2020年09月11日

図表でみる中国経済(自動車市場編)

三尾 幸吉郎

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1――新型コロナ禍からV字回復した中国自動車市場

[図表-1]自動車販売の推移 中国では自動車販売がV字回復している。世界で最初に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の爆発的感染(オーバーシュート)に見舞われた中国では、1月の自動車販売が193万台、2月が31万台で1-2月計では224万台と、前年同期の385万台に比べて41.9%減に落ち込んだ[図表-1]。そして、3月も143万台に留まり前年同期比43.2%減と低迷したが、4月には同4.5%増と前年水準を上回り、その後も2桁の伸びを続けている。このV字回復の背景には新型コロナ禍が収束に向かったことがある。中国本土で新たに確認されたCOVID-19の症例数は4月以降、多くても100名ほどという状況が続いて[図表-2]。しかし、新型コロナ禍の“第2波”襲来を恐れる中国政府は極めて慎重に経済活動を再開させる方針を採用しており、道路通行者数は7月になっても20年1月の7割弱に留まる[図表-3]。そこで、自動車販売が急回復したもうひとつの背景として注目されるのが商用車の急増である。20年1-7月期累計で見ると、乗用車は前年同期比18.4%減と大幅な前年割れだったが、商用車は同14.4%増と大幅に前年水準を上回っており、特に5月以降は前年同月比で5割前後の極めて高い伸びを示した。したがって、ここもとの自動車販売の急回復は、個人の自動車需要が増えたという面もあるが、それ以上に新型コロナ禍でトラック輸送需要が増えたことや、新型コロナ禍で一時停止した建築需要が持ち直したことが主因と考えられる。
このように、中国の自動車市場の動きを探る上では、その特徴を統計的に把握することがとても重要だと思われる。そこで、本稿では中国の自動車市場に関する基本的なデータを、具体的に図表を用いてご紹介することとしたい。
[図表-2]COVID-19の新規確認症例/[図表-3]中国の道路通行者数の推移

2――中国自動車市場の規模

2――中国自動車市場の規模

国際自動車工業連合会(OICA)によれば2019年に世界で販売された自動車は9,130万台だった。国別内訳を見ると[図表-4]、中国は2,577万台で全体の28.2%を占め、欧州(2,081万台)や米国(1,748万台)をしのぐ世界最大の自動車市場となっている。そして、日本の自動車市場(520万台)と比べると約5倍の規模に達している。これを世界金融危機前(2006年)の自動車市場と比べてみると、世界全体では当時の6,835万台から2,294万台増えて1.34倍に拡大している。当時の世界の自動車市場を見渡すと、欧州は2,186万台、米国は1,705万台、日本は574万台が販売されており、現在とそれほど大きな違いはない。他方、中国での販売台数は当時の722万台から3.57倍に急増しており、この間に増加した販売台数(1,855万台)は世界全体の増加台数の8割を占めている。

なお、中国都市部の家庭が所有する乗用車は百戸当たり43.16台(2019年)と日本など先進国と比べて普及がまだ遅れている。現在、中国の一人当たりGDPは約1万ドルだが、今後も経済発展が続いてますます豊かになれば、中国の自動車市場はさらに拡大する可能性が高いと考えられる[図表-5]。
[図表-4]世界の自動車販売シェア(2019年)/[図表-5]日本の経済発展と中国の現水準

3――国内販売状況と輸入比率

3――国内販売状況と輸入比率

それでは、中国ではどんな自動車が販売されているのだろうか。まず、中国では自動車を乗用車と商用車の2つに大分類しており、中国自動車工業協会の統計によれば、2019年の乗用車販売は2,144万台(シェア83.2%)、商用車販売は432万台(シェア16.8%)となっている[図表-6]。

さらに、乗用車の内訳を見ると、セダンが1,031万台で全体の48.1%を占め、SUV(スポーツ用多目的車)が43.6%を占め、MPV(多目的乗用車)が6.5%を占めている。なお、新エネ車(NEV)の販売が増えており、内訳はEV(電気自動車)が3.9%、PHV(プラグインハイブリッド)が1.1%となっている。また、排気量別に見ると、1-1.6リットルの車が66%を占め自動車販売の中心となっている一方、2リットルを超える車は全体の2.3%に留まる[図表-7]。

