2020年07月24日

EUソルベンシーIIの動向-EIOPAが2021年適用のUFR(終局フォワードレート)水準を公表-

中村 亮一

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1―はじめに

生命保険会社の責任準備金の評価において重要な意味を持つ、超長期の金利水準の設定に関連して、EUのソルベンシーIIにおいて導入されているUFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)については、2017年5月23日に「UFRの算出とその実施のための方法論に関するコンサルテーション・ペーパーNo. 16/003に関する最終報告書」1が公表され、その設定手法等の見直しが行われて、2018年1月から適用されてきた。これについては、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための方法論に関するCPの最終報告書を公表」(2017.5.24)で報告した。

その後、毎年この方式に基づいたUFR水準の見直しが行われてきていたが、これまでは結果的に、2017年の計算で想定されたように、毎年15bpsの引き下げが行われてきていた。今回EIOPAは、2020年7月17日に、「2021年のUFRの計算に関するリスクフリーレート期間構造に関する報告書」1を公表した。

これまでの超低金利環境と過去の計算結果から、想定されていたことではあるが、今回の計算により、2021年のUFRの水準が初めて、2017年の計算で想定されていた水準とは異なるものとなることが確定したので、このレポートで報告する。
 
1 「Final Report on Consultation Paper No. 16/003 on the methodology to derive the ultimate forward rate and its implementation」(2017.5.17)
  EIOPAの以下のWebサイトによる。 
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/Final%20Report%20on%20Consultation%20Paper%20No%2016003%20on%20the%20methodology%20to%20derive%20the%20UFR.pdf
2 https://www.eiopa.europa.eu/sites/default/files/risk_free_interest_rate/eiopa-bos-20-090-report-on-the-calculation-of-ufr-2021.pdf
 

2―現在のUFR算出のための方法論の概要

2―現在のUFR算出のための方法論の概要

現在のUFR算出のための方法論の概要については、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(1)-」(2017.4.11)で報告しているが、ここで概要を述べておく。

なお、こうしたUFRの算出方法については、「EIOPAのリスクフリーレート期間構造を導出するための方法論の技術的文書」(2019年9月12日)3に規定されている。
1|UFR水準の決定方法
UFRの水準は通貨毎に決定され、年間変更制限前のUFRは、(1)期待実質金利と、(2)期待インフレ率、の合計となる。期待実質金利は、各通貨について同一で、期待インフレ率は通貨別となる。

(1)期待実質金利
期待実質金利は、1961年からUFRの再計算前の年間実質金利の単純算術平均となる。1961年以降の毎年、年間実質金利は、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国、米国の年間実質金利の単純算術平均として、以下の算式で算出される。

実質金利=(短期名目金利―インフレ率)/(1+インフレ率)

ここで、短期名目金利は、欧州委員会(AMECOデータベース4)の年次マクロ経済データベースから取得され、インフレ率は、OECDの主要経済指標データベースから取得されている。

期待実質金利は5bps単位に丸め処理されるが、1) 丸められていない金利が前年の丸められた金利よりも低い場合は、金利は上方に丸められ、2) 丸められていない金利が前年の丸められた金利よりも高い場合は、金利は下方に丸められる。

(2)期待インフレ率
1) 中央銀行がインフレ目標を発表した通貨
期待インフレ率は、各国の中央銀行の定めるインフレ目標に基づいて、以下のルールで決定される。

・インフレ目標が1%以下である場合       1%
・インフレ目標が1%より高く3%より低い場合   2%
・インフレ目標が3%以上4%未満である場合      3%
・インフレ目標が4%以上の場合         4%
・中央銀行が特定のインフレ率を目標にしておらず、特定のコリドーにインフレーションを維持しようとしている場合、そのコリドーの中間点が4つのインフレ率バケットへの分類に関係する。

2) 中央銀行がインフレ目標を発表していない通貨
期待インフレ率はデフォルトで2%

しかし、過去のインフレ経験とインフレ予測が、インフレ率が長期的には2%より少なくとも1%ポイント高いか低くなることを明らかに示している場合、期待インフレ率は それらの指標に一致するように選ばれる。

