2021年02月01日

巨大プラットフォーム企業と競争法(1)-Googleをめぐる競争法上の課題

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3|コロラド州などの提訴
2020年12月17日にコロラド州など29の州・準州・特別区の法務長官・司法長官がコロンビア地区の連邦地裁にGoogleを提訴した(以下コロラド訴訟という)15。コロラド訴訟は上記の司法省等訴訟と同様の主張をするとともに、若干の論点を補完して主張を行うものである。コロラド訴訟の訴状も黒塗りが多く、細部まで読み取ることが困難である。

主な補完的な主張ポイントを三つ挙げてみることとする。それは(1)文字列検索以外の音声やコネクティッドカーなどの検索市場における競争制限、(2)Googleの提供する検索連動型広告ツールと競合他社との相互運用制限、(3)一般検索サービスにおける垂直的プロバイダーの抑圧である。

まず(1)検索ワード以外の検索でも独占的な状態があると主張する。音声検索についてはAndroid端末ではGoogle Assistantがデフォルトで設定されているが、AppleのSiriやSamsonのBixbyにもデフォルトで設定されており、競合するAmazonのAlexaなどを排除したと主張する。また、コネクティッドカーのOSとして Android Automotiveは、上記の司法省等訴訟でいうAndroidと同じような排他的なライセンスを行っていると主張する(図表12)。
【図表12】音声検索と自動車用OS
次に、(2)検索連動型広告ツールであるが、Googleは、Search Ads 360(SA360)というサービスを運用している(このようなサービスをSearch Engine Marketing、SEMという)。SA360は広告主向けのツールで検索連動型広告を行うため、Googleの検索結果ページやその他の競合する一般的検索サービスの検索結果ページ等に広告を掲載することができる。検索連動型広告は、テキサス訴訟の訴状でみたGoogle Adsを通じても購入できるが、約半数の広告はSEM経由となっている。

コロラド訴訟では、このSA360において、Googleの検索結果に広告を優先的に掲示させ、Googleの広告量を増加させ、競合他社の広告量を減少させたと主張する。特に、SA360は、Microsoftとの相互運用を否定するといった反競争的な行為が存在すると主張する(図表13)。
【図表13】検索連動型広告(運用型広告の一種)
最後に訴状では、(3)一般検索サービスにおける垂直的プロバイダーの抑圧があると主張される。ここでいう垂直的プロバイダーとは、地域や商品、あるいは特定のサービスに特化した検索サイトなどが該当する。利用者が自分のよく利用するカテゴリの専門検索サイトを知ってしまえば、Google検索を通さず、専門検索サイトを直接利用することとなる可能性がある。訴状によると、このことを避けるため、Googleはカルーセル部分(図表4参照)の検索広告に垂直的プロバイダーの商品を掲載しないこととしていると主張する。また、Google検索結果の一番上(カルーセルより上)に検索ワードと関係のある情報を掲載されることがある。この部分をOneBoxという。Googleは垂直的プロバイダーについては、このOneBoxには掲載対象から外していると主張する。

コロラド訴訟では結果として、反競争的行為の禁止および救済が与えられるべきことを主張する。  

5――検討

5――検討

このようにEU委員会の課徴金命令等が出され、また米国司法省や各州が訴訟を起こしており、問題とされている論点は多岐にわたる。ここでは司法省等訴訟の一般検索サービス市場についての問題のみ検討対象としたい。
1|市場の画定
欧州・米国の競争法16における支配的な地位の濫用(私的独占の禁止)は、独占的な状態そのものを禁止するのではなく、独占的な地位のもとで、その地位を不当に維持し、あるいは他社を排除することが問題となる。

私的独占においては、一定の市場が画定され、その市場内で独占的地位にあることが要求される。そこでまず、各訴状にあるような市場があるのかが問題となる。市場とは売り手と買い手が取引を行うために競争を行う場である。簡単に言えば、売り手が商品Aについて価格を上げると買い手が商品Aに代替して別の商品Bを購入するように行動が変わるのであれば、商品Aだけの市場が存在するとは判断されない。他方、値の上がった商品Aを相変わらず買い手が買い続けざるを得ない場合に、商品Aだけの市場が存在するとされる。バナナの値段を上げたら、リンゴに需要が向かうのであれば、バナナだけの市場はない。しかし、値上げしたバナナが相変わらず買われるのであれば、バナナという固有の市場が画定される。

