2021年04月01日

日銀短観(3月調査)~景況感は製造業で大きく改善したが、業種間格差が鮮明に、先行きは慎重な見方が根強い

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4.売上・利益計画:2021年度収益は小幅な増収増益計画に

2020年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比8.2%減(前回は8.6%減)、経常利益が同30.3%減(前回は35.3%減)とそれぞれやや上方修正された。大幅な減収減益計画ながら、それぞれマイナス幅がやや縮小している。

経常利益計画は、例年期初に保守的に見積もられ、6月調査において前年度実績の上方修正を受けてさらに下方修正された後、9月調査以降は上方修正に向かう傾向が強い。ただし、2020年度計画については事業環境の不透明感などから9月調査以降も大幅な下方修正が続き、前回調査時点でかなり保守的な計画になっていた可能性が高い。以降、製造業では生産の回復が続いたことも加わって、今回の上方修正に繋がったと考えられる。

なお、2020年度の想定ドル円レート(全規模全産業ベース)は106.66円(上期107.00円、下期106.32円)と前回(106.79円)からわずかに円高方向へ修正されている。直近の水準は110円台まで円安が進んでいるものの、もともと円高方向への修正が遅れていたうえ、年初に円高が進んだ影響が反映されたとみられる。ただし、依然として年度実績(106.04円)よりもやや円安水準にあり、修正が遅れている。
 
また、今回から集計・公表された2021年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比2.4%増、経常利益が同8.6%増と、増収増益計画が示されている。

例年、経常利益計画は年度始時点では保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナスでスタートする傾向が強いため、今回の増益計画は異例と言える。今後のワクチン普及に伴う経済活動正常化期待が織り込まれていると推測されるが、不確実性が高い点は否めない。また、比較対象となる2020年度の利益水準が極めて低いことも高い伸びに寄与している。実際、今回の2021年度利益計画は、2019年度との比較では24.3%低いレベルに留まっている。

なお、2021年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は106.07円(上期106.04円、下期106.10円)と、足下の実勢(110円台)よりもかなり円高の水準が想定されているため、今後、再び円高が進まなければ、円安方向への修正が入ることで今後の収益計画の上方修正要因になる。
(図表6)売上高計画
 (図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備投資・雇用

5.設備投資・雇用:今年度設備投資計画は下方修正、来年度へ一旦先送り

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から2ポイント低下の4となった。低下は2期連続となる。厳しい経営環境が続く対面サービス業を含む非製造業では横ばいに留まったが、生産活動が回復基調にある製造業が5ポイント低下し、全体としては過剰感がやや緩和した。しかし、依然としてプラス圏(「過剰」との回答が優勢)にある。

また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も前回から2ポイント低下の▲12となった。低下は2期連続となる。生産・営業用設備判断D.I.と同様、厳しい経営環境が続く対面サービス業を含む非製造業では横ばいに留まったが、生産活動が回復基調にある製造業が7ポイント低下し、全体としては過剰感がやや緩和した形だ。ただし、かつての人手不足感と比べると、不足感は緩和した状況にある。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回から2ポイント低下の▲6.1となり、小幅な不足超過となっている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が2ポイントの低下、雇用判断D.I.が4ポイントの低下となった。緊急事態宣言の全面解除等に伴う経済活動の持ち直しを見込んだ動きとみられるが、先行きの不透明感から大幅な低下は見込まれていない。この結果、「短観加重平均D.I.」も3.2ポイント低下の▲9.3と小幅な低下に留まる見込み。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2020年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比5.5%減(前回調査時点では同3.9%減)へと下方修正された。

例年3月調査(実績見込み)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としてはわずかな修正に留まる傾向があるが、今回は明確な下方修正となった。

昨年終盤以降、設備投資関連指標は持ち直しが確認できるものの、昨年度前半の落ち込みを補うほどの力強さはない。既往の収益悪化に伴って投資余力が低下しているほか、緊急事態宣言の再発令に伴う経済活動の停滞も投資マインドの逆風になったと考えられる。
 
また、今回から新たに調査・公表された2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2020年度見込み比で0.5%増となった。例年3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向があるが、今回は2020年度に計画されていた投資の一部が一旦先送りされることで、この時期としては異例の前年比プラスの伸びが示された。

ただし、あくまでも先送り分の計上に過ぎず、投資意欲が大幅に改善しているわけではない点には留意が必要になる。むしろ、前年度に大幅な減少となった割には慎重な印象を受ける。また、今年度に投資が実行されるかどうかもコロナの収束動向次第の面が強く、不透明感が否めない。
 
なお、2020年度設備投資計画(全規模全産業で前年比5.5%減)は市場予想(QUICK 集計4.6%減、当社予想は4.8%減)をやや下回る結果であった。一方、2021年度設備投資計画(全規模全産業で前年比0.5%増)は市場予想(QUICK 集計0.3減、当社予想は1.0%増)をやや上回る結果であった。
(図表11)設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)

6.企業金融

6.企業金融:企業の資金繰りはやや改善

企業の資金繰り判断D.I.(「楽である」-「苦しい」)は大企業が14と前回比3ポイント上昇、中小企業も6と前回比で2ポイント上昇した。非製造業は横ばいに留まったものの、生産が回復している製造業の改善(前回比5ポイント)が寄与した。

新型コロナの流行拡大を受けて、政府は「持続化給付金」や「無利子・無担保融資の拡充」を、日銀は民間金融機関での無利子・無担保融資のバックファイナンスを行う「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ」を導入し、企業の資金繰り支援に注力してきた。また、地方自治体も時短協力金などで減収分の一部補填を行ってきた。

こうした政策効果が資金繰りに寄与しているものの、D.I.の水準は未だコロナ流行前に戻ってはいない。コロナ禍が長引き、対面サービス業を中心に売上の低迷が続いている先が多いほか、これまでの資金調達で既に借入が膨らみ、一部では返済が始まりつつあるとみられることから、今後、企業の資金繰りが悪化に転じる懸念が残る。
 
一方、企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断D.I.(「緩い」-「厳しい」)については、大企業が前回比で1ポイント上昇、中小企業は横ばいとなった。ともに依然としてプラス圏(「緩い」が優勢)を維持しており、今のところ、リーマンショック後のような貸出態度の大幅な厳格化はみられない。こちらも「無利子・無担保融資の拡充」などの政策効果がプラスに寄与しているとみられる。
(図表14)資金繰り判断DI(全産業)/(図表15) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年04月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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