2021年02月17日

健康投資管理会計ガイドラインについて〔3〕-健康投資管理会計ガイドラインの第4章から第8章

小林 直人

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(4) 投資対効果の分析方法
投資対効果を測定・分析した結果、期待した健康関連の最終的な目標に到達していない場合は、個別の投資に紐付く健康投資施策の取組状況に関する指標や従業員等の意識変容・行動変容に関する指標がどのような状態であるかを把握し、個別の施策のPDCAサイクルを回すことが重要である。

また、投資対効果の分析方法を改めることで、見える化した情報を適切に分析し、より効果的で効率的な健康投資を行うことができる場合がある。投資対効果の分析方法として考えられる例として、「①投資最小化分析」、「②投資効果分析」、「③投資効用分析」、「④投資対便益分析」がある(図表4参照)。
図表4:健康投資効果の分析方法例
3|健康投資管理会計ガイドライン「6.健康資源の考え方」(第6章)
健康投資及び健康投資効果によって形成される、(1)従業員等を取り巻く有形・無形の企業等の内部の環境、(2)従業員等の健康状態やヘルスリテラシー等を健康資源とし、(1)を環境健康資源、(2)を人的健康資源と分類する。

毎年の健康投資によって環境健康資源が蓄積・向上することで、より効率的に健康投資効果を出せるようになることが期待される。健康投資効果のストックである人的健康資源についても、投資対効果や中長期的な企業価値や社会的価値の向上等に資すると考えられる。

環境健康資源において、財務会計上の資産として認識されて減価償却の対象となる資源については、金額換算する。ただし、減価償却を終えた後も健康資源として効用を発揮し続けることに留意する必要がある。具体的には、減価償却期間を終えても利用され続ける有形の資源については、償却終了後であることを付記して有形資源として計上することが適当である。

人的健康資源については、健康投資効果と同じ指標を用いる場合があるが、健康投資効果では単位期間あたりの変化量(フロー)を把握するのに対して、人的健康資源ではその時点での絶対量(ストック)を把握する。

また、単に疾病や状態不良の従業員等が少ないことを健康資源として評価するのではなく、病気と治療の両立や多様な状態が尊重される環境や制度、風土等の環境健康資源と合わせて評価することが適切である。

環境健康資源は主に健康投資の蓄積として現れ、人的健康資源は主に、健康投資効果に応じて蓄積するストックであり、図表5のような指標及び算出方法があると考えられる。
図表5:健康資源の分類と指標例
4|健康投資管理会計ガイドライン「7.企業価値の考え方」(第7章)
健康投資効果や健康資源の形成・蓄積が要因の一部となって表れる各種の財務指標・経営指標のほか、情報開示や対話によって各市場から受ける評価を企業価値とする。

健康経営®5によって経営課題やその解決につながる健康課題が解決されたことによる波及効果として企業価値が向上することが期待されるが、健康経営以外の要因が大きく影響すること、また健康投資が与える影響が計測できない場合がある。そのため、健康経営において企業価値の向上を経営課題として設定する際には、健康経営戦略の中で企業価値の向上を健康課題と接続させたストーリーを記述することが望ましい。

ガイドラインでは、その性質から企業の稼ぐ力と様々な市場からの評価に分類する(図表6)。
図表6:企業価値の分類と指標例
 
5 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
5|健康投資管理会計ガイドライン「8.社会的価値の考え方」(第8章)
健康経営を行う企業等が、地域や社会全体に肯定的な影響を与えることで、社会における様々な課題の解決(地域や日本全体の健康寿命の延伸、社会保障費の適正化等)につながっている波及効果を社会的価値とする。また、近年はESGの重要性が叫ばれており、社会への貢献が企業価値の向上にもつながり、相乗効果を生むと考えられる。よって、社会的価値は健康経営の実施による波及効果として評価することが出来る。

健康経営を行う企業等が社会的価値に波及効果を与える要因は、企業等の健康投資が目的外の影響として直接影響を与えるものと、企業等が健康経営によって蓄積した健康資源を活用することによって結果的に影響を与えるものがあると考えられる。

社会的価値としては図表7のような分類及び具体例が例示できる。
図表7:社会的価値の分類と具体例

3――おわりに

3――おわりに

本稿まで3稿に分けてガイドラインの第8章までを紹介した。「9.健康投資管理会計の作成と活用」(第9章)以降は稿を改めて紹介する予定である。
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小林 直人

研究・専門分野

(2021年02月17日「基礎研レター」)

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