倍に相当する1億6,500万ユーロでの)買収と、2040年までのALPHA BANKとのバンカシュアランス契約の延長により、ギリシャでのプレゼンスを強化すると発表した。この買収は、欧州でのリーダーシップを強化し、損害保険及び健康保険事業へのエクスポージャーをさらに拡大するというGeneraliの戦略に沿ったものであり、これにより、Generaliはギリシャの保険市場で主導的な役割を果たし、損害保険及び健康セグメント、また生命セグメントでの存在感を強化する、と述べている。

なお、Generaliは、2020年11月19日に開催刺された「投資家の日」のプレゼンテーションにおいて、資本配分の最適化を図るため、保有契約の生命保険ポートフォリオをさらに売却する可能性があることを述べている。Generaliは、ここ数年Generali Lebenの株式のViridium Groupへの売却や保証利率水準の高いオランダやベルギーの事業等を売却してきているが、主として保証水準の引き下げによって、さらなる生命保険事業の資本集約度の引き下げを目指している。例えば、イタリアでは、死亡保証のみの終身投資商品やハイブリッド商品に移行している。さらに、生命保険負債を裏付ける投資ポートフォリオを調整し、金利リスクを軽減するためにデュレ―ションを延長し、ポートフォリオ利回りを維持するためにオールタナティブ資産に資本を再配分している、と述べている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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