米国の司法省等訴状では、この市場の画定に当たって、他の市場との代替性がないことを主張している。司法省等訴訟で一定の市場があると主張されるのが一般検索サービス市場である。一般的な検索(たとえば「侃々諤々」の語義を調べる。近所の図書館の場所を検索するなど)は、他の飲食店やホテルなどの専門検索サービスではできない。したがって、独立した市場と言えそうである。

なお、一般検索サービスでは、無料サービスであることから「取引が行われる市場」といってよいのかが問題となる。この点、司法省等訴訟では、利用者の個人情報とアテンション(興味・注目)を検索広告市場で収益化していると説明している17。なお、日本の公正取引委員会では、このような無料サービスでは個人情報を対価として取引を行う市場があるものとしている18

ところで無料市場であると、市場を画定しようにも価格がないため、先に述べたバナナの例は使えない。そのため、司法省等訴訟の訴状では、価格ではなく、品質、特に個人情報の保護レベルを利用して市場確定を行っている。つまり、Googleの個人情報保護レベルに満足していない利用者であっても、使い続けるということであれば、そこに市場が確定されるとの考えである。

この点、Googleはどういっているのであろうか。手がかりとしては、先述の、米国下院の司法委員会反トラスト・商業・行政法小委員会の多数派提言でGoogle側の証言として述べられているところが参考になる。Googleとしては、市場では利用者のアテンションを獲得する競争が行われており、この観点からは、bingのような一般検索のほか、たとえばオンラインゲームなども競争相手となり、したがってGoogleは市場独占をしているわけではないとの主張である。

仮に、多数派提言で触れられているような主張だけをGoogleがしているとするならば、反論としては弱いと考える。無料市場はそもそも市場として画定すべきでないという主張に基づくものかと推測されるが、たとえばフリーミアム(無料サービスで利用者を集め、一部の人に有料サービスを提供して採算を得る事業モデル)などもあり、無料であること=市場が画定できないとは言いにくい。

仮に、以上のように市場画定が可能とすれば、上記で述べたような、シェアの大きさ(90%、モバイルでは95%)から言ってGoogleの独占的な地位は認められるものと考えられる。
 
16 欧州は欧州機能条約(TEFU)102条、米国はクレイトン法2条
17 司法省等訴状P10参照。
18 無料サービスであることが市場を否定することにならないことについては白石忠志「「プラットフォームと競争法」の諸論点をめぐる既存の議論」(ソフトロー研究第28号)P41参照。
2|反競争的・排他的な慣行といえるか
市場が画定でき、かつ支配的地位が認められるとすると、次は反競争的・排他的慣行といえるかである。この点は議論が必要である。

すなわち、司法省等訴訟における主張の根拠は、Google検索がスマートフォンなどモバイル端末の出荷時において、デフォルトで設定されている事実にすべてかかっている。利用者がGoogle検索からbingやDuckDuckGoに変えることができるのであるから、反競争的・排他的慣行とは言えないのではないかという疑問がある。

確かに、スマートフォンが普及する前から現在に至るまで、PCのOSはアップルかウィンドウズであった。ウィンドウズはエクスプローラー(現在は、エッジ)というブラウザをプレインストールしており、エクスプローラー等のデフォルトの検索はbingである。しかし、PCでも利用者はわざわざChromeをインストールして、あるいはGoogleをホームページに設定して、Google検索を利用してきた。ちなみに米国でPCのブラウザのうち、Chromeが占めるシェアは約60%である一方、エクスプローラー等のシェアは15%に過ぎない。

つまり、利用者がGoogle検索を利用するのは、Googleのウェブ検索システムの優秀さにあるのであって、デフォルトに設定してあるからではなく、したがって反競争的な慣行によるものではないという主張も十分成り立ちそうである。

ただ、参考にできる事例として、2009年、EUにおいてマイクロソフトが自社OSに自社ブラウザであるインターネットエクスプローラーを抱き合わせたことについて競争法(EU機能条約102条)違反の調査を受けたケースが存在することである。結果として、マイクロソフトは、ウィンドウズ利用者にブラウザの選択を容易に行えるようにするとともに、PCメーカーに対して競合ブラウザをデフォルトとして選択することを認める等の確約(Commitment)を行い、EU委員会が認可決定を行った19

司法省等訴訟の訴状によれば、少なくともスマートフォン等では、Google Playを利用させることと抱き合わせて、通信事業者等に検索バーやChromeのデフォルトの設定をさせ、併せて収益分配契約まで締結している。このことは上記マイクロソフトの事案を踏まえれば、他の一般検索サービス業者を排除することとなる競争法上問題のある行為との判断があり得る。

