2020年07月16日

コロナ禍の10代の不安

第1回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査~10代編

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

井上 智紀

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1――はじめに~大人より早くから生活変化の影響を受けた10代、新型コロナに対する不安は?

コロナ禍の10代で増えた行動、減った行動1」では、スマートフォン世代である15~19歳の男女420名を対象とする調査2を用いて、新型コロナウイルスの感染拡大による生活行動の変化を捉えた。

その結果、ネット動画やSNSなどスマートフォンを利用して視聴するメディアの利用が増えているといった当該世代らしい特徴のほか、オンライン講義への対応が進み、平常時から行動や交流範囲の広い大学生で比較的大きな変化を受けている様子が見えた。

本稿では、コロナ禍における10代の不安について捉える。3月初旬に政府が全国一斉休校を要請したため、10代は大人より早くから新型コロナによる生活変化の影響を受けている。進学や就職を控える10代では社会情勢の急速な変化に対する不安も大きいのではないだろうか。
 
1 久我尚子・井上智紀「コロナ禍の10代で増えた行動、減った行動」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2020/7/14)
2 ニッセイ基礎研究所「第1回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査~10代編」、調査時期は2020年7月3日、調査対象は全国に住む15~19歳の男女、LINEリサーチのモニターを利用、有効回答420。
 

2――コロナ禍の不安

2――コロナ禍の不安~9割超が不安

1全体・性別~91.9%は何らかの不安あり、自分や家族、友人・知人の感染への不安が5割以上
15~19歳に対して、新型コロナの影響で不安に思うことについて21項目をあげてたずねたところ、最も多いのは「自分の感染」(60.2%)であり、次いで僅差で「家族の感染」(60.0%)、「友人・知人の感染」(56.9%)、「自分が感染源になる」(42.1%)と、感染関連の不安が上位に並ぶ(図表1)。

さらに、「運動不足で太ったり不健康になる」(37.6%)や「勉強の遅れによる学力低下」(36.4%)、「感染による偏見や中傷」(32.4%)、「受験や就職への悪影響」(31.7%)、「友人と会えずに距離ができる」(31.0%)が3割台で続く。

一方で「SNSの利用が増えてネット上のトラブルが増加」や「メールやLINEでの交流が増えてトラブルが増加」といったインターネット関連のトラブルに対する不安は10%未満である。スマートフォン世代は日頃からネット上でのコミュニケーションに慣れ親しんでいる。よって、SNSなどの利用が増えたとしても、トラブルについては、さほど不安に思わないのかもしれない。

なお、「特に不安に思うことはない」は8.1%であるため、残りの91.9%は新型コロナに対して何らかの不安を感じていることになる。
図表1 15~19歳が新型コロナに対して不安に思うこと(複数選択)
2性別~男性86.7%、女性97.1%に何らかの不安あり、女性は運動不足で太る不安が男性の2倍以上
性別に見ても全体と選択割合の順序は同様である。また、「経済的理由で進学をあきらめる」を除けば、いずれも女性が男性を上回り、全体的に女性の方が新型コロナに対する不安が強い3(図表2)。なお、何らかの不安を感じている割合は、男性86.7%、女性97.1%(男性+10.4%pt)である。

男女の差が大きなもの(いずれも女性が男性を上回る)を見ると、最も差が大きいのは「運動不足で太ったり不健康になる」(女性が男性より+28.6%pt)であり、次いで、「生活リズムが戻らない」や「家族の感染」(各+15.2%pt)、「友人・知人の感染」や「海外留学や旅行の機会減少」、「自分の感染」(各+12.9%pt)、「感染による偏見や中傷」(+12.4%pt)、「勉強の遅れによる学力低下」(+11.0%pt)、「家族と過ごす時間が増えてストレスが溜まる」(+10.5%pt)、「自分が感染源になる」(+10.0%pt)の順で続く。

最も差の大きな「運動不足で太ったり不健康になる」では女性の選択割合は男性の2倍以上である。美容などを意識し始める年頃のためか、女性では運動不足で太ることへの不安が強いようだ。
図表2 性別に見た15~19歳が新型コロナに対して不安に思うこと(複数選択)
 
3 これは20~60歳代を対象とした調査でも同様である。
3学生種別~高校生は勉強の遅れ、大学生は生活の乱れや友人との距離、留学機会の減少等が不安
学生種別に見ても全体と選択割合の順序は同様であり、何らかの不安を感じている割合は大学生(96.3%)、高校生・高専生(90.9%)、専門学校・短大生(88.6%)の順に高い(図表3)。

高校生・高専生では「勉強の遅れによる学力低下」(全体より+5.3%pt)が、大学生では「運動不足で太ったり不健康になる」(+13.3%pt)や「生活リズムが戻らない」(+10.8%pt)、「友人と会えずに距離ができる」(+9.7%pt)、「海外留学や旅行の機会減少」(+8.5%pt)、「コロナうつ」(+5.6%pt)が全体を上回る。

3月の全国一斉休校の後、4月の新学期に再開した学校もあるが、緊急事態宣言の発令で再び休校となった。緊急事態宣言が解除された現在でも、短縮授業や分散登校などの形を取るところも多い。感染者数の多い都市部の学校ほど影響は大きく、学習格差が懸念される。このような中、文部科学省は各大学に対して今年度の個別試験(2次試験)の出題範囲を例年より絞るように求めた4。しかし、国立大学協会は感染者への追試験や出願期間の拡大には対応するが、出題範囲の配慮はしない方針だ5。大学受験を控える高校生など、受験生にとって勉強の遅れは深刻な悩みとして挙げられるのも当然といえよう。