過去のインフレ率は、10年間のインフレ率の平均と比較して評価される。インフレ率予測は、自己回帰移動平均モデルに基づいて導き出される。
 
4 AMECOは、欧州委員会の経済金融総局(Directorate General for Economic and Financial Affairs)の年次マクロ経済データベースである。
2|年間変更幅の制限
各通貨について、毎年のUFRの変動幅は15 bpsに制限されるか、または変更されないままとなる(UFR変更の頻度を大幅に減らすために、UFRは、計算されたUFRと現在適用されるUFRとの差異が15bpsを超える場合にのみ変更される)。

具体的には以下の算式による。
UFRの変動幅
ここに、は、年間変更制限後のt年におけるUFR
は、年間変更制限後の(t-1)年におけるUFR
は、年間変更制限前のt年におけるUFR
また、は、その時に適用されるUFRからの方法論によって、毎年計算される。
UFRの水準(2017年の計算時想定)
この方法論に従った場合のUFRの水準について、2017年時点での計算によると、本来的には3.65%となるが、毎年15bpsの変動制限があることから、例えばユーロの場合、以下のように推移することが想定されていた。

2017年 4.2%
2018年 4.05%
2019年 3.9%
2020年 3.75%
2021年 3.65%
 

3―2021年のUFRに対する計算結果

3―2021年のUFRに対する計算結果

今回のEIOPAの公表情報によると、2021年のUFRに対する計算結果等は、以下の通りになる。

1|概要
ユーロについては、2020年のUFR計算値は3.50%である。現在のユーロのUFRは3.75%であり、UFRの年次変動は15bpsに限定された方法論に従っているため、「2021年の適用UFRは3.60%」となる。このUFRは、2021年1月1日のリスクフリーレートの計算に初めて適用される。
2|今回の計算結果
(1)期待実質金利
UFRは、期待実質金利と期待インフレ率の合計である。期待実質金利は全ての通貨で同じで、1961年以降の過去の実質金利を単純平均したものとなる。

2021年の期待実質金利の計算には、2019年の観測実質金利(▲1.32%)が新たに加わった結果、期待実質金利は1.50%になる。

(2)期待インフレ率
期待インフレ率は通貨によって異なる。これは中央銀行のインフレ目標に基づいており、1%、2%、3%、または4%の値を取ることができる。

予想インフレ率は、全ての通貨で変わらない。

なお、各国の予想インフレ率とインフレ目標を持たない通貨の期待実質レートの導出について、公表されている。

(3)計算されたUFRと2021年の適用UFR
今回計算されたUFRと2021年の適用UFRは、通貨毎に以下の通りとなる。
今回計算されたUFRと2021年の適用UFR

4―適用UFR水準の過去からの推移と今後の想定

4―適用UFR水準の過去からの推移と今後の想定

1|過去からの推移
現在の方法論に従って計算された過去の毎年の計算結果と実際の適用UFR水準の推移は、ユーロの場合(日本円も同じ)に、以下の通りとなっている。
過去の毎年の計算結果と実際の適用UFR水準の推移
2|今後の想定
現在の低金利環境が継続し、さらには各国のインフレ目標等に変更がないと仮定した場合には、現在の方法論に基づく「計算されたUFR」はさらに毎年0.05%ずつ低下していくことが想定されることになる。

この場合、2021年計算時の「計算されたUFR」は3.45%となり、2022年の「適用UFR」は3.45%となる。これにより、これまでの経過措置的な水準調整が終わり、その後は定められた方法論に基づくUFR水準の決定が行われていくことになる。

また、その後も先に述べたような前提条件等に大きな変更がない場合には、毎年「計算されたUFR」が0.05%ずつ低下していくことが想定されることになる。この場合には、次にUFR水準が引き下げられるのは2025年でその水準は3.30%ということになる。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが公表したUFRの計算結果と2021年の適用UFR水準について報告した。

UFRを巡る状況については、利害関係者の関心も高いことから、引き続き注視して、その動向をフォローしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年07月24日「保険・年金フォーカス」)

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