したがって、司法省等訴訟のストーリーが正しいとすれば反競争的と認定される可能性がある。
3|どのような是正措置が考えられるか
仮に、上記2|で述べた反競争的・排他的慣行が認められるとすれば、どのような是正措置が考えられるであろうか。

反競争的行為にかかる是正措置としては、まず、Googleと通信事業者等の間の協定から、一般検索サービスとしてデフォルト設定することなどの排他的条項を削除することが考えられる。これは契約書レベルの話であるので、比較的容易である。

ただし、上述のマイクロソフトのインターネットエクスプローラーの事例と異なり、そもそもGoogle検索のシェアが高すぎて代替しうる有力な一般検索サービスが存在しない。また、無数のウェブに索引をつけ、検索文字列に合致させるサービスに新規事業者が参入し、Googleに対抗する規模で運営することは、相当に困難である。したがって、競争の活性化効果は薄いように思われる。ただし、新たな技術を持つ一般検索サービス事業者が参入できる余地を残しておくことは重要と考える。

Google自体の解体はあるか。一般検索サービスの分割というのは想像しにくい。ただ、Googleの多様なサービスの一部を切り離すことで競争を活性化するということは検討の余地がある。先に述べた米国下院小委員会の多数派提言では、Googleのような支配的プラットフォームに関して構造的分離・事業部門の制限に関する立法を行うべきことを推奨している。理屈だけであれば、たとえばGoogleからAndroid事業を切り離すようなものも考えられよう。ただこの点は、軽々に判断が行えるような事柄ではなく、かつ本稿の扱える範囲を大きく超えるため、これ以上は立ち入らない。
 

6――おわりに

6――おわりに

デジタルプラットフォームにおいては、ネットワーク外部性あるいは二面市場における間接ネットワークがあるといわれる。Googleにおいては、一般検索の市場と検索広告の市場が二面市場を構成する。これは厳密に言えば、相互に間接ネットワークが生じているわけではない。確かに検索広告を掲載しようとする広告主にとって、検索サービス利用者の多いプラットフォームは「利用しなければならない(Must Use)」となる。しかし、もう一面の、検索サービス利用者は広告主が多いからと言ってプラットフォームを利用するわけではない。したがって、検索サービス利用者を如何に確保するかが、Googleにおいては課題であった。その推進力が検索サービスの精密さ(検索体験:エクスペリエンス)にあったことは間違いないと思う。Googleが、Google Playの競争力を利用して、司法省等訴訟で述べられたような行為をデフォルト設定のための行為として行っているのかどうか、そしてその行為は反競争的と評価できるかどうかが論点となっている。

このような論点につき、仮に米・EUで当局が主張するような事実が認められるとすれば、日本の独占禁止法の適用も検討されるべきところである。不公正な取引方法である排他条件付き取引や優越的地位の濫用、さらには私的独占の禁止に該当するかどうかの多面的な議論も必要となる。

ただ、日本においてGoogleは合同会社を設けているものの、実際の運営主体は海外に存在するようであり、独占禁止法の域外適用が問題となる。域外適用では、日本の公正取引委員会がとりうる手段は実態として限定されざるを得ない。さまざまな取引や約定がネット上で行われており、契約主体が日本国内にない場合では、具体的な行政措置あるいは訴訟は困難が想定される。

この観点からは、米・EUの立法動向を注視しつつ、特別立法や独占禁止法の特例などを検討していくことも考えられる。公正取引委員会が現在、デジタルプラットフォーマーに関する情報提供を求めているのも、この文脈から理解できる20。ややもするとGoogleを罰するということが目的化しそうであるが、視点を変えて、競争の本質が従来の概念ではとらえきれなくなった新しいデジタルの市場での競争活性化という観点から、どのような姿が望ましいのかということからの議論が必要であろう。

Googleについては、一般検索や検索連動型広告だけではなく、ブラウザ(Chrome)や地図アプリ(Google Map)、クラウド(Google Cloud Platform)においても市場における支配的あるいは有力な地位を有している。これらについては、後日稿を改めて論じたい。
 
20 公正取引員会の通報窓口 https://www.jftc.go.jp/cgi-bin/formmail/formmail.cgi?d=digitpf
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

(2021年02月01日「基礎研レポート」)

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