大学生では運動不足や生活リズムが戻らないこと、海外留学や旅行機会の減少、友人との距離がひらくことへの不安が強い。これは前稿で見た通り、大学生では中高生と比べてオンライン講義への対応が進み、平常時から行動や交流の範囲が広いため、新型コロナによる生活行動の増減が大きい(家の中で過ごす行動が増え、外出を伴う行動は減る)ことが影響しているのだろう。
図表3 学生種別・家族と同居状態別に見た15~19歳が新型コロナに対して不安に思うこと(複数選択)(%)
 
4 文部科学省「令和3年度大学入学者選抜実施要項」及び文部科学大臣記者会見(令和2年6月19日)
5 朝日新聞「大学入試範囲、配慮しない案 文科省要請に国大協」(朝刊26面、2020年6月30日)をはじめ各種報道
4家族との同居状態別~別居は自分より家族の感染が不安、人と会う機会が減り「コロナうつ」も不安
家族との同居状態別に見ると、何らかの不安を感じている割合は、別居(95.0%)が同居(91.9%)をやや上回る。

また、同居では全体と選択割合の順序は同様であり、最も多いのは「自分の感染」(61.5%)で、次いで僅差で「家族の感染」(60.0%)、「友人・知人の感染」(57.5%)と続く。一方、別居では最も多いのは「家族の感染」(57.5%)であり、次いで「友人・知人の感染」(52.5%)、「自分の感染」(47.5%)と続き、1位から3位までの選択割合の差が比較的大きい。

一人暮らしの若者は自宅での感染のリスクが低く、若いため重症化リスクも低い。一方で、離れて住む親は、どちらのリスクも比較的高くなる。また、緊急事態宣言発令中は感染拡大を防止するために、政府や自治体から都市部で一人暮らしをする若者に対して、地方の実家への規制を自粛するような呼びかけもされていた。離れて住む家族と会えずに、家族への心配が膨らみやすい。その結果、家族と別居では「自分の感染」と比べて「家族の感染」に対する不安が強くなるのだろう。

このほか、別居では「コロナうつ」(+11.8%pt)や「海外留学や旅行の機会減少」(+5.1%pt)が全体を上回る。前稿で見た通り、家族と別居では、家族や友人と過ごすことが大きく減っている。コロナ禍で人と会わずに自宅に一人でこもる時間が増えることで、うつへの懸念が強いのだろう。
5外出行動で減ったもの別~外出行動減少層で感染不安や不健全な生活不安、進学・就職不安が強い
感染をはじめとした不安の強さは外出行動にも(あるいは外出行動の減少が不安の強さにも)影響していると考えられる。よって、外出行動で減ったもの別6に不安の状況を捉える。なお、外出行動と不安は、これまでの属性と比べて密接に関係していると考え、ここでは不安の種類別に状況を捉える。

外出行動で減ったもの別に見ると、外出や学校活動などの外出行動全般で「自分の感染」などの感染不安や「運動不足で太ったり不健康になる」などの不健全な生活不安、「勉強の遅れによる学力低下」などの進学・就職不安の各項目が全体を上回る(図表4)。これらより、感染不安の強さから外出行動をより控えている様子に加えて、外出や通学などが減り生活のメリハリがなくなったことで不健全な生活不安が、通学が減り勉強の機会などが減ったことで進学・就職不安が、それぞれより強い様子がうかがえる。

なお、部活やサークル、趣味や習い事が減った層では「友人と会えずに距離ができる」や「コロナうつ」などの人間関係不安が全体を上回る。これまで加わっていた外部の輪に参加しにくくなり、人と会う機会が減ったことで人間関係不安がより強いのだろう。

アルバイトが減った層では、経済不安のうち「親や自分の収入減少による生活苦」が全体を上回る。なお、東京都をはじめとした自治体では、アルバイト収入を失うなど、経済的に困難な状況にある大学生等を対象に、緊急雇用対策として非常勤職員の募集を実施している。
図表4 外出行動で減ったもの別に見た15~19歳が新型コロナに対して不安に思うこと(複数選択)(%)
 
6 外出行動の増減についての詳細は前稿参照
 

3――おわりに

3――おわりに~将来、コロナ世代と言われないような進学・就職、成長機会の環境整備が必要

コロナ禍の15~19歳の不安を見たところ、社会情勢が変わる中で、大学受験を控える高校生などでは勉強の遅れに対する不安が強く、一人暮らしの学生では離れて暮らす家族の心配や人と会えないことでコロナうつに対する不安が強いようだ。また、感染不安から外出行動を控える一方で、通学やサークル活動などの外出行動が減ったことで進学・就職や不健全な生活、友人との距離などへの不安が生じているという両面も見えた。

15~19歳の9割超が新型コロナに対して何らかの不安を感じている。将来、彼らがコロナ世代と言われることの無いよう、感染拡大の収束が見えない中でも、進学や就職といった選択や成長の機会が損なわれることのないような環境整備が求められる。

次稿では15~19歳の新型コロナによる生活変化の見通しについて捉えていく。

(2020年07月16日「基礎研レター」)

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井上 智紀

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