他方、第1章でここもと商用車の販売が急増していることに言及したが、その内訳ではトラックが62.9%を占めており、牽引トラックが13.1%を占め、バスが10.3%を占めている。なお、商用車でも新エネ車(NEV)が増加しており、EVが3.1%、PHVが0.1%となっている。
[図表-6]自動車販売の内訳/[図表-7]国内生産乗用車の排気量別販売状況(2019年)
一方、中国が2019年に輸入した自動車は中国税関総署によれば105万台で、輸入元別に見ると日本からの輸入が33万台(シェア31.8%)で最も多く、次いでドイツ(シェア26.5%)、米国(シェア18.3%)、スロバキア(シェア6.8%)となっている[図表-8]。但し、2019年に中国で販売された自動車全体に占める比率は約4%とごくわずかである。ところが、中国各地で街を走る車を見るとドイツ系や日系などのブランド車が多い。その背景には、世界の主要な自動車メーカーが中国メーカーと現地に合弁会社を作り、そこで現地生産・現地販売していることがある。乗用車のブランド別販売状況を見ると、ドイツ系が520万台、日系が458万台、米国系が191万台、韓国系が101万台などとなっており、合わせると中国系の840万台をはるかに上回っている。なお、ここもと中国では日系車の販売が好調で、2016年まで15%台だったシェアが最近では2割を超えてきた[図表-9]。
[図表-8]自動車の輸入元別シェア(2019年)/[図表-9]ブランド別乗用車販売(2019年)

4――国内生産状況と輸出比率

4――国内生産状況と輸出比率

一方、2019年に世界で生産された自動車は、国際自動車工業連合会(OICA)によれば9,179万台だった。国別内訳を見ると[図表-10]、中国は2,572万台で全体の28.0%を占め、欧州(2,131万台)や米国(1,088万台)をしのぐ世界最大の自動車生産国となっており、日本(968万台)と比べると約2.7倍である。前述の販売台数と比べると[図表-4]、世界全体では49万台の生産超過だった一方、中国は小幅ながらも5万台ほどの販売超過となっていた。「世界の工場」と呼ばれる中国ではあるが、自動車に関しては生産と販売がほぼ均衡している。ちなみに、自動車消費大国の米国は大幅な(660万台の)販売超過、自動車生産大国の日本は大幅な(449万台の)生産超過だった。また、中国税関総署によれば中国が2019年に輸出した自動車は122万台で、国内生産車に占める輸出の比率は4.7%に留まる。なお、輸出先を確認しておくと、バングラデシュが15万台(シェア12.0%)、次いでメキシコ(シェア9.3%)、インド(シェア6.9%)などと新興国が多く、先進国への輸出は少ない[図表-11]。
[図表-10]世界の自動車生産シェア(2019年)/[図表-11]自動車の輸出先別シェア(2019年)
したがって、国内販売に占める輸入比率が低く、国内生産に占める輸出比率も低く、国内生産と国内販売がほぼ均衡していることを考え合わせると、中国の自動車市場は典型的な“地産地消型”だといえるだろう。
 

5――世界が注目する新エネ車(NEV)市場

5――世界が注目する新エネ車(NEV)市場

国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Outlook 2020」によれば、2019年に世界で販売された新エネ車(NEV)は210万台だった。国別内訳を見ると中国は世界の半分を占める新エネ車大国となっている[図表-12]。なお、自動車販売全体に占める新エネ車の比率を見ると、中国は4.1%で、ノルウェー(42.0%)やオランダ(12.5%)には遠く及ばないものの、米国、英国、ドイツ、フランス、日本など主要先進国をやや上回る水準にある[図表-13]。

中国政府は、世界的な環境規制強化の流れを背景に、近い将来ガソリンエンジン車から新エネ車へと主戦場が切り替わる“カーブ”に差し掛かったと見立て、新エネ車の比率を2025年に25%まで引き上げるという意欲的な目標を掲げて、新エネ車メーカーの育成に取り組んでいる。そして、比亜迪(BYD、北京新能源(BJEV)、小鵬汽車など有力なメーカーが育ちつつある。

他方、世界展開する外資系メーカーも、中国の新エネ車市場は、同時進行するインテリジェント化や自動運転化の動きと相俟って将来有望だと見て動き出している。米国のテスラは上海に新工場“ギガ上海”を建設して20年1月には主力小型車「モデル3」の顧客納入を始め、日本のトヨタも比亜迪(BYD)と共同開発を始めたり、燃料電池車(FCV)の部品提供を始めたりしている。
[図表-12]世界の新エネ車(NEV)販売(209年)/[図表-13]新エネ車(NEV)販売が全体に占める比率(2019年)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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(2020年09月11日「基礎研レター」)

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