2021年03月16日

中国における人口問題-高齢化対策を「国家戦略」に格上げ

三尾 幸吉郎

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1――少子高齢化が加速する中国

中国国家統計局が公表した統計によると、2019年末時点の中国の総人口は14億5万人で、前年に比べて467万人増えた。中華人民共和国が建国された1949年の総人口は5億4167万人だったので、約2.6倍になった。この間の1960-61年には大躍進政策の失敗やその後の飢饉で2年連続減少したこともあったが、基本的には右肩上がりで増加してきた。ただし、人口増加率は低下傾向にあり、1950年代が年率1.8%増、1960年代が同2.3%増、1970年代が同1.7%増、1980年代が同1.5%増、1990年代が同1.0%増、2000年代が同0.6%増、そして2010年代は同0.5%増となっている[図表-1]。

人口増加率が低下した背景には、1979年に食糧難に備えて導入した「一人っ子政策」がある。出生率(年出生人数÷年平均人口)の推移を見ると[図表-2]、1950年代、1960年代は平均3%台で、1970年代も同2.4%と高水準だったが、1980年代に同2.1%へ低下し、その後も1990年代が同1.8%、2000年代が同1.3%、2010年代が同1.2%と低下してきている。他方で、経済発展とともに死亡率が低下し平均寿命が1981年の67.77歳から2018年には77歳に伸びた。そして、少子高齢化が加速した。
[図表-1]中国の人口/[図表-2]中国の出生率・死亡率の推移
そこで中国では、2013年に開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で「一人っ子政策」の軌道修正を決定し、2016年には「二人っ子政策」に移行した。これを受けて2016年の出生率は1.295%と前年を上回った。しかし、教育費など子育てコストが高いことを理由に二人目の子供の誕生を望まない家庭が多く、2019年の出生率は1.048%と建国以来最低の水準を更新することとなった。
 

2――「人口ボーナス」が「人口オーナス」に転換した中国

2――「人口ボーナス」が「人口オーナス」に転換した中国

こうした少子高齢化を背景に中国では、人口ピラミッドが改革開放直後(1982年)の「富士山型」から「つぼ型」へ変化していった。「富士山型」だった時期には、若年層(0~14歳)が厚く新たに生産年齢(15~64歳)に達する人口が年々増えることになるため、所得の伸びも高くなり、経済成長を後押しすることとなった(人口ボーナス)。しかし、「つぼ型」になった現在は[図表-3]、新たに生産年齢に達する若年層よりも、定年退職が視野に入ってくる準高齢層(55~64歳)の方が多いため、生産年齢人口はピークアウトし、経済成長の足かせとなってきた(人口オーナス)。中国における生産年齢人口は2013年の10億582万人がピークとなり、現在(2019年)は9億8913万人まで減少してきており、今後も減少傾向を辿りそうである[図表-4]。そして、中国では先進国になる前に高齢化が進んでしまう「未豊先老」の懸念が高まっている。
[図表-3]中国の人口ピラミッド(2019年)/[図表-4]中国の生産年齢人口の推移と予測

3――高齢化対策を「国家戦略」に格上げする中国

3――高齢化対策を「国家戦略」に格上げする中国

以上のような人口問題に直面した中国は、高齢化対策を本格化し始め、2021年から始まる第14次5ヵ年計画(~2025年)では高齢化社会への対応を「国家戦略」に格上げする見込みである1。具体的には、「二人っ子政策」のさらなる緩和、定年年齢2の引き上げ、年金改革など制度面での対策に加えて、医療・コミュニティーと連携した高齢者介護、包摂的な託児サービス体系の整備などさまざまな検討課題が挙がっている。

一方、日本はこうした人口問題に取り組み始めて久しい。国際連合のデータで60歳以上の人口比率を日中比較して見ると[図表-5]、中国は現在17.4%で、日本の1990年頃(17.3%)の水準に相当する。高齢化対策という観点では、日本は中国よりも30年先を行く先輩ということになる。その取り組み過程では、成功例が沢山あれば、失敗例も沢山ある。しかし、高齢化がこれから未知の領域に入る中国にとっては、こうした成功例・失敗例がいずれも参考になる経験であり、中国が高齢化対策に取り組む上では貴重な情報と言えるだろう。そして、日本で成功した高齢化ビジネスに関しては、中国に輸出する絶好のチャンスが到来すると見ている。
[図表-5]60歳以上の人口比率
 
1 国家発展改革委員会の胡祖才副主任は2021年3月8日、第14次5ヵ年計画に関する説明会見の中で「中国は新5ヵ年期間中に“中度高齢化”の段階に入ることが見込まれる。高齢化への積極的な対応を国家戦略に格上げする」と述べた。
2 現行の法定定年年齢は男性労働者・職員が満60歳、女性幹部が満55歳、女性労働者が満50歳。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年03月16日「保険・年金フォーカス